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1999年2月10日

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 ◆今週の記事


◆ご先祖は神聖にして…?

 先日のことだが、産経新聞の投書欄にちょっと目を引く投書があった。なんでも数日前に出たある記事に反応したもののようだが…その記事というのが、去年公開されたディズニーアニメ「ムーラン」に対しトルコの一部の人々から批判の声が上がっている、というものだったらしい。
 なぜトルコ人が「ムーラン」に抗議したのか?あの映画については僕も映画コーナーで紹介したことがあるが、中国を舞台にした歴史ファンタジーで、少女ムーランと騎馬民族「フン族」との戦いがメインストーリーとなっている。この「フン族」の描写がけしからん、あれじゃ昔の西部劇のインディアン描写同様、「野蛮人」扱いじゃないか、ということらしい。で、なんでトルコ人がそんなことに目くじら立てたかというと、フン族は彼らのご先祖で、あの映画は自分達の先祖の名誉を汚すものだ!ってことのようである。

 あの映画に出てくる騎馬民族が「フン族」とされていることについては僕もちょっと文章を書いたことがある。だいたい「フン族」といえば東ヨーロッパに侵入し例の「ゲルマン民族大移動」とやらを引き起こしたことで知られる民族だ。しかしその正体については今ひとつ不明で、少なくとも中国に「フン族」なるものがやってきたということはない。いちおうフン族が「匈奴」の一派ではなかったか、という有力な説があるが、この映画の場合どうという特定な民族を指しているとは言い難い。だいたい欧米人はモンゴルもフン族もいっしょくたで(向こうの歴史映画に多々見られる傾向)「ムーラン」でも「欧米人の連想するモンゴル」的な色彩が強い描き方であった。深読みかも知れないが、「モンゴル」とか特定の民族名を避けて「フン族」という曖昧な名称を利用した気もする。

 しかしトルコではフン族を先祖と見なす人が一部とはいえいるわけか、とこの記事で初めて知ったものである。まぁトルコ人はもともと中央アジアの遊牧民だし、「匈奴」もトルコ系らしいとは言われているが…だけどそれを「先祖」とみなしてその描写に怒るってのはどんなもんだろう(そういやハンガリーでは抗議はないのだろうか)?それにディズニーにしたってありゃファンタジーとして作ってますよね。そう目くじら立てんでも、という気もする。

 しかし実はもっと気になったのが、この投書のそもそもの意図。まぁ「先祖のなんたら」というタイトル見て見当は付いたけどね(産経だし)。要するに「日本も先祖への冒涜を許すな!」という趣旨の投書なのだ。南京大虐殺は完全なデッチ上げなのに中国が映画を作ろうとしているってのが気に入らないらしい。やれやれ。じゃあ「プライド」とか作った日本はインドから抗議されますね、やっぱ。



  ◆「建国記念の日」の意義って?

 続くネタも産経新聞から。ここ三日間にわたって「建国記念の日」についての連載が行われていた。まぁ意図は分かりすぎるぐらい単純明快で、要するに国民みんながこの日に「神武の建国」に思いをはせて国家のために力を合わせようってことである。「建国記念の日」の存在意義を改めてしつこくアピールしているわけだ。

  2659年前の2月11日(太陽暦)という日に神武天皇(カムヤマトイワレヒコ)が橿原で即位したって話を「事実」と思ってる歴史学者はまぁいない。だいたい明治になって強引にその日を計算して…って事実関係の話はこの連載記事は興味がないらしいのでカットしよう。事実関係はどうだっていいらしいのだ、この記事の筆者にとっては。神武神話が凄く良い話で、神武天皇が素晴らしいキャラクター(架空だって良いのだ)だから、国民はみんなこの話を知って尊敬すべきだ、そしてこの日を「建国の日」として崇めるべきだ、それさえ言えばいいらしい。
 最近この新聞紙上で「神話教育キャンペーン」が展開されているが、それと趣旨は同じだ。神話を知ると「いい子」になるらしいよ、この記事によると(根拠不明)。僕ももちろん日本神話は話としては滅法面白いから、やたらアレルギーを起こして封殺しないで子供の時から知って置いて良いと思うけどね。実際僕は日本神話を子供の時から読み、歴代天皇の名前がほとんど言えたという戦前教育を受けた人みたいな所がある(笑)。だが、ちゃんとやれば逆効果でっせ、現にこんな奴が育ってますから。まぁイザナギ・イザナミの話は立派な性教育になるでしょうな(笑)。

