シトロエンAX-GT(CITROEN AX-GT)

初稿:1997.7.9以前/最終稿:2000.7.2



 日本でのデビュー前からこのクルマ、とっても欲しかったです。
 '91のマイナーチェンジ直前に買いました。すでにマイナーチェンジ後のスタイルや内装の情報は仕入れていましたが、なぜわざわざマイチェン前の型を買ったかと申し上げますと、第一に内装がらしくなくなったこと(なんだか世界の、というか日本車のトレンドに無理矢理乗ってる感じ)、第二にスタイルがプレーンになりすぎたこと(特にリア周り)。ダブルシェブロンがノーズの真ん中になったことも嫌でした。些細なことですが。やっぱりオリジナルのデザインは大切にして欲しい。唯一マイナー後のうらやましいところはホイールが13インチの4穴になったところです(これは14インチの3穴)。13インチというだけでタイヤの選択の幅が増えますから。
 ボディカラーはグリアクシニット(だったかな?ちょっとあいまい:たぶんグレーメタリックのことでしょう)というガンメタっぽい色です。なんと、このクルマメタリックカラーはオプションです。国産車ならツートンでもない限り同じ値段なのにね。
 「左ハンドルは運転しにくいやろー(方言入ってます)」とよく言われます。車幅が1.7m以上あるようなクルマならいざ知らず、こんなちっぽけなクルマはどっちにあっても関係ないです。交差点での右折時に対向の右折車がいると少し見づらいのが欠点といえば欠点ですね。左ハンドルをわざわざ選んだ理由は、(1)メーターのデザインが右ハンドルと左ハンドルで異なっていた(右ハンドルはタコメーターなしのパネルの時計が入ってる場所に無理矢理タコメーター入れてます)。(2)外気の吹き出し口の数が異なっていた(インパネ両脇の吹き出し口が、右ハンドルでは何故か小物入れになってました)。(3)当時のフランス車がまともな右ハンドル仕様を作っていたとは到底思えなかった(オリジナルの設計に限りなく近い方がトラブルが少なくて済むと思った。余談:マイナー後の左ハンドルはインパネ組み込みのエアコンになりました(これだけはうらやましい)が、右ハンドルは相変わらずクーラーでした。でも、クーラーユニットはどうやら日本製なので、その方がいいかも。現に僕のクルマではトラブル出てないし。)。
 ラテン系のクルマは故障が多いといいますが、僕のAXはきわめてステディです。電動ファンのプロペラのシャフトがポッキリ折れたことと、パワーウインドウのネジが緩んでガラスが斜めになって止まるようになったことと、サイドブレーキのワイヤーを留めるステーが折れてワイヤーが宙ぶらりんになったことと、ホーンにすぐ水が入って駄目になることと、フォグランプの配線がむき出しで、しょっちゅうショートすることと、リコールを二度受けたことと、…笑い事で済む程度のことばかりです。ax
 乗り心地はすごくいいです。雑誌の評論は少しヨイショし過ぎのような気はしますが、このサイズ、この車重にしては充分満足できるものです。足回りもさる事ながら、シートが大変よくできています。このクルマの前にはレカロ付きの国産ハッチバックに乗っていたのですが、その時点ではシートはレカロが最高だと思っていました。でも、このシトロエンのシート、自分の体重で沈み込んでホールドしてくれる感覚がレカロと違うところです。レカロは点で支える感じですね(ドイツ車のシート全般にいえることですが。:余談:レカロ=Arai、シトロエンのシート=SHOEIのヘルメットのホールド感に近い、といえば理解して下さる方が増えるかな?)。今ではこれはこれでありかなと思っています。というか、シートはこうでなくっちゃ、と思います。乗り心地のよさは、このシートによるとこ大です。椅子の文化の歴史を感じさせます。
 ボディは非常に軽いです。軽自動車より少し重い程度。なにしろリアのハッチゲートに鉄が使ってありません。枠なしのガラスの下にプラスティックのパネルがくっついているだけです。全体的なサイズも横幅を除けば軽自動車より一回り大きい程度。新規格となった軽自動車ならそんなに変らないです。駐車場で軽自動車に挟まれても全然違和感なく溶け込んでしまいます。軽い分、作りは「ちゃっちい」です。いいんです。フランスの「マーチ」であり、「スターレット」なんですから。スターレット、なくなっちゃいましたね。今ならヴィッツですね。その割に国産車は重いなぁ。重くなければならない必然って、あるんでしょうか。それとも、あれもこれもで重くなっただけなのかなぁ。安全性に負うとこ大ですね。
