令和元年
島春句
日常を含む病院が含む師走
短日や大きく赤く売家札
柚子捥ぐやこんもりのその浅層の
日漸く眉に当たりぬ秋刀魚焼く
流れ一筋にとびとび紅葉宿
登り詰めここから降る紅葉谷
酔へる態に子たち走るや紅葉坂
今更の紅葉塗れに駐車場
紅葉狩を圧縮せしめバイキング
黒もどこか潜めり紅葉山熟視
島春句
身振り手振りで造形の初日の出
炬燵から足抜き屠蘇の座に参ず
右肩の反りをそのまま鏡餅
初夢を思ひ浮かべんこれ懸命
裏庭を若菜野として踏みにけり
大根を引いて疲れたとの仕種
大根畑の首にいらいら夕間暮
板間の大根跨ぐや耳遠き人に
取らげ置く冬至南瓜に蹴躓き
短日の箸を三べん洗ひたる
島春句
底冷えの掃き終へてなほ雲の下
白息を浮かせてハイヒールの身軽
吹き出しがつかぬ場面に息白し
日向ぼこしている皆の腹の虫
竹馬のまま戻り来て縁将棋
掘り炬燵噂をすれば影が来し
霜焼の拳インコが乗りたがる
寒日向城跡公園なるひとり
水盤に浮草が粒寒の内
寒の水を滴の単位や部屋の鉢
島春句
風強くしゃがんで話す沈丁花
恋猫の界隈の婆強靭に
褒められしほっぺを東風が撫でにけり
ガンバローの腕を伸ばせば梅開き
春を待つコーンスープに舌を焼き
冬芽して挨拶長き老いばかり
ストレッチ済み雪嶺へ首座る
介護さるるや山眠る懐に
霜柱歯の根合はさず踏み終り
魚店の暇な前垂れ春隣
島春句
ルームシェアしたベランダに蝶とゐる
蝶一頭のまま一冊読了しても
紙片蝶に似る日と蝶が似る日とが
三世代の祖父の裁定摘み草に
花遊びあれこれピクニックの祖母で
無色無柄のコップに四葉のクローバー
すぐ脇のテレビに古雛身じろがず
ディズニーの空き菓子函の雛あられ
賞に入った図画飾る部屋雛祭る
椿山よりポケットに火山礫
島春句
草餅や電波交はして知恵貰ひ
草芳し高望みして部屋籠り
カーナビを罵り居れば遅桜
水割りの酎でも落花浮かべよう
何も持たず何も負はずや花盛
芽柳に身體のフォルム続きけり
蒲公英の綿毛と帰路や山をとこ
ぶらんこや数は二十で繰り返し
パンジーは親衛隊よばらの苗
チューリップ微熱があるといふ容
島春句
葉桜やただ荷の重く立ち止まり
柿若葉喉の渇きがひそみ居し
若楓観てゐて赤を抽出す
黄金週間初日を除草剤散布
令和今日耳語となりたる暮れにけり
憲法記念日の俳書を取捨整理
一刻千金をその色調にてスマホ
無人島にて真っ先に霞みけり
居住階への外階段や初つばめ
遠足を苔にルーペで腹這へる
島春句
夫唱婦随の白あぢさゐも亦よろし
顎で指す紫陽花切りに裾捲り
降り際はてんでばらばら紫陽花に
あぢさゐを突き刺し突き刺し雨始む
児童から生徒の歩調梅雨の傘
窓が目で庇が眉で永い梅雨
牛丼や凝ったハンカチこの漢
螺旋階段で短パン発光す
ステテコや人工芝の早緑に
戯れにチョキの指遣るばらの頤
島春句
ペン咥へ裸にしたるマスカット
メロン掬ふ座布団はふかふかにして
地球儀のやうに白桃ひと回し
乾杯の仕種でバナナ剥き垂らし
枇杷の種べろもくちびるも不老
パイナップルの蔕植ゑしより新暖に
アイス棒抜いたる口がヤだといふ
空き瓶のラムネ積まれて青い腕
萎んだるおしろい花に同期して
古い薔薇咲きじくじくの反対語
いちじくの種子噛み砕く事をする
相同のマンション点灯揚げ花火
陸海空一体の措辞である花火
いわし雲前後へ車上スピーカー
山の日の居間でインコと日暮らしす
投げ出して冷房はいや足の裏
クマゼミが加はるや打楽器として
削り氷の征服ルートへのスプーン
焼酎や夕日塗れのキッチンで
盆栽のそよりともせで冷し酒
野になべて稲子の顔はかしこさう
ぢいさんとばあさんと麦藁とんぼ
偏差値は端で糸とんぼに見入る
蜩やちゃんばらの子ら滅亡し
投網打ったる踊子の輪となりぬ
踊子でクラス仲間でそれ以上
ヤッサ沁み込んだ手足で解散す
秋の雲嶺といふ字を山にした
フリガナがあって十六夜とはなりぬ
庭荒れてへくそかずらがトッピング
国境のやうに柘榴を割らんとす
家で寒い場所で昼寝の林檎たち
栗飯の琥珀掘りつつ耳貸さず
一房の葡萄胃袋ほどが垂れ
タッチして開く仕組みの夜の長さ
幽霊花男子生徒が活けにけり
花芒騒ぐ独りのハーモニカ
吾亦紅風が揺らしたやうに折る
朝刊を取り出し白粉花に立ち
柳散る猫か赤子か泣き勝さり