 この記事で面白かったのが明治政府が建国の理想・模範とする過去の時代をどこにもとめるかで実はもめていた、という話だ。まず後醍醐天皇の「建武中興」が候補にあがったが(幕末の志士どもは楠木ファンだったから)、これは失敗した政治だから却下(表には出ていないがたぶん現皇室が北朝系ってことも多少影響したかも)。次に候補に挙がって一時本決まりになったのが天武天皇の時期らしい。しかし結局「神武が良い」ってことでまとまったそうな。つまることろ「ハッキリしない」ところに大きな利用価値があったんだと思う。

 実は近年、隣国で似た動きが起こっている。北朝鮮における「檀君(タングン)」神話の実証だ。「檀君」は5000年前(!)に国を作ったといわれる朝鮮民族にとって中国に対抗して民族主義を鼓舞する英雄だ。神武より古いんだよなぁ、これって。ところが最近になって「檀君」の墓が「発見」され、そこからでた遺骨が檀君のものと「確認」された(どうやって!?)。そこでどうやら檀君の陵墓を作るなんて話も上がっていた。その後どうなったか知らないが…そういや金正日サンも朝鮮の聖地・白頭山で生まれたことになってるんだよなぁ。

 この現象を単純に笑ってはいけない。日本だって皇室に何かあると必ず「神武天皇陵」に詣でるし、毎年正月に首相は伊勢神宮に参拝するんだから。



◆韓国で漢字使用復活!

 さて、今度は韓国の話だ。どうやら韓国は「国際化時代」に対応するため漢字使用・漢字教育を本格的に進めることになったらしい。日本・中国から来る観光客向けって部分もあるだろう。どうやら道路標示や案内板に漢字併記が義務づけられるらしい。ちょっとハングルかじってほとんどその後勉強してない僕などには嬉しい話だ(^^; )。以前大学のある授業で漢字交じりのハングル文の資料を渡されたことがあるが、漢字の分量が多いと読めるんですよ、これが。中国文より分かりやすかったりする。それもそのはず、韓国語は日本語と文法はほとんど同じなのだ。日本同様、漢語だって輸入されているからかなりの共通語彙を持っている。

 それにだいたい韓国の言葉ってのはその漢語が多いのだ!それを全てハングルで書くということは、日本で全てひらがなで書くことに近い。だから当然「同音異義語」の混乱も起こる。漢字で書いてあれば見たら分かるもんね。
 聞いた話ではあるが、韓国で漢字使用をしなくなったのは軍事政権時代の話らしい。民族意識の高揚が図られるなかで漢字使用・漢字教育がほとんどされなくなったのだ(これは北朝鮮でも同じ)。僕の知り合いには韓国からの留学生が何人かいるが、実際かなり漢字は苦手だ(日本に来ると必然的に勉強しなければならない)。名前は漢字表記出来るようになってるのにねぇ…。
 ちなみに留学生から聞いた話だが、同時期に日本語の使用も禁じられている。「前からだろ?」と思うなかれ、これは「日本語系外来語」に対する規制の話だ。なんでも学校で「これとこれは日本語だから使ってはいけません」という指示があったのだそうだ。例えば「パケッチュ(バケツ)」「ペントー(弁当)」「サルマダ(猿股!)」などなど。言われた生徒は「へー、これって日本語だったの!」とビックリしたそうな。うーむ。「バケツ」は英語ルーツだと思うが(笑)。「サルマダ」なんてもう日本語とは思えん…まぁ植民地にされたから言葉の輸入は当然あったろうな。

 しかし日本にもふと気が付くと「チョンガー」とか入ってきてるもんね。最近キムチや焼き肉が韓国料理と知らない友人がいたっけ。



◆ヨルダン国王、逝去!
 
