(1)呼び方について

 Neuro-Linguistic Programming は日本語では「神経言語プログラミング」と訳されているが簡単に「NLP」と呼ぶほうが良い。問題はどう理解され、またどう応用されるかだ。

(2)NLPの生い立ち

 NLPは1970年代の半ば、カリフォルニア大学の言語学の助教授、ジョン・グリンダーと同大学の学生だったリチャード・バンドラーの協同作業で始まった。彼等は3人の心理療法の天才達ーーーヴァージニア・サティア、フリッツ・パールズ、ミルトン・エリクソンーーーの診療場面をつぶさに観察した。この3人はまったく異なる流儀の療法を用いていたが、クライエントとのコミュニケーションのとりかたやクライエントを変化させる秘訣に或る共通の特徴があることを発見し、その原理を抽出した。そしてそれを誰にでも使えるように組織化したのである。その後両者の協力関係は中断したが多くの弟子たちがNLPの内容を豊富にしていった。そして今でもNLPは成長し続けている。

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(3)なぜ「神経・言語・プログラミング」なのか?

 NLPは「主観的体験を研究する」ことを一つのテーマにしている。たとえば貴方が幼年時代に住んでいた家を思い出して見たまえ。(ここからはゆっくり貴方の内的世界にひたって下さい)その家で過ごした貴方に最も印象深いひとときに今もどったと仮定しよう。貴方はその家のどこに居ますか?そこで貴方が見ているのは何ですか?何を聴いていますか?身体に何を感じていますか?その体験は貴方にとって楽しいものですか?もし楽しい体験ならその場面にしっかり入り込んでもっとありありと情景に眼をこらして見つめよう。場面を明るくしたらもっと楽しくなるだろうか、それとも薄暗くぼんやりとしたほうが気持ちがよくなるだろうか?自分に気に入った映像を貴方は作ることができるのだ。同じことを聴覚についても、体感覚についても試してみたまえ。もし貴方の体験は楽しくないものだったらーーーそれも自由に変えることができる。映像を暗くしたり、ぼんやりしたり、音を小さくしたり、遠ざけたりして不愉快な感情を消してしまうことが可能なのだ。(本に戻って下さい)いま貴方が体験したことは全て貴方だけの主観的な出来ごとである。そして貴方独自の「神経」組織に生じたことである。またこの体験は貴方がいま読んだ「言語」によって誘導されたことでもある。我々の行動は適切な方法を使えば「プログラムする」(望むように変化させる)ことができるのだ。

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(4)NLPの中身

(A)基本的な考え方。

 a)モデル
  人は各々独自の「モデル」を持っていてそれを使って「現実」を理解し、生きている。モデルは地図に、現実は土地に例えられる。「地図と土地を混同するな」というのがNLPの第一の警句である。地図は特定の目的に役に立つ。富士山に登るのにどの駅で降りればよいか、どの道を選ぶかを教えてくれる。しかし、地図は富士山そのものではない。物理学の理論もモデルである。ニュートンの力学も、アインシュタインの相対性理論もそれぞれ特定の目的には役に立つ。どちらが「正しい」のでもないし、物理現象そのものを表すのでもない。医学の知識も常に変化しつつあるモデルであるし、NLP自体も一つのモデルである。小・中学生やその親が学校についてどんなモデルをもっているかによって不登校が生じたり、生じなかったりする。
  モデルに影響する要素は知覚を左右する感覚器、体質、時代、文化、生育暦、アイデンティティ、信念、などである。

 b)システム思考
  NLPのもう一つの特徴はシステム思考である。システムとは、部分がばらばらでなくお互いに影響し合って全体として働くことをいう。 我々の肉体は消化器、循環器、運動器、呼吸器、皮膚、神経系統などが全体として働くシステムである。肉体と精神や、意識と無意識も分けて考えられない一つのシステムである。
  コミュニケーションは伝え手と受け手の相互作用からなるシステム現象である。だから「貴方が伝えたコミュニケーションの意味は、貴方が伝えようとした意味とは関係無く、相手の反応で決まる」のである。生活習慣をどう変えると(或いは変えないと)どういう結果になるか医師が伝えたつもりでも、患者の生活習慣の「モデル」に影響を与えたかどうかを観察しなければ無意味である。
  人は家庭や、社会、人類、生態系、地球環境、さらに宇宙というシステムの部分として生きている。

 c)その他の前提
  「人はすべて卓越した人生を送るために生まれて来た。」
  「失敗というものはない。あるのはフィードバックである。」
  「選択肢をより多く持つ人ほどその人の属するシステムを支配できる。」
  「すべての問題には必ず解決(望ましい結果)がある。」
  「人は問題解決に必要な能力の可能性をすでに持っている。」

