月姫 Short Story

  料理の鉄人!?


  第4話


 注:これは、基本的には「シエルグッドED」後として考えはいますが、
   あまり厳密ではなかったりします。(おい
   「月姫PLUSDISC」をプレイされた方は判ると思いますが、
   アレ(閑話2話)と同じようなことと思ってください。



 翌日の夕方。


 遠野家の居間は、前日までと打って変わった様相を呈していた。

 「今日はすこし遅れて帰宅していただけませんか?」

 という琥珀さんの妙なお願いもあり、有彦とゲーセンで時間をつぶしてから遠野家の門をくぐった。

 そして居間に入ろうとすると、そこには朝まであった普段の風景が一切無く、なぜか料理用のステンレスの

テーブルや調理器具が6つずつ揃えられていた。

 しかも、それらは中央にある別のテーブルを向くように置かれていて、その中央のテーブルにはすでに幾つもの

食材が山のように積まれていた。

 「・・・・・なんだ、こりゃ」

 さらに、その部屋の中央のテーブルの奥の一段高いところに小さいやたら豪華そうな食卓が置かれていた。

 見たくは無かったが、そこには「審査員・志貴様」というプレートが書かれて置いてあった。

 さらにその脇には、それよりもふた周りほど小さな文字で「解説・琥珀」と書かれているプレートも。

 「琥珀さん・・・凝りすぎだってば」

 ここまで来るともう怒る気力も無く、”一体これだけのバイタリティは何処から来るんだろう?”という

疑問しか浮かばなかった。
 
 「あ、お帰りなさい、志貴さま」

 パタパタといつもの和服姿で奥のほうからこちらの姿を見つけた琥珀さんが足早に近づいてきた。

 和服から出た右腕を覆う白い包帯が痛々しい。

 「琥珀さん・・・これは・・・」

 「まぁまぁ、せっかくの機会ですからこれくらいは盛り上げないと。

  みなさんは先程からすでに準備に入ってますから、あとは志貴さんをお待ちしていたんですよ」
 
 さぁさぁ、という琥珀さんの左腕に背中を押され、部屋に戻って制服から着替えた。

 「・・・あれ? そういえば翡翠が来ないな?」

 ちゃんと畳まれて置いてあった普段着に袖を通しながらも、普段だったら帰宅してら直ぐに来るはずの

翡翠の姿が見えないことに気がついた。

 翡翠も琥珀さんの手伝いにでも巻き込まれているのかと思い、翡翠が来るのを待たずに居間(会場?)に

戻ることにした。

 「さぁさぁ志貴さん、こちらへどうぞ」

 着替えて戻ると、待ち構えていた琥珀さんに背中を押されながら、先程目に入ってしまった、”審査員”と

プレートのついた椅子に有無を言わさずに座らされてしまった。

 そして、僕を椅子に座らせた瞬間、袂の中からごそごそとリモコンを取りだし、おもむろにボタンを押した。

 すると、シャーッと窓にカーテンが自動でかかり、外から差しこんでいた夕日をすべて遮った。

 次に琥珀さんがボタンを押すと、今後は部屋の明かりがすべて落ち、あたりが真っ暗になった・・・いや、

なぜが琥珀さんのところにだけスポットライトが当たり、和服のその姿を浮かび上がらせていた。

 しかも、次にボタンを押したあとで、また袂のなかで手を動かしたかと思うと、今度はリモコンではなく、

真っ赤なリンゴをなぜが手に持っていた。

 「私の記憶が確かなら・・・」

 しかも、琥珀さんがいつもの口調で宙を見ながら話し始めると同時に、重厚なクラシック調の音楽が・・・

 そこで、琥珀さんはかぷり、と器用に左手でリンゴを一口齧る。

 一瞬、どこぞの学芸会の様に、そのままリンゴを齧った直後に気を失ったらどうしようかとも思ったが、さすがに

そういった展開ではないらしい。

 「・・・愛する人に作るという事ほど、最高の料理の機会はないでしょう。

  古より語り尽くされた名言にも存在します・・・料理は愛情、と」

 ほんとに真面目そうに語る琥珀さんに、暗闇のどこかから”ぷっ”という吹き出したような声が聞こえた。

 しかし、琥珀さんはまったく動じることなく、演技(?)を続けている。

 「今日ここに集いし各人は、いずれも自分の愛情そのものをすべて包み隠さずその腕に込め、

 愛する相手の口元に捧げる為に額に汗して働きし乙女っ!」

 そこで琥珀さんが口調を強めると、今度は6つのスポットライトがぱっと別の場所に当てられる。

 ・・・するとそこには、アルクェイド、シエル先輩、秋葉、弓塚、あきら、翡翠が立っていた。

 ただ、何故かシエル先輩とアルクェイドはお互いに剣と拳で衝突直前の状態であったが。

 「・・・・・場外乱闘は即失格となりますのでご注意下さいね」

 琥珀さんは普段の口調に戻って注意すると、渋々ながらも2人とも武器を納めた。

 その様子を見た後で、琥珀さんはこちらに笑顔を向けた。
 
 「・・・時間も無いので、すでに料理は作っちゃってもらってます。

  という事で志貴さん、これから試食のほうをお願いしますね☆」

 「あの・・・あの積まれている食材とキッチン道具一式は?」

 「ああ、あれは飾りですよ。

  何も無いとさすがに寂しいじゃないですか。だからイミテーションを借りてきました☆」

 その後で、「どうせあの方達ではまともにあれらを使っても・・・」という小声の台詞がどこからか

聞こえたような気がした。

 果たしてどのようなモノが出てくるのか、考えると胃のほうが萎縮しそうになったのでできるだけ

料理が運ばれてくるまで考えないようにした。 
 


 第4話 終わり



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