◎主役はいったい誰なんだ!?
一昔前のゲームにはありがちなことですが
(今もあるかな)、アニメや映画・ドラマなどとのタイアップで作られたゲームにはまずロクなものがありません。不思議なものでCD-ROM版「太平記」のように「便乗」あるいは「パチモン」ならばそこそこ面白いものがある一方で、「純正関連商品」を掲げるゲームほどクソゲー・バカゲー化する傾向が強い。この「NHK大河ドラマ太平記」もバッチリそのパターンにはまってしまっています。
このゲームにはシナリオが2つあります。シナリオ1は
「鎌倉幕府の滅亡」で、このシナリオをクリアしない限りシナリオ2は遊べません。このシナリオ1は1333年の段階で、全国各地に討幕軍が蜂起、これを討伐しようとする幕府軍が各地に散っているという状態から始まっています。プレイヤーは討幕軍を指揮して幕府打倒を目指すことになります
(北条ファンの方は残念!)。
クリア条件は
全国にいる幕府軍の武将17名のうち、幕府首脳である北条高時・長崎円喜・長崎高資を含む14名を討ち取ること。円喜が入っているあたりにフランキー堺が名演を見せた大河ドラマとのつながりをかすかに感じますが、顔は全然似せていません(笑)。まぁ要するにこの3人以外の14名を倒してもゲームはクリアできないわけで、この3人がいる鎌倉周辺を攻め落とす必要が生じるわけです。一応それは史実にのっとった設定と言えましょう。
しかし厳しいことにこのゲームにはなぜか
タイムリミットが存在します。理由は分かりませんがゲームの難度を多少でも上げておこうと思ったのかもしれません。シナリオ1では100日以内に条件をクリアしていなければなりません。
「幕府滅亡の日まであと65日…あと65日しかないのだ!」とか言いながら楽しむことにしましょうか。もっともプレイヤーは幕府を滅亡させる側なんですが(笑)。
このシナリオ1をなんとかクリアしますと、シナリオ2
「南北朝の大乱」が遊べるようになります。これはシナリオ1からの継続ではなく、まったく別のシナリオとなっていて、ゲーム初期画面で「1」か「2」かを選択が出来るようになるのです。シナリオ2は建武政権が足利尊氏の反乱で危機に瀕した1335年の段階から始まっています。シナリオ1よりマップは広大に広がり、登場武将も倍以上にふくれあがり、全国の武将が南朝=後醍醐方、北朝=尊氏方に分かれて戦う、まさに南北朝動乱が体験できるシナリオとなっています。
しかし不思議なことに、尊氏を主役とする大河ドラマのゲーム化を謳いながら、このシナリオ2でプレイヤーが担当するのは
なぜか南朝方です。説明書によると
どうもこのシナリオ2の主役は北畠顕家らしいのです(笑)。プレイヤーは全国の南朝軍を指揮し、
250日以内に足利直義・高師直をふくむ北朝方の42武将(全48武将中)を討ち取ることがゲームクリア条件となっています。敵の親玉であるはずの足利尊氏は
出家でもしてしまったのかゲームには登場していません(爆)。やはりドラマの主役を討ち取るのはマズイと判断したんでしょうか…だったらなんで顕家を主役にしたのかサッパリ分かりません。ゲームデザイナーが南朝支持者だったのか、あるいは熱烈ゴクミファンだったのでしょうか(笑)。
実は両シナリオとも、隠しコマンドにより2人プレイも可能です。友達と南朝・北朝に分かれて戦うという遊びも可能なわけなんですが…、時間制限というルールがあるために、鎌倉幕府か北朝を担当したプレイヤーは
ひたすら戦闘をパスして時間稼ぎをするという作戦をとってしまえば負けるわけがありません(笑)。何を考えて2人プレイモードを作ったのか、かなり理解に苦しみます。
◎理解に苦しむ合戦モード
シナリオ1ではゲーム開始直後、強制的にいきなり戦場マップに突入します。古典「太平記」でも名高い、あの楠木正成の千早城攻防戦をゲーム本編前の「腕試し」としてプレイさせられることになります。
合戦画面はご覧のとおり。今となっては昔なつかしの六角ヘックスに仕切られた戦場マップが広がっています。左下にはこのマップ・千早城の支配者である楠木正成の顔グラフィックが映っています
(武田鉄矢のつもり…ではないんだろうな)。ヘックスごとに地形が決まっており、お約束でさまざまな地形効果が設定されています。川や沼(?)など水のヘックスに侵入不能なのは分かるんですが、「山」のヘックスには入れる
(一応騎馬隊は不利になるが)のに「林」のヘックスに侵入不能というのには首を傾げます。
また、防衛側はマップ内に城を持っており
(右図中央下を見よ)、ここにたてこもる籠城戦も可能となっています。
このゲームの合戦モード、戦国SLGなどに慣れている人でも戸惑うんじゃないかと思う変な点がいくつもあります。最大の謎は兵力の配分・配置のルールです。
