パリ/オルセー美術館
MUSEE D'ORSAY / 1,rue de Bellechasse

 この美術館は駅を改造して作られていますので、一般の美術館の構造とはだいぶ様相が違います。建物の規模の割には、展示面積はそれほど多くありませんが、一度に見るにはちょうどいい規模かも知れません。ここには、19世紀後半のフランスが芸術的に最も実り多かった時期の作品が収められており、新古典主義のアングルやサロン画家、象徴主義のモローやシャバンヌ、ルソー、バルビゾン派や印象主義等一般にもなじみのある画家の作品が多くあります。それらの中で、私の好きな作品をいくつか取り上げたいと思います。
 先ず、モローのオルフェウスは、彼の最良の一品です。初期のこの作品は、古典的なスタイルを多く残しながらも彼の甘味なロマンを感じさせます。後期の激しさも感じる運命の女はまだ表現されていません。
 ほぼ、同時代の日本でもよく知られた、フランソワ・ミレーの「春」は、「落ち穂拾い」や「晩鐘」ほどには知られていませんが、私にはそれらよりずっと魅力的に感じられます。この作品はミレーの最晩年の遺作とも言える作品で、低く暗い空から地上のわずかこの一帯だけに太陽の光が差し、畑と丘の上の木々の緑が黄金色に輝きます。雨上がりの空には虹が架かり、世界が一瞬だけ輝いています。子どもの時に、私はこれとよく似た光景に出会い、その神秘的な様子に感動し興奮したのを鮮明に覚えています。それは足の速い台風がたった今向こうに過ぎ去り、背後の雲の間から太陽が覗いて地上を照らし出した時でした。台風が去っていった向こうの空はまだ低く厚い雲に覆われ夜のように暗かったのですが、一筋の太陽の光に照らし出された地上は、ほんのわずかの時間でしたが、まるで黄金色に輝いて見えたのです。死を予感していただろうミレーの最後の作品は、一瞬の光に包まれ、何かを期待するかのような神秘的な作品になっています。


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