 エンジンは1.4リットルOHC2バルブ!インジェクション仕様です。日本でのビュー時はツインキャブモデルがあり、そっちの方が欲しかったのですが、今となってはインジェクションでよかったな、と思っています。この超ベーシックなスペックのエンジンをあなどってはいけません。国産のこのクラスのエンジン(含むDOHC)では絶対に太刀打ちできません。まず、レスポンスがすごい。特に回転落ちがいい。最初はシフトのときに戸惑ってしまいました(クラッチきって、スロットルを戻してる間にストンと回転が落ちています)。次に、トルクがすごい。絶対値は1.4リットルの枠を超えるものではありませんが、トルクの出方が感覚にマッチしています。国産エンジンにはない力強さです。急な上りもなんのその、よくねばります。かといって上が犠牲になっていない。レヴリミッターが働くまでしっかり回ってくれます。回るだけでトルク/パワーはついてきません。実際にはトルクに乗せて早めのシフトアップの方が速く走れます。さらに、燃費がいい。かなりローギアードなミッションなんですが、(5速100km/h時に3500rpm位)最初の2年間の平均燃費がなんと15km/リットルに達しました(最近はサボって計っていません)。確かに僕の住んでいるところはすごい田舎で、ストップアンドゴー的なシュチュエーションはあまりありませんが、タイトで急な峠道が多いところでもあります。やっぱり低速トルクのおかげですかね。このエンジンのおかげで国産の高効率DOHCと呼ばれるエンジンのうたい文句と実効性に首をかしげるようになってしまいました。カタログを飾るだけのスペック至上主義は、いい加減止めてほしいですね。もちろん欠点もあります。フリクションの塊のような回り方をします。従って、音も大きいです。軽量化されたボディとあいまって、走行中の室内で会話するのは苦痛なほど騒音の嵐です。で、少々(でもない)うるさいけど気持ちのいいエンジンを取るか、静かでスムーズなだけのエンジンを取るか。僕は迷わず前者です。ax2
 ヘッドライトはシビエ製です。(フランスだから当然か。) このヘッドライト、カットがよくて、かゆいところに手が届くとてもいい配光です。国産のS社やK社のものは、同じ日本の規格なのになぜあんなに光が漏れるんでしょうか。だから対向するととても眩しい。光が漏れる分肝心なところが暗くなるから、みんな補助灯を点けたくなるんでしょうね。ヘッドランプがしっかりしてれば補助灯なんて必要ないのに。僕のクルマにも補助灯付いていますが、濃い霧や強い雨の時以外(もちろん、対向車のいないときだけ)点けたことないです。
 なんとこのクルマ、パワステがついていません。でも、日本の軽自動車のパワステなしよりはるかに軽くステアリングがまわせます。前述の軽さも効いているでしょうが、国産車ってひょっとして直進性を重視するあまりキャスターを寝かせすぎなんじゃないでしょうか。その昔、ファミリアがFFになったときのカタログに「FFは直進性がいいから、サスチューンをその分ハンドリングに振れる」てなことが書いてありました。このシトロエン、そのまんまあてはまります。たしかに高速道路での直進安定性は、ホイールベースが短いこともあいまってあまりよくありません。でも、危険を感じるほどじゃないし、一般道では何の問題もありません。小さいクルマは絶対的なスピードが低いんだから、それ相応の直進性を確保したらあとはハンドルを軽くするとか、きびきび走れるハンドリングにするとか、そういう方向にいって欲しいと思っています。
 結論。軽さは大いなる武器である。
 このクルマにあって国産車にない物、それは「棚」です。運転席と助手席の膝元に棚がしつらえてあります。これって結構重宝してます。もちろんインパネの上もフラットで、とにかく物を置くところには不自由しません。見てくれだけでちっとも使えない国産車よりはるかに使う人のことを考えてあると思います。スズキの新規格軽自動車の「Kei」に付いてますね、インパネ下の棚。さすがスズキ、目ざといです。
 この車に乗っているとクルマなんてこれで十分だという気になってしまいます。うるさい?大衆車ですからいいんです。装備がちゃっちい?大体のものは付いてます。無いのは電動ドアミラーくらい。でも、室内にレバーがあって、助手席側も簡単に調節できますよ。エアコン?クーラーが付いてりゃ、ちゃんと冷えます。除湿もするし。(ただし、冬の除湿はちとつらい。ウラワザが必要です。)
 このクルマも輸入されなくなってずいぶん経ちます。それに取って代わったのがサクソ(日本名シャンソン)です。なんでシャンソンは3ATしかないんでしょう。追記:シャンソンの3速ATのギア比は、国産4速ATの2−4に相当します。さすが欧州車。おまけにエンジンは1.6リットルもあるし。(日本へ輸入されているプジョー106のエンジンともちょっと違う。) 1.4リットル以下でMTなら買い換えてもいいかな、と思っていたのに。これじゃ当分AXのままですね。追記:ついにサクソにハイパーモデルがでましたね。プジョー106とおんなじエンジンのやつ。これにはそそられる…。再追記:それしかなくなりました。でも高いし。
で、'98年夏、丸7年を迎えたところでクラッチを交換しました。次は足回りだな。それまでパーツは残っているだろうか。


