不登校追跡調査を拒否 (2000年3月12日 朝日新聞)
文部省に5府県教委 個人情報を保護
急増する不登校生の「その後」を探るため、文部省が昨年度から委託調査研究として始めた元不登校生の追跡調査について、大阪府教育委員会をはじめ和歌山、広島、滋賀、奈良の計五府県教委が協力を拒否、神奈川、沖縄県教委などが限定的な協力にとどめていることがわかった。一九九三年当時に中学三年生で不登校だった一万五千人余り全員を対象にした大規模な調査だが、教委側は「指導要録のデータを本来の目的外に使用するため、個人情報保護に抵触する恐れがある」などと疑問を抱く。文部省は「すべての自治体がそろわなくても、データの回収率が統計学的に有意なものになれば問題ない」としている。
この調査は、九八年五月現在の学校基本調査で、年間三十日以上の不登校生が十万人を上回ったことから、文部省が実態を探るための委託調査研究として始めた。大阪市立大の森田洋司教授を中心とするグループが取り組んでいる。
これに対し、大阪府教委は@指導要録のデータの目的外使用にあたるA個人が特定できる恐れがあるB生の個人データが外部(民間の研究チーム)に漏れる――ことなどから「個人情報にもっと配慮した形でないと協力できない」と判断。府内の市町村に調査要請することを見合わせたという。
このほか、「調査の意義は認めるが、電話調査は元不登校生の心にズカズカ踏み込むことになる」(滋賀、和歌山)などと、五府県が調査協力を拒んだ。
一方、神奈川、沖縄県教委は、調査用紙の学校名などの欄は記入できないようにし、個人の特定をより難しくしたろえで市町村に協力依頼した。京都府教委は府内七地域で各一校のみの協力にとどめた。
調査に協力した教委も、「難問の声があったが、文部省の委託調査なので信用して出した」(茨械)、「市町村によっては難色を示すところもあったが、文部省の要請でもあり、無理のない範囲でお願いした」(埼玉)など、対応に苦慮した様子がらかがえる。
文部省の村上尚久・生徒指導専門官は「調査方法に疑問がある、といろ質問は受けたが、文部省は問題ないという立場だ。ただ、自治体の判断で出せないというところは仕方ない。当時の不登校生も五年たって成人前後になっており、ある程度は落ち着いて協力いただけるのではないか」と話している。