 アメリカの病院に入院中だったヨルダンのフセイン国王が危篤となり、急遽帰国。そしてそのまま亡くなった。63才と早死にだが在位は40年以上に及んでいる。後継者は本来弟に決まっていたが、先月いきなり解任され皇太子は実の息子アブドゥラさんに代わっていた。昔だったら「壬申の乱」とか起こりそうな構図だが…(笑)
 ところで気になったのでヨルダンについて調べようと百科事典(平凡社、1965年版)を開いてみた。するとなんと!フセインさんもう項目立てられてるじゃないですか!!「フセイン一世」ってとこにちゃんと伝記が書かれてます!すっごく変なかんじですね。そこでヨルダン史をひもといてみると…

 家柄は文句なく凄い。ハーシム家といやぁ先祖はムハンマドに連なる名門中の名門で聖地メッカの太守をつとめるお家柄。お祖父サンがやっぱりフセインといいまして(イスラム圏ではよく混乱が起きないものだ)、第一次世界大戦の時にイギリスと結んで(フセイン=マクマホン協定)トルコに独立戦争「アラブの反乱」をおこなったわけですな。ああ、「アラビアのロレンス」の世界であります。
 結局イギリスの名高い「二枚舌外交」によりましてアラブ国家の建設は果たせず(一度建国したんだけど、イギリスの支援を受けたサウジアラビア王国に敗れた)、第二次大戦後に彼の二人の息子によってヨルダン(アブドゥラ国王)とイラク(ファイサル国王)が建国されます。しかしその後の中東の動乱の中、アブドゥラ国王はパレスティナ独立急進運動家の手によって暗殺され、その息子フセインが若くして国王を継いだワケです。
 その後も大変だったようで親ソ連派を一掃する「国王クーデター」とかやってみたり兄弟国イラクと連合して「アラブ連邦」を作ったりしてます。しかし「連邦」の方は作った途端に「イラク革命」が起きてオジャンになってます。その後も大量のパレスチナ難民を国内に抱えていることもあって「中東和平」に尽力、とまぁそのまま波乱の人生だったわけです。どちらかというと英米よりな傾向がありまして、欧米でも信用されていたようです。葬儀に集まった超豪華な世界中のVIPの顔ぶれも彼の存在意義を示していましたね。
 気が付くと中東ってけっこう王国が多いよなぁ。



◆中国で「日帝映画」のVCDが!

 これはちょっと変わったネタ。朝日新聞に出ていたのだが、なんでも中国の一部で日本の「ああ海軍」とか「軍閥」とか「山本五十六」といった「軍国調」映画のビデオCDが出回っているのだという。宣伝コピーに「江田島精神」とか書いてあるそうな(分かるのか、中国人!?)。「これはゆゆしき事態」と政府が警告を発しているらしい。そうそう、ビデオCDって日本ではいまいちだけど中国や東南アジアではかなりの普及率なのですよ。あやしげな海賊版もいっぱいあるけど。
 こんなもの日本が輸出するとも思えないし中国も買うとは思えないのだが、どうやら「真相」はこういうことらしい。中国と日本の国交回復以前、「日本の軍国主義復活」が盛んに中国で叫ばれ、こうした日本映画が「資料」として紹介された時期があるのだ(今も大して変わらないか)。それらがどっかに埃をかぶったまま保管されてて今頃になって誰かが「商品」として販売しちゃったらしいのだ。いかにも中国的というか…面白い話である。
 ちなみに記事に掲載されていた写真を見ると「三本五十六」ってタイトルが書いてある。ハテ?「自主規制」でもしたか?と思ってよく読んでみたら、これパッケージ製作者の勘違いらしい。ほら、「山」と「三」って発音同じでしょ(笑)。


99/2/10記

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