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1999年12月19日

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 ◆今週の記事

◆世紀末に返還ラッシュ!

 西暦1999年も残りわずか。20世紀そのものはまだあと一年あるわけだが、「1900年代」もまた残りわずかである。この節目となる年の暮れに歴史的な「返還」が相次いで行われている。パナマ運河とマカオだ。
 今回はとりあえずパナマ運河の話にしぼってみたい。

 12月14日、パナマ運河をそれまで管理していたアメリカ合衆国から地元であるパナマに返還する式典が、運河の太平洋側の出口であるミラフローレンス水門で行われた。モスコソ・パナマ大統領(この人、以前この「史点」でネタにしましたね)「多くのパナマ人が主権と領土の回復に犠牲を払ったが、ついに勝利を手にした。運河はわれわれのものだ」と演説で宣言した。これってどう読んだってアメリカに対する強い当てつけの印象を受けますね。実際、返還する当事者であるアメリカ側からこの式典に出席した要人は、かつてパナマ運河返還を定めた条約を結んだ張本人であるカーター元大統領のみだった。クリントン大統領はもともと欠席の予定だったが、代わりに出席するはずだったオルブライト国務長官までもが直前に出席をキャンセルし、パナマ側は露骨な不快感を示していた。この辺にこの運河返還に対するアメリカ側の複雑な感情がにじみ出ているようだ。
 カーター氏は「いまなお合衆国には、運河の安全に対する間違った動揺を引き起こそうとする政治家がいる」と式典で述べたそうだ。主に共和党を中心とする保守系議員に返還への反対の声が多いと聞く。凄いものになると運河周辺への香港系企業の進出を根拠に「中国脅威論」をとなえて返還に反対するという議員もいるそうだ。

 前にも書いたことなんだけど、パナマ運河の歴史を簡単に振り返っておきたい。パナマ運河の発想は大航海時代にスペインが中南米を征服した直後からあったようだ。実際に建設計画が始動したのは19世紀末で、企画したのはスエズ運河を開削した実績を持つフランス人レセップスだった。しかし難工事と資金難で挫折(まったくの余談だがこの際に発生したフランス政界の大疑獄事件がルパンシリーズの名作「水晶の栓」のモデルとなっている、などとルパンおたくぶりを発揮しちゃうのであった)。これを引き継いで実際に建設を押し進めたのがアメリカ合衆国だった。当時の世界は帝国主義・世界分割のまっただ中。アメリカもご多分にもれずスペインと戦争してキューバやフィリピンを事実上の植民地としてカリブ海と太平洋にその勢力圏を築きつつあった。そんなアメリカにとってパナマ運河建設は重要な戦略的意味を持っていた。
 そこでまずパナマ地方を領有していたコロンビアに運河の建設とその完成後の管轄権を要求した。コロンビアがこれを拒否すると、パナマをコロンビアから独立させるという強攻策で運河に関する権利いっさいを手中に収めた。そんなわけで1914年にパナマ運河が完成して以後、アメリカが一貫してパナマ運河を管理し、軍の基地を運河周辺に配置しつづけていた。単に運河を管理するだけでなく、ここから中南米全体に対するにらみを利かせていたという点も忘れてはならない。80年代に「麻薬王」ノリエガ将軍逮捕をめぐる騒動があったが、これにも運河を絡めたアメリカの中南米政策が絡んでいたはずだ(またまた余談だが、このあたりの裏事情は映画「ダイ・ハード2」に出てくるぞ)

 そういえばパナマ運河の横幅サイズはアメリカ海軍の軍艦の大きさに合わせたとか、日本海軍が「じゃあ運河の幅を超える軍艦をアメリカは作らないな」と考えて巨大戦艦大和を造っちゃったとか、そんな軍事史の裏話もあるようです。
 



◆民族を選べるとしたら?

 朝日新聞で読んだ記事なんだけど、なかなか面白い話だ。シンガポールといえば華人が9割を占めるという、ほとんど中国の飛び地じゃないかと思っちゃう様な国だが(実際中国文新聞も出ているし)、このたび若者を対象に「自由に民族を選べるとしたら何人になりたい?」という意識調査を行ったところ、「華人のままでいい」と答えた人が78%にとどまったそうで、一部でかなりのショックとなっているそうだ。じゃあそれ以外の約20%は何人になりたいと答えたかというと、「白人」と答えたのが12%。「日本人」と答えたのが8%だったそうである(笑)。なんだ、要するに「先進国」「金持ち国」の人になりたいというだけの話なんじゃなかろうか。「自由に民族が選べるとしたら?」という質問自体、ある程度他の民族を答えろといっているような質問である。たぶん日本の若者に同じ質問をしたら、やっぱり2割か3割は「日本人以外」を答えると思うんだが。

 それにしてもこの調査結果に「英語教育を優先して中国語教育をおこたったからだ」という意見が出ているところが興味深い。9割を華人が占めるシンガポールだが、学校の授業などで使う「第一言語」は英語とされ、中国語(広東方言?)は「第二言語」として教育が行われているのだ。実際に今回の調査に当たったチャン・ハンイン教授は「華人が中国語の本も読めず映画も理解しないならば民族的な根っこをなくしてしまう」として、現在の言語教育のあり方を批判しているという。
 シンガポールの人々の英語力、そしてその高い学力は国際的に通用する人材を育てるのに実際役に立った。しかしその一方で人材の国外流出も多くなっており、むしろ「民族教育をした方がいいんじゃないか」という声が出てきているとのこと。今度のこの調査もそうした懸念を抱いている政府の意向で行われたようだ。しかし別に中国語を話さなくなったわけじゃなし、それほど心配することはないんじゃないかなぁ。
 ちなみにこの調査は華人以外のマレー系の人々にも行われており、彼らは8割から9割が「自民族のまま」と答えたという。それでも8割台でしょ。僕の個人的意見だが、もともと中国系って「民族」って意識はかなり希薄なんじゃないかと思ってますがね。