さよならAX(2000/7/2)

 まもなく4回目の車検を迎えようとしているところですが、AXを手放すことにしました。
 不具合があるとか、そんなんじゃないです。家族構成がこのクルマに合わなくなってきたのです。サイフが許しさえすれば、このまま持っていたいところなんですけど、しがないサラリーマンの私にはとてもそんな経済力があるはずもなく、文字どおり「泣く泣く」といったところです。
 思えば、ユーノスロードスターとプロシードマービーとAXと、どれにしようか(どういう比較しとるんじゃ)迷いに迷って(でも夢があって楽しかった)、結局AXにしたのがまだ独身だった9年前。それ以来、私のクルマに対する価値観が変わり、このクルマがベンチマークとなりました。
 身重の女房と新婚旅行(こらこら)のため7泊8日の長距離ツーリングに行っても、体調一つ崩すことなく帰って来れたのはこのクルマのよくできたシートと足のおかげだと思っていますし、昨年(1999年)夏には家族4人で荷物満載のキャンプツーリングした時も音を上げることなく走り切りましたし(いや、結構不安だったのよ)、タフなやつです。
 定期的なオイル交換とエアクリーナーの掃除以外、何もしませんでしたけど、最後までトラブルらしいトラブルが起きなかったのはひょっとすると奇跡だったのかもしれません。もっとも、私の住んでいるところの気候などの地理的条件も都会に比べたらクルマに優しい環境だったせいもあるでしょう。
 次のクルマは「よいお父さん」を演出することができる3列シートです。クルマというより道具に過ぎないので、よけいに名残惜しいです。CARAを買ってからは女房がメインで使ってましたので、私よりも彼女の方が余計に思い入れを感じているようです。
 願わくば、廃車されずに次のオーナーの元へいくようなことがあれば(そんな物好きいないと思いますけど)、大切にしてくれる人であってほしいと、ただそれだけです。
 いつかきっとこのクラスのクルマに帰ってきます。その時もやっぱりこのAXと比べて選ぶような気がします。
 75/80Wのヘッドライトバルブと昨年履き替えた3セット目の夏タイヤはCARAに、ルーフキャリアはVIVIOに移植します。






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