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(B)方法論

 a)メタモデル
  これは言葉の意味を正確に捉えたり、思い込みを解除するための質問の仕方である。医師は問診の際いつも省略された情報を収集せずにはいられない。例えば、患者さんが「頭痛がするのです」と訴えたとき、何時から、頭のどのへんが、どんな風に、と質問してその正体を明らかにしようとする。NLPは日常われわれが実行している事を別の名前で言い直していることが多いのである。

メタモデルを身につけよう

A. 「省略された情報を収集する」
1. 誰が、何が、何時、何処で、どういう風に?具体的に言って下さい。
(話し手が具体的に言わずに省いたり、一般的な表現をしたとき)

イ.「大勢が反対しています」(不特定名詞)「例えば誰が反対しているの?」
ロ.「彼は拒否しました」(不特定動詞)「具体的にどういう風に?」
ハ.「花子さんの歌が一番上手ね」(比較)「どのグループの中で?」
ニ.「同上」(判断)「誰がどういう根拠でそう決めたのですか?」

2. 具体的にどう云う経験をその言葉で云おうとしているのですか?
(話し手が一連の過程を名詞で表したとき)

「私はこの職場の対人関係にうんざりしています。」(名詞化)「誰と誰が具体的にどういう風に関係しているのですか?」

B. 「制約を解除する」
3. 何がそうさせないのですか?もしそうしたら何が起きるのですか?
(話し手が「・・・出来ません」「・・・すべきです」を用いたとき)

イ.「私は愛せないのです」(可能性の叙法助動詞)「貴方の中で何が愛することを押し止めているのですか?」
ロ.「私は理解を示すべきです」(必要性の叙法助動詞)「もしそうしなかっらどうなりますか?」

4. そうでない時(状況)を思い浮かべられますか?
(話し手が”例外ない”と信じているとき)(普遍的数量詞)

イ.「皆が私をバカ扱いする」「そうでない人も一人くらいいるでしょう?」
ロ.「私はいつも遅刻するのです」「定刻に出勤したこともあるでしょう?」

C. 「わい曲された意味を正す」
5. どうして判りますか?
(話し手が”読心術”を使ったとき)

イ.「彼は私を愛していないわ」「どうして判りますか?」
ロ.「彼は無分別なのです」「どういう分別をすれば良いのですか?」

6. どうやってそういう気持ちにさせるのですか?
(話し手が”感情の因果関係”を用いたとき)(等価の複合観念)

イ.「彼女は私を怒らせるのです」「どうやって怒らせるのですか?」
ロ.「彼女を不愉快にして悪かった」「どうやって不愉快にさせたのですか?」  

 b)ミルトンモデル
  これは人の無意識に働き掛けるためにわざと曖昧な言葉を使う方法である。

 c)視覚、聴覚、体感覚を応用する
  言葉や眼の動きで相手がどの感覚を体験しているかを知る方法がある。

 d)知覚の従属要素を応用する
  知覚のポジション(自分の位置、相手の位置、第3者の位置)を変えること。視覚なら明るさ、色、明瞭度、大きさ、距離など;聴覚なら大きさ、高さ、音質、など;体感覚なら重さ、暖かさ、なめらかさ、などを変化させること。

 e)タイムライン
  時間的体験を空間的体験に変換して応用する。

 f)ロジカル・レベル
  体験を環境・行動・能力・信念・アイデンティティ・スピリチュアルのレベルに分類し統合をはかる。

 g)無意識のパート
  人の行動の大部分は無意識が支配している。しようと思ってもつい出来ないことや、止めようと思ってもついしてしまう。そのような無意識的行動をさせるパートが心の中に在ると仮定して考える。総ての「パートは良い意図を持っている」という前提でそのパートと対話をする。