右図最下段に楠木軍の陣容が表示されています。まず武将直属の
「旗本」に1800騎が配分されています。その右に
「騎馬」「弓」「長刀」の三部隊があり、それぞれ500騎ずつ配分されていますね。この「騎馬」「弓」「長刀」の三部隊は最大500騎と決まっていて、それぞれ1ユニットで表示され、こちらの任意でマップ内に配置できます。戦闘をするのはもっぱらこの三部隊です。
その三部隊に配置して残った兵力は全て武将直属の「旗本」に入ります。ですからどの軍でも最大戦力は「旗本」であるはずなのですが、このゲームの「旗本」は敵味方とも、
マップ内の決まった位置から移動させることが一切できません
。防衛側は城の目の前、攻撃側は侵攻してきた街道の入口と「旗本」の場所が決まっていて、そこから一切動かすことができないのです。防衛側は「籠城」を選んで城の中に入るという形で「移動」が出来なくもないんですが、それはマップ内から消えるというだけのことで…とにかく
最大兵力を持ちながらまったく戦力にならないという不思議な「旗本」なのです。「旗本」が戦闘に関わるのは合戦の終盤だけ、敵部隊の攻撃を受けるときだけです。もちろん「旗本」が全滅すると勝敗が決し、その武将は戦死してしまいます。
「旗本」以外の部隊ですが、「騎馬」部隊は移動距離が長く平地戦でのパンチ力がある、歩兵である「長刀」部隊は地形にあまり左右されず騎馬隊に対して強い、「弓」部隊は2ヘックス先の部隊に矢による遠隔攻撃ができるがその代わり直接戦闘ではまったくの無防備、といった特色をそれぞれ持っています。
プレイしてみるとすぐわかりますが、
このゲームの合戦のキモは明らかに「弓」部隊の扱いです。弓隊は安全圏から2つ先の敵に一方的にダメージを与えることが可能で、弓隊さえ駆使すればこちらが無傷のまま敵部隊を順番に全滅させていくこともできます。その代わり、弓隊は隣接ヘックスからの攻撃には全く反撃できないというデメリットがあり、うかつにやってると敵軍に味方の弓隊を全滅させられてしまいます。弓隊が全滅してしまったら、はっきり言って勝利の目はありません。つまりこのゲームの合戦は
「こちらの弓隊が全滅しないうちに敵の弓隊を全滅させる」というのが基本戦術になります。
また、防衛側は籠城という選択肢があるのですが、籠城するには自軍の弓隊を温存したまま本陣
(旗本がいるところ)に撤収させている必要があります。逆に籠城する敵を攻める側も弓隊がないと城への攻撃ができません。
籠城戦は互いに弓矢の打ち合いしかできないというマカ不思議なルールのためです。騎馬隊が攻城戦に参加できないのはわかるとして、歩兵である長刀隊は参加できるはずなのですが…。
さらによく分からないのが、このゲームにおける「戦闘」の画面処理です。敵味方の部隊同士が戦闘に入ると、ご覧のとおり、中世絵巻物を思わせるなかなかカッコいいアニメ画面に入ります。
これ、当時のゲーム画面としてはまぁまぁ上等な出来の戦闘アニメだとは思うのですが、困っちゃうのが同じような画面を何度も繰り返し見せられることです。各部隊は最高500騎で構成されていますが、これは実際には「100騎が5部隊いる」ということになっているのです。その100騎ごとに戦闘処理が行われることになっているので、500騎いる部隊では戦闘処理が五回繰り返されることになってしまう。この戦闘アニメはなまじ手が込んで作られているため一回あたりの時間がかなりあって、これを五回もくり返されると
かなり鬱陶しいです。
画面写真を見ればわかりますが、戦闘では双方に「攻撃」という数値があり、この差が双方のダメージに影響する仕掛けになっています。この「攻撃」数値がどのように決定されるのかというと、一応部隊同士の相性、天気や時間
(雨か晴れか、あるいは昼か夜か)、地形
(平地か山地か)と指揮官の能力
(各武将ごとに「騎馬」「弓」「長刀」の指揮能力を示す「軍略」という数値が設定されている)が影響するらしいのですが、実際にプレイしてみた限りでは因果関係がはっきりしないという印象があります。極論すると
やってみなけりゃわからない(笑)。
そういうこともあって、合戦ではとにかく先述の「弓隊がらみの基本戦術」を徹底するしかないでしょう。敵の弓隊さえ全滅させてしまえば、あとはこちらの弓隊で他の敵部隊を順次全滅させ、最後は敵の旗本部隊をやはり弓隊で遠隔攻撃し、全滅させる
(これがまたすっごく時間かかるんですよね…)。合戦はひたすらその繰り返し。
あと気をつけなくちゃいけないのが合戦中も時間は経過しているということです。合戦をずるずる長引かせていると、意外に早く日数が消費され、タイムリミットまでの残り日数がいよいよ厳しくなってしまいます。
