月姫 Short Story

  料理の鉄人!?


  第5話


 注:これは、基本的には「シエルグッドED」後として考えはいますが、
   あまり厳密ではなかったりします。(おい
   「月姫PLUSDISC」をプレイされた方は判ると思いますが、
   アレ(閑話2話)と同じようなことと思ってください。



 「では、まず最初はシエルさんの作品です」

 どうやら、くじ引きで順番は決めていたらしい。

 ご丁寧に、”順番抽選箱”とかわいらしい文字で書かれたくじ引き用の箱が、琥珀さんの解説用(?)の

机の脇に置かれていたりする。

 その琥珀さんが、アルミ蓋の付いたお盆をテーブルまで持ってきた。

 その横のシエル先輩が、何故か学生服ではなくて教会のあの服装というのがちょっと不安だったりする。

 しかし、当の先輩はにこにことこちらをみて微笑んでいる。

 「さ、志貴くん。どうぞ召し上がってくださいな☆」

 そういって、丁寧に目の前に置かれたお盆の蓋をぱかっと開ける。

 するとそこには色とりどりの・・・ではなく、黄色で揃えられた皿が並べられていた。

 「まぁ、予想はしていたんだけどね」

 カレーライス、カレーパン、カレー味付きサラダ、カレーうどんが並べられていた。

 さすがにこれだけ並ぶと、漂うカレーの香りだけで胃のほうが疲れを感じてしまう。

 それでも一通り何口か食べると、すこし妙な事に気がついた。

 「あれ? これって何か昔良く食べたような味と似てるんだけどなぁ・・・」

 カレーライスを少し食べてから、ふと記憶をたどる。

 「えっと、良く夏休みとかに有彦のアパートで暖めて食ったレトルトの・・・え?

