ロンドン/ナショナル・ギャラリー(常設展)
 London/The National Gallery

 ナショナル・ギャラリーは、ルーブルほどの巨大美術館ではないものの、粒ぞろいのすばらしい作品を収蔵しています。また、ここは、大英博物館と同様、入場が無料ですので、旅行者はもちろん、ロンドン在住でくり返し訪問したい人にとってはとても有り難いです。最初に訪れた時、ファン・アイクの「アルノルフィニー夫妻の肖像」やフェルメールの2点の小品、ピエロ・デ・コジモの作品などに強く感動しました。収蔵品は1級品ばかりで、保存がすばらしく、照明なども見やすく設定されています。それらの中でも、入館してすぐに目に入る、「アルノルフィニー夫妻の肖像」は別格にすばらしいと感じます。ファンアイクが能う限りをつくして描いたこの作品は、彼の代表作の一つと言っていいものです。結婚を祝して注文されたと言われていますが、凸面鏡に映った画面の手前側の光景までも描き込んだ渾身の描写は、極限の人の技を見せてくれます。これが、油彩のみで描かれたのか、それとも他の技法と併用されているのか、いろいろな研究者が説をたてているようですが、私は、吸収性の下地に描かれていることは間違いないと思います。それにより、油絵の具の油分が適度に吸収され変色を押さえているのではないかと思います。また、下層描きには、テンペラも用いたのではないかと思います。それは、これだけち密な描写をしていることから、相当数の塗重ねをしていることは間違いないのですが、もし油彩のみで行ったのなら、筆の後に生じる油の盛り上がりをこれ程完璧に押さえることは不可能に思えるからです。
 このようなすばらしい美術館なのですが、やや不満もないわけではありません。一つには、イギリスの美術館はどこもそうなのですが常設作品についても写真撮影ができないことです。作品の部分や微妙な光の反射で見える絵の具の重なり具合や筆の動きを記録したい私などは、作品がすばらしいだけに残念です。それから、音声案内の日本語版ができたということだったので借りたのですが、英語版の1/10ぐらいの作品についてしか解説がありませんでした。作品の横に、音声解説の番号が貼ってあるのですが、あまり知られていない作品なので解説を聞きたいと思っても日本語版は対応していないことが多く、結局私が知りたいと思う作品については全く役に立ちませんでした。それで何度も悔しい思いをしたため、返却のところのボランティアらしい若い女性が、「いい体験ができましたか」と笑顔で声をかけてくれたのですが、つい「(解説が)少な過ぎます」と言ってしまい、彼女をがっかりさせたのが今も心苦しく思い出されます。また、音声解説は無料とのことではあったのですが、返却のところには寄付の掲示(金額例も明示)がかかっていますので、けっこう高いものになりました。しっかり料金をとってもいいので、英語版と同じ内容の音声案内をぜひ期待したいと思います(解説が聞けると期待しただけに、失望も大きかったです)。
 苦言を書いてしまいましたが、ロンドンに行ったら必ず訪れたいすばらしい美術館です。


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