とまぁ、いろいろと書きましたが、正直言ってお世辞にもよく出来ているとは言いがたい戦闘モードだと思います。イライラさせられること請け合い。
◎聖なる屍をふみ越えて
上記タイトルは、大河ドラマ「太平記」のサウンドトラックのうち「足利尊氏のテーマ」につけられていたものです。それを意識してのこととはとても思えませんが(笑)、このゲームをクリアするためには敵だけではなく、
味方の屍まで数多く踏み越えて戦い続ける必要があります。
どういうことかと言いますと、このゲームって時間制限があるせいでもあるんでしょうが、「回復」とか「補給」といった概念は無いに等しいんですね。兵数をそろえるには「武者編成」というコマンドがあり、ゲーム初期段階で各武将の本拠地の「石高」
(この時代にそんな概念があったんかい…というツッコミはなし)を消費することで各部隊を編成することができます。騎馬隊、弓隊、長刀隊の順に値段が高く、まぁたいていの領地では各部隊を500騎全てそろえることができると思います
(一部地方ではそれすらできない)。問題はその兵士が戦闘で失われてから補充が出来るのか、という点です。高い石高の領地を持っている武将は一回ぐらいは兵力の補充が出来るのですが、完全に回復させることができるのはほんの一部だけ
(そのため弓隊を補充するのが最優先です)。
しかも武者編成はそれぞれの本拠地でしかできないことになっていて、軍隊を移動させた先、占領地での兵力補充はできません。さらに厄介な事に味方の武将同士は同じ城にいることはできず、連合軍といったことも不可能です。しかも敵軍なら戦闘で葬り去ればいいわけですが、味方はそうもいきませんから、かえって進軍のジャマ、という事態も起こりがちです。
制限時間は厳しい、回復・補充はあまりできない、そして味方武将はしばしばジャマになる…といった条件がそろいますと、敵味方双方で武将の消耗戦的潰しあいという事態が起こるようになります。
強力な敵軍を倒すために最初から玉砕前提で誰かが敵に突っ込み、ほどほどに相手の兵力を削ってから全滅する
(撤退することもできますがジャマなだけなので)。そして敵が回復しないうちに次の武将が突撃して敵軍のとどめを刺す…まさに
「俺の屍を越えてゆけ」といわんばかりの作戦がお互いに展開されることになるわけです。この実態についてはリプレイ記事をお読みくださいませ。もう死屍累々ですから(笑)。
ところで「死屍累々」に関して、このゲームのまたまたヘンな点ですが。
合戦で一方の「旗本」部隊が全滅すると、その瞬間に勝敗が決まるわけですが、その途端になぜか
大将同士の一騎打ちのアニメが始まります。下図のようにほとんどおんなじ展開で、ただ最後の決着だけが異なっています。幕府方が負けた場合は青い鎧の、朝廷方が負けた場合は赤い鎧の武将が斬られて血しぶきが飛びます。
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夕陽の松原をバックに左右から大将同士が馳せ向かい…
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チャンチャンバラバラ。結果はもう決まってるんですけどね(笑)。
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バカゲー界の法則の一つに
「妙なところに凝っている」というのがあるんですが
(興味のある方は「バカゲー専科」という本を探してみてください)、これもその一つかな。戦いに敗れた武将は切腹ではなく全て一騎打ちによって敵の手にかかるという、日本武士にあるまじき最期ばかりを遂げていくんですね(笑)。
とまぁ、こんな具合で戦いを続けていって、条件をクリアすればめでたくゲーム終了です。しかしとにかく忍耐を要求されるゲームだというのが僕の率直な印象でした。それも苦労を楽しめるという種類の忍耐ではなく、
ゲームプレイそのものが苦痛になるという種類の忍耐なのが大問題(笑)。特にシナリオ2は武将数も城数も全国規模で壮大ですから、大変長い苦痛を強いられる事になるでしょう。
南北朝ファンには「話のタネにはなる」とだけ言っておきます。ただ登場武将の個性もほとんどなく、ゲームデザインした人が南北朝についてどれほどの知識を持っているのか、怪しく思うばかりでしょう。とてもじゃないけどキャッチコピーにある
「歴史とおもいっきり遊ぶ」ことは難しいゲームとなっております(笑)。
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