  ま、まさか先輩、これって手作りじゃないの?」

 「あは、気付いちゃいましたか。その通りレトルトです。

  ちなみにご飯はサ○ウのご飯だったりしますけど、それも気付きましたか?」

 あっけらかんと言うシエル先輩に、控えていたほかのメンバーがブーイングをする。

 「先輩、それは反則ではないのですか?」

 「やっぱりドス黒いわね」

 「そんな、先輩に出来合いのものを食べさせるなんて・・・」

 秋葉、アルクェイド、あきらちゃんがそれぞれ非難の言葉をぶつける。

 ちなみに、カレーライス以外は、サラダは近所のスーパーで、カレーうどんは何とカップ麺のをそれぞれ

準備して入れ物だけを変えたという事だった。

 「まぁ、出来合いのものを使ったら反則、というルールは作りませんでしたからねぇ」

 と琥珀さんも困ったような笑顔を浮かべている。

 「あ、でも手作りのものもちゃんとあるんですよ」

 手を胸の前で合わせてシエル先輩が嬉しそうに言ったあとでそっと指で示したのは、デザートのプリンだった。

 「へぇ、先輩もこういったお菓子とか作るんですかぁ」

 「ええ、これはお店では売ってないので、自分で作るしかないからなんですけどね」

 だから時々自分でつくったりするんですよ、と照れたような仕草を見せるシエル先輩の

先にあるプリンは、どう見ても普通のプリンにしか見えないんですけど・・・

 まぁ、食べて見ないと判らない、と思い、上に乗っかったカラメルソースと、したの黄色いプリンの

部分を一緒に掬って口に入れた瞬間、良く考えるべきだったと後悔した。

 「・・・・・・・・・確かに、これはお店では売らないと思うよ、先輩」

 口の中で暴れる甘いソースと、カレー味のプリンに絶えながら思ったままの意見を述べた。

 間違って企画が通ってどこかの店が販売したとしても、売れるのはシエル先輩の分くらいだろう。

 テーブルの脇に用意されたお茶で口の中を濯いでから、琥珀さんに渡された採点表に「50点」と

書きこんだ。

 まぁ、市販モノがメインでは採点も何もあったものではないが、ささやかながら「女の子の手作り」を

期待していた分ちょっと残念だった。

 「それでは・・・つぎはあきらさんですね」

 シエル先輩がちょっと残念そうにお盆を片付けると、琥珀さんに呼ばれたのはあきらちゃんだった。

 「えへへ・・・ちょっと緊張してます」

 いつもの上目使いでこちらをみるあきらちゃん。

 制服の上からのエプロン姿がまた可愛らしい。しかも、学校で使っているものらしく、胸のところに

”瀬尾”とマジックで書かれているのも妙に初々しい。

 まぁ、後ろのほうで秋葉が腕を組んでじぃ〜と見ているのはあきらちゃんには黙っておこう。

 で、肝心のものはどうかと勢い良く目の前に置かれたお盆の蓋を開けた。

 「・・・・・ご飯と味噌汁?」

 そこには、まだ湯気の出ている真っ白なご飯と、豆腐と葱の浮かんでいる味噌汁が乗っかっていた。

 しかも、その脇にたくあんがちょこっと小皿に置いてあったりする。

 「やはり日本人ならお米とお味噌は基本じゃないかと思うんです」

 そういいながらも、こちらを不安そうに見ている。

 見た目にはとくに危険性(?)は無さそうだったので、とりあえず箸を取って食べて見ることにした。

 「ん・・・おいしい」

 ご飯もちゃんと炊けてるし、味も悪くない、どころかかなりおいしく感じた。

 そして、味噌汁のほうも味噌の塊とか、切れてない大きな豆腐とかもなかったし、味は以前毎日食べていた

有間のおばさんの腕前にはさすがに少し及ばないが、それでも十分においしかった。

 「ほんとですか!?」

 さっきまでの不安そうな眼差しから変わって、今度は嬉しさを全身で表すあきらちゃん。
 
 「ほんとだって。これなら毎日食べたいくらいだよ。

  でも、できれば何か他のおかずも欲しかったりするんだけどなぁ〜」 

 さすがに、毎日ご飯と味噌汁だけというのは勘弁して欲しいところなので、正直に言ってみた。

 すると、笑顔だったあきらちゃんの顔がすこし引きつった。

 「あう。やっぱりそう思いますよね・・・」

 「う〜ん、さすがに毎日これだけっていうのは、ちょっと、ね」

 「えっと、じつはまだこれしか上手く作れないんです。

  まだできませんけれど、いつかきっと覚えますから・・・」

 後半はどこかのお姫様が言ったような台詞を言いながら、あきらちゃんは恥ずかしそうに縮こまる。

 そんなあきらちゃんは、料理が失敗して旦那に謝ってる新妻のようでなんか・・・良かったりする。

 思わずがしっと両手で抱きしめたくなるのを、これもまたどこぞの泥棒と同じようにこらえる。

 まぁ、ちょっと兄離れのできていない秋葉の前でそんなことをしたら、あきらちゃんが明日から

学校でいじめられるんじゃないかと心配だったりするのが理由だけど。

 「うん、でもいまはこれで十分じゃないのかな。まだまだこれからなんだし。

  うん、あきらちゃんと結婚する相手は幸せだね」

 そういって頭を撫でると、あきらちゃんは何故か真っ赤になって眼を潤ませて見上げてくる。

 「あ、あの。私は・・・しきせんぱ・・・ひっ!」

 何か言おうとしたあきらちゃんだったけれど、ぽん、と肩に置かれた手にびっくりして言葉は途中で

止まってしまった。

 「瀬尾。ちょっと話したいことがあるんだけど・・・いいかしら?」

 「と、と、遠野・・・先輩・・・」

 やけに不機嫌な秋葉の声に、瞬間的にあきらちゃんが凍りついた。

 髪を真っ赤にして額に青筋を浮かべながらも笑おうとしている秋葉は、お兄ちゃんでもかなり怖い。

 そして、そのまま固まってしまったあきらちゃんを、秋葉は軽々と片手でズルズルと引きずっていった。

 ・・・ただ不思議なことに、琥珀さんをはじめ誰もそれを止めなかった。

 2人の姿が見えなくなってからまもなく、あきらちゃんの悲鳴が聞こえて、それからすぐに、まだ少し

怒っている秋葉と、頭を押さえてすこし涙ぐんでいるあきらちゃんが姿を再び現した。

 「さ、次の方に移りますか」

 それを見届けてから、何事も無かったかのように琥珀さんが話しかけてきた。

 なぜかすこし不機嫌そうに見える琥珀さんの視線から眼をそらせてから、「80点」と採点欄に書きこんだ。

 「で、次は・・・弓塚さんか」

 琥珀さんの脇には、いつもの制服姿の弓塚がこちらに手を振っていた。

 「いまの子がご飯にお味噌汁なら、私だって問題無いとおもうんだけどな・・・?」

 「・・・・・う〜ん、難しい問題だね」

 目の前に置かれたトーストとコーヒーをみて、すこし考えてしまう。
 
 確かにさっきのあきらちゃんのを和食の基本とすれば、これは・・・洋食の基本なのだろうか?
 
 「まぁ、いいか。とりあえず・・・いただきます」

 そしてぱくっと一口トーストを齧ったところで止まった。

 「甘っ!」

 てっきりバターかマーガリンでも塗ってあるのかと思っていたそれは、バターの上に蜂蜜までぬって

めちゃめちゃ甘くしたほとんどお菓子に近いような代物だった。

 「そう? わたしはずっとそれを朝ご飯に食べてたんだけど・・・」

 「できれば、ずっと夕飯で食べていたものを作って欲しかったんだけどね」

 「う〜んと・・・結局あんまり家ではやらなかったからね、こういうの」

 少し寂しそうに苦笑する弓塚。

 まぁ今となってはしょうがないか、とさすがに同情しながら、口直しにコーヒーを・・・飲もうとして

一口で吹き出した。

 さっきのトースト並に甘い、色のついた砂糖水としか形容できないソレに目が点になった。

 「う。もしかして弓塚、普段ブラックのコーヒーとかって飲んだ事ある?」

 その質問に、弓塚はすごく驚いたのか目を大きく見開いた。

 「まさか、そんなの飲まないわよ。

  あんな苦いだけの毒みたいな状態のままなんて。体にいいわけないんだから」

 「・・・・・・・・・・」

 まぁ、このあたりは味覚の違いということで仕方の無いことなんだろうか。
 
 それ以前に、料理勝負にトーストとコーヒーで望むということ自体に問題があるような気もしないではない。

 弓塚には見えないように「30点」と書きこみながらそんな事を考えた。
   


 第5話 終わり



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