月姫 Short Story

  料理の鉄人!?


  第2話


 注:これは、基本的には「シエルグッドED」後として考えはいますが、
   あまり厳密ではなかったりします。(おい
   「月姫PLUSDISC」をプレイされた方は判ると思いますが、
   アレ(閑話2話)と同じようなことと思ってください。



 「こうなったらやはり、しばらくの間誰かに料理を作ってもらいませんか?」

 ・・・・・やっぱり。

 ある程度の予想はできていたから、別段意表を突かれるといったことは無かった。

 しかし、そこで異論を唱えたのは秋葉だった。

 「・・・そんな、どこの馬の骨とも知れないシェフにこの遠野家の台所を預けるわけには

 行きません。もし万が一、兄さんの命を狙う者に雇われていたものが来てしまったら、一体

 どうするというの、琥珀?」

 (・・・秋葉や翡翠の料理を食うほうが、よっぽど命の危険な様な気がするんだが・・・)

 そう思ったが、言ったら最後、ホントに直接的に命の危機にさらされるのは間違いの無い

事なので(特に秋葉からの攻撃で)、何も自虐的なコメントはしなかった。

 「・・・・・・・」

 翡翠は、姉のほうをじっと見たまま何も言わない。

 ただ、その表情から察すると、おそらく翡翠にも琥珀さんがなにを考えている(企んでいる)かは

判りかねる様子だった。


 「えっとですね、簡単な事ですよ。

  私達の間か、あるいは良く知っているお友達の中から、志貴さんの舌に合う料理を作った方に

 その役目をお願いすれば良いじゃないですか」

 人差し指を軽く顔の前に出して、いかにも”お姉さん”らしい仕草を見せる琥珀さん。

 「お友達・・・ってもしかしてアルクとか先輩のこと?」

 「・・・・・なっ」

 「・・・・・・!」

 真っ先に頭に浮かんだ名前に、秋葉と翡翠が瞬間的に反応した。

 そういえばどう言った訳か、秋葉はやたらとアルクやシエル先輩とは事ある毎に衝突するし、

あまり普段は感情を出さない翡翠も、不思議とこの二人には良い感情をあまりもっていない

ように見えた。

 (今度、少しでも仲良くなるように全員を集めてパーティーでも開催して見ようかな?)