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(C)テクニック
  総てのテクニックの基礎に在るのは「ペース合わせ」と「リード」である。クライエントとの間にラポールを成立させることが前提となる。

 a)ラポール技法
  ラポールはコミュニケーションの架け橋である。クライエントとラポールが成立していると「この医者は信頼できる。安心だ。」という感じを抱かせることができる。その具体的方法をNLPが教えてくれる。相手をよく観察して姿勢、呼吸、言葉の調子、などにペースを合わせる。そして、徐々に自分を変化させてリードする(相手を望ましい方向に変化させる)のである。よく患者との相性の善し悪しを口にする医師がいるが、これはコミュニケーションのプロとしての資格を自ら放棄しているのではあるまいか?

 b)アンカー(錨)
  貴方は或る音楽を聴いたとき突然若かったときのなつかしい経験を思い出したことはないだろうか?或いはカーバイドの匂いが幼年時代のお祭りの夜に貴方を連れ戻したことはないだろうか?一定の刺激がある体験全体を思い出させるときこれをアンカーという。特定の手順でアンカーを応用するテクニックがある。

 c)リフレーミング 
  ものごとを異なる枠組み(フレーム)で見ることである。方法論の(チ)で述べた「無意識のパートにはすべて良い意図がある」という前提に立つ。少しの動悸を心臓病の症状と受け止め不安になる患者が循環器科で「異常ない」と言われたとしよう。それでも尚不安は治まらない。そのとき私は「貴方の無意識に不安を感じさせるパートがあります。そのパートは貴方にとってとても大切な役割を果そうとしているのですよ」と説明する。そして「症状(動悸)は貴方の友だちだと思って一緒に浮かんで通りなさい」という。
  このほかリフレーミングの応用法には「状況のリフレーミング」「内容のリフレーミング」「6段階リフレーミング」などのテクニックがある。

 d)恐怖症の急速治療
  永年の恐怖症(過去の事故、虐待、虫、など)がたった1回のセッションで治療できるテクニックである。視覚と体感覚を分離する方法を用いる。私を訪れたある女性患者が白衣高血圧で悩んでいたがこのテクニックで治療することができた。もちろん全ての白衣高血圧が心理療法の対象ではないが必要があれば有効な手段である。

 e)スイッシ
  止めたいと思っているがなかなか止められない行動(喫煙、過食、など)や不安に対して用いる。望ましく無い行動のひきがねになっている映像とすでに問題を解決した自分の映像を急速に入れ替えるテクニックである。(音や、体感覚も用いられる)

 以上は基本的なテクニックの一部であるが「自分の嫉妬心に対処する」「他人からの批判に対処する」「喪失感を処理する」「罪悪感を解決する」 など具体的な方法を数えればきりがない。個々の「テクニック」はたとえばバイオリニストの演奏する曲目のようなものである。音をだす「方法論」や、音楽に対する「基本的な考え方」が身についていれば少しの練習で弾けるようになる。 

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(5)NLPの学び方

 NLPを学ぶには本を読んだり、話を聴いたりするだけでは不十分である。ちょうどバイオリンの構造や歴史を学んでもバイオリンが弾けるようにはならないのと同じである。日本で本格的に学ぶためには日本NLP研究所のセミナーやチーム医療(株)の特別研修を受ける必要があるがいずれも数十万円の費用と百時間位の期間が必要である。(アメリカで勉強すればもっと負担は大きい)簡単にすべての医学生に参加を勧めるわけにはいかない。

 そこで私は毎月1回第2土曜日に横須賀(会場は横須賀市立勤労福祉会館「ヴェルクよこすか」、セミナーのご案内に地図があります)で2時間弱のセミナーをボランティアで教えています。地元の病院の看護婦さんや教育者が参加しているので有志の医学生がいれば大歓迎です。また最近、上記二つのセミナ−会社のスケジュールは大変充実し、また参加し易くなってきています。ぜひホームページをみて研修に参加して下さい。

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