 一方でこれと関連するようなしないような話題。
 近ごろ上海では外来語を発音そのままに使うケースが急増しており、年配者がこれらを理解できず困っているとのこと。特にこの傾向は最近急速に発達しているコンピューター関連で顕著で、たとえば「妹児」で「Eメール」、「雅虎」で「YAHOO!」など。発音から「酒屋」で「95」を表し「Windows95」を意味するなんて言う凝った使い方もあるそうな。
 もともと中国では外来語を巧みに「漢語化」するのが得意で、「可口可楽(コカコーラ)」「黒客(ハッカー)」なんて名作もある。コンピューター関連でも「2000年問題(ミレニアム・バグ)」を「千年虫」とするなど漢字だらけの国ならではの工夫があった。しかしさすがに追いつかなくなっているのかも知れない。まぁそのうち適度に「翻訳」していっちゃうような気もしてますが。



◆半世紀経って出てくる事実
 
 スイス、というと日本人が持つイメージといえば「アルプス」「観光地」「永世中立国」「ハイジ(笑)」といった言葉が浮かんでくるだろう。さらに探すと、映画「第三の男」でオーソン=ウェルズが「スイスの平和が何を生んだ?…鳩時計さ」と言っていたように時計をはじめとする精密機械工業の国だというイメージもある。そして「ゴルゴ13」が仕事の報酬を必ず「スイス銀行の口座に」というように金融業の国というイメージもありますな(念のため言うと「スイス銀行」という銀行があるわけではなく、スイスにある銀行全体をまとめてそう呼ぶらしい)

 さて、今度の話題はこの金融業のことなのだ。
 第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺は有名だが、このユダヤ人には当然ながら財産家も多かった。そして当然ながらスイスの銀行に預金をしている人もいっぱいいたのだ。殺されてしまったユダヤ人の口座はそのまま放って置かれて「休眠口座」となってしまう。この休眠口座の実態についてはなかなか判明していなかったのだが、半世紀以上経った今頃になって徹底した調査がユダヤ人団体らの運動によって調査委員会を設けられ実施された。三年の調査の結果、殺されたユダヤ人のものとみられる休眠口座が5万4000も見つかっちゃったのだそうだ。うち約半数の2万5000口座については持ち主がホロコーストの犠牲者である確度が高いということで、遺族への補償が出来るように情報をインターネットで公開せよ、と調査した団体は主張している。調査の過程で銀行が勝手に口座を閉じたり、情報を廃棄したりしていたことも明るみとなり、このあたりまだまだ追及が続きそうだ。
 
 また、この調査委員会は当時のスイスの政策にも深く追及の手を伸ばしている。スイスは当然ながら当時も中立国であり、ナチスの追及を逃れてスイス経由で亡命しようとするユダヤ人も多かった。しかしどうやら当時のスイス政府、こうした亡命希望のユダヤ人の入国を拒否し、追い返してしまっていたケースが多かったようなのだ。調査委員会の報告によれば、1942年から1944年にかけてスイスはユダヤ人の亡命者に対して固く国境を閉ざし、2万4000人以上の亡命希望ユダヤ人を追い返していたのだという。その一方で2万1000人のユダヤ人を受け入れて救っているのも事実だが、これはすでに入っちゃった人(不法入国)を容認したものにすぎないという。これについても責任を問う動きが続きそうだ。
 半世紀も経たないと出てこない事実もある。もっとも当時の状況から考えるとスイス政府も苦しいところだったんだろうと同情したいところもあるかな。
 



◆千年紀最大の大物とは?

  1999年も終わりに近づいたと言うことで、「20世紀」にからむ特集企画が相次いでいるが、これは大きく千年単位できた。「この千年で最も影響を与えた人は?」という質問に世界10カ国の著名人34人が答えるという企画がロイター通信によって行われていた。「千年もとったら色々いるだろうに」と思うところだが、あらかじめ候補者39人を選んでおき、その中から3人を選んで貰うという形で投票が行われた。その候補者39人が誰だったか凄く気になるのだが、今のところ不明である(なんかヨーロッパ系ばかりのような気がするな)
 で、上位5人の結果は…

1位 アインシュタイン
2位 ガンジー・マルクス(同点)
4位 チャーチル・ニュートン(同点)
 
 …だ、そうな。千年の終盤に人が集中しているような気もするが(笑)。一位のアインシュタインは物理学のこともあるが人類の宇宙観に与えた影響力でしょうね。二位のガンジーは「非暴力主義」。同点二位にマルクスが選ばれているのはちょっと驚いた。「社会主義は終わった」と声高に叫ぶ人が多い昨今だが、世界への影響力という点では確かに無視できないところだろう。4位のチャーチルってのは…(以下略)、同点のニュートンも物理学ですね。どうも質問をぶつけた相手に文化人・科学者系が多かったことが結果に出ている。ビル=ゲイツ氏はパスツールを、アーサー=C=クラーク氏はニュートンを挙げていたそうである。
 どうにも西洋中心史観がプンプンする人選であるが、東アジアバージョンなんてやったらどうなるんだろうなぁ。って考え出してみたんだけど、チンギス=ハーンはすぐ浮かんだものの(個人で与えた影響力って点では抜群でしょう)、あとが候補者続出で大混乱(笑)。やっぱ千年は長すぎます。


99/12/20記

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