パリ/ルーブル美術館(2)

 この美術館には、世界の多様な美術品が収蔵されているのですが、その中で、最も優れた作品の一つが、ファン・アイクの「ロランの聖母」だと思います。たかだか64cm×62cmのこの作品の緻密な描写は、人間業とは思えないほどのものです。作品を見ると、画面には聖母マリアとその膝に座る幼児キリスト、マリアを祝福する天使、左には、この絵の寄進者である、ニコラ・ロランが描かれていることに気づきます。さらによく見てみると、二人の間には、純潔の象徴である白百合が描かれ、不滅の象徴である孔雀や向こうを見る二人の人物が描かれています。さらによく見ると、川に架かる橋の上には、通行する大勢の人々や馬が描かれています。この世界の隅々まで克明に描こうとする姿勢、そしてそれを可能にした技量には、感服するしかありません。なぜこのように現実をとらえようとしたのかについては、神の世界から現実に目を向けるようになる宗教観の変化が背景にあるのだろうとは思えるものの、それを可能にした絵画技法との関係も非常に重要だと考えられるのです。もし、彼が、テンペラ技法しか知らなかったとしたら、このように世界をとらえることは不可能だっただろうことは容易に想像できるからです。そこで、私も私なりに彼の技法について考えたのですが、これについてはまた機会を改めて書きたいと思います。
 


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