佐藤さとるの世界
ふつうに行けば佐藤さとる氏の作品紹介は「だれも知らない小さな国」になるのだろうが、それは「読んでて当然」といわせていただこう、なんせ僕のページですから。「コロボックルシリーズ」の一作目、といった方がなじみがあるかもしれませんが、残念ながら、こんなに質の高い作品でありながら本屋さんでは手に入れることが難しくなっています。幼い頃、池や小川、田圃やあぜ道が遊び場で、その思い出が今でも大切なものであればある人ほど、この人の作品に間違いなくハマリます。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、第一に僕が取り上げたのは「ジュンと秘密のともだち」です。この作品は、もう完成度が高すぎる。ジュンの気持ちになりきってしまえるくらい、友達が待ち遠しい。来ないんです。一度であってから、次がなかなか会えないんです。読んでるこっちの方が「なんででてこないんだよぉ。」って言いたくなるくらい待ち遠しい。
きっと、僕らが小学校の時には、何処にでもあった風景が、背景にあります。これは何もこの作品に限ったわけではなく、佐藤さとる氏の作品を支える重要な鍵になっています。描かれている文章の風景が、頭の中に描き出せるかどうかで作品のその人における価値が変わってくるでしょう。さっき書いた幼いときの思い出。これが、あるかないかで作品の持つ「豊かさ」(これは決して金銭的なものではない)を分かち合えるかどうかにつながる。
ありがたいことに、僕の育った町には山も、コンクリートでない川も池もあったしそれらが生き生き呼吸をしてた。自然が自然にあった。もちろん人工的な物もあったよ。例えば、高圧線を支える鉄塔。それがたどり着けないほど遠くなくかといって手に届くほど近くない山の中に。鉄塔に名前を付けることは思いつかなかったけど、その山にはキジバトもいたし、いろんな動物もいた。もちろんウサギも見たことがあったから「ジュンと秘密のともだち」の「豊かさ」を楽しむことができた。