 「そんな、あんな未確認生物や腹黒エクソシストなんかを、この遠野家の台所になど、ま・・・」

 招くことはできません、とでも言おうとした秋葉の言葉を遮り、ガラリと窓があいて抗議の声が

飛び出してきた。

 「失礼ね、だれが未確認生物よ、妹」

 「そんな、あなたのネチネチどろりとした愛情表現や琥珀さんの一片の黒いカケラも表に出さない

 腹黒さに比べれば私なんて可愛いものじゃないですか」

 器用にも、アルクはシエル先輩の持つ剣の柄を掴み、シエル先輩はアルクの右手首を押さえて、

そのまま転がり込むように組み合ったまま部屋に入り込んできた。

 「また庭で戦ってたんですか、2人とも」

 良く毎日毎日飽きないもんだと思いながらも、一応確認の為に声をかける。

 「あ、おはよ〜志貴。ごめんね、今日は起こしにいってあげられなくって。

  この眼鏡おばさんが何故だがちょっと邪魔で行けなかったんだ。恨むんならこのおばさんを恨んでね」

 「・・・誰が眼鏡おばさんですか、誰が。第一、あなたが来るのを遠野くんは迷惑に思ってるんですから。

  遠野くん、そろそろきっぱりはっきりとこの妖怪吸血泥棒猫又に言ってやってください。

  ”僕が好きなのはシエルだけなんだ”って。きゃ☆」

 ぱっとアルクェイドから離れ、いやんいやんと顔を赤くして頬を両手で押さえる先輩は、それはそれでちょっと

可愛かった。
 
 ゾクゾクッ

 「・・・はっ」

 ふと複数の殺気を感じて振りかえると、秋葉がすこし髪の端をゆらゆらとさせながらこちらを睨んでいる。

 しかも、翡翠まで目を細くしているし、琥珀さんにいたっては笑顔のつもりなんだろうけど、目が笑って

いなかったりする。

 そして、もっとも大きな殺気は、目の色を変えたて僕とシエル先輩を見ているアルクェイドだったりする。

 一瞬、遠野家のロビーにやたらと冷たい風が吹いたような気がした。

 「・・・私から言わせれば、あなた方2人ともが迷惑そのものです」

 その変わった空気の中で、最初に口を開いたのは秋葉だった。

 「さすがに兄さんがお世話になった方ですから、無下にもするわけにいかないので多少のことは目を瞑って

 おりましたが、あまりに目に余る振る舞いをされますとこちらもそれなりの対応を・・・」

 「まぁまぁ、固い事は言わないでよ。

 将来は姉妹になる間柄なんだから、仲良くしよ〜よ」

 「だ・・・・だ、だ、だ、だ、誰と誰が何で姉妹にならなければいけないんですか!?」

 秋葉に最後まで言わせず、ポンポンと肩を叩けるくらいの度胸があるのはアルクェイドくらいだろう。


 「まぁ、私が来れば料理なんて毎日でも作ってあげるからさ。

  なんだったら、志貴には”あ〜ん”て食べさせてあげても良いんだけどな」

 「なっなっなっなっ・・・・」

 さっきまでは少しだけ揺れていた赤い秋葉の髪が、今度は激しく波打ち始めていた。

 「あ、秋葉落ちつけ。コレくらいで怒ってたらアルクェイドの相手はできないぞ」

 「別に相手なんかしたくはありません!!

  兄さんが”もう来るな!”とびしっと言ってくれればそれだけで事は済むんですっ!

  兄さんにその、あの、あ、”あ〜ん”っていうのは秋葉がして、さ、差し上げます・・・から」

 なんだか微妙に論点が変わってきているのは気のせいだろうか。

 しかも、シエル先輩の表情が激変してるし、アルクェイドや翡翠に琥珀さんの様子を見る限り、

さっきよりも何だかまわりの空気が痛いような気がする。

 「あ、そうだ料理のことだよ、誰に料理のことを頼むことにするかを話しているんだよな。あはは」

 少し俯いて両手を薄い(といったら間違い無く殺されるが)胸の前でもじもじとしている秋葉の頭の上に

手を置いてぽんぽんと軽く叩きながら秋葉以外の全員からの視線を見ないように上を向きながら呟いた。

 すると、今度はアルクェイドやシエル先輩が入ってきた窓とは反対側の、普通に玄関からくれば開ける事に

なるドアががちゃりと開いた。

 「えっと、料理ができれば良いんですか?」

 「それは良いことを聞いたわ」

 「へ? あきらちゃんに・・・弓塚?」

 いきなり、以前ちょっとしたきっかけで知り合った秋葉の後輩のあきらちゃんと、なぜか弓塚がそろって

入ってきた。

 (注:弓塚が夜以外も歩いているじゃないか、ということは突っ込まないで下さいね・汗
    一応、吸血鬼化はしてますが)

 「あら・・・瀬尾、今日はどうしたのかしら?」

 秋葉が、少し妖しげな口調で問い掛ける。

 その秋葉の声を聞いた瞬間、ぴきぃん、とこちらを向いて小さくてを振っていたあきらちゃんが凍りついた。

 そして、ぎぎぃっとまるで音を立てているかのようにぎこちなく顔ををこちらから秋葉のほうへと向けた。

 「あ、あ・・秋葉先輩。どうも、おじゃましま・・・す」

 先程の僕に見せた明るさは何処へいったのか、しかられている子犬のように秋葉をおどおどと見上げている。

 「いらっしゃい。と言いたい所なんですが、今日はあいにくと取りこんでまして、ね。

  委員会のことなら明日学校ででも伺うけれど?」

 どうも”じゃまだから帰りなさい”と言外の圧力を込めているようにしか見えない。
 
 あ〜、あきらちゃんが何だか泣きそうな表情になってる。

 いくらなんでも可哀相だ、と助け舟を出そうとしたがそれより前に琥珀が一歩前へと踏み出していた。

 「秋葉様。弓塚様と瀬尾様は私がお呼びいたしたのです」

 「琥珀が・・・?」

 いかにも不審そうな声を出しながら琥珀さんを見る秋葉。
 「ええ、しかもその取りこんでいる件でお呼びしたんですよ」

 しかし、その秋葉の疑惑の眼差しにも全く動じずに、笑顔で返す琥珀さんもさすがだった。



 第2話 終わり



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