月姫 Short Story #2

  タイトル未定(おい)


 能書き、もとい、前書き。

 これは別に誰のED後、というものでは無かったりします。
 ・・・単に「誰とも結ばれなかった」結末なんてのがあったり
したとでも思っていただければ幸いです。(汗)


 第2話 淑女(?)協定

 その日の午後。

 遠野家には、志貴を除くいつもの女性陣が何故か琥珀の部屋に集合していた。

 普段から家に居る琥珀と翡翠、そして毎日を悠々自適に過ごしているアルクェイドはともかく、
シエルと秋葉は学校が終わるなり最大限のスピードで遠野家へと戻っていた。

 さらにシエルは有彦に、「できるだけ遠野君と遅く帰ってきてください」と頼んでいた。

 「え、どうしてですか?」の問いに、シエルは「遠野家で女の子だけのお茶会をするんです」と
説明していた。・・・・・確かに嘘はついていない。
 ただ、中心となる話題が”今後の志貴くん争奪戦について”と言っていないだけである。

 丸いちゃぶ台を囲むようにして、琥珀、翡翠、秋葉、アルクェイド、シエル、そして何故か
さつきと晶までもが参加していた。
 人数分のお茶の入った湯のみと、せんべいが置かれているあたりが何とも琥珀の部屋らしい。

 「・・・では、始めたいと思います」
 琥珀が全員が揃って息が整ったところを見計らって切り出した。
 ごくり、と喉のなる音がどこかから聞こえてきた。

 参加者の表情を見ると、緊張を表情に出しているのは晶とさつきの2人。
 その他は、何故か不機嫌そうにしている秋葉と、無表情の翡翠。
 そして、なにか「わくわく」とでも音が聞こえてきそうな表情をしているのが残りのシエル、
アルクェイド、琥珀の3人。

 「ここ数日の騒動で、志貴さんの部屋がかなり大変な状態になっているのは皆さんおわかりですね」

 ・・・だれも言葉を返さなかった。
 それを気にした様子も無く、琥珀はさらに話を進める。

 毎日の様に繰り返される騒動、崩れる壁、割れるガラス。
 その度に修繕はされるが、その結果、志貴でなくても、少しアレルギー体質の人間ならばちょっと
生活するのが辛いような化学物質の匂いにつつまれた部屋。

 最大の原因であるアルクェイドは天井のほうを見上げて視線を交わし、一方、シエルは申し訳なさ
そうに首を竦めて少し俯く。

 「それで提案なんですが、前日に誰が志貴さんの傍に立てるかを公平な勝負で決めたいと思うの
 ですが、如何でしょうか?」

 その琥珀の一言に、空気が動いた。

 真っ先に動いたのは、意外なことに妹の翡翠だった。

 「姉さん。私は、志貴さまに仕える身です。
  私が離れるというわけにはいきません・・・」

 胸元に右手をあて、じっと姉を訴えかけるように見つめる。
 しかし、その翡翠の思いにも、琥珀は動かされなかった。

 「ダメよ翡翠ちゃん。これは仕事とか身分とか一切関係無い、”女の子としての”闘いなんだから」

 そこには、公平さを求めた結果なのか、それとも一人の女としての気持が込められているのかは、
妹にも真相は判らなかった。

 そこで、さらに追い打ちをかけるかのように悪戯っぽい笑みをうかべる。

 「第一、”身も心も”全てを”まだ”捧げているわけではないでしょ?」 
 その爆弾発言に、残りの全員の身体が揺れた。

 「なっ!? み、身もって・・・翡翠っ!?」
 秋葉が髪だけでなく顔までも赤く染めながら声を上ずらせた。

 翡翠は、真っ赤になって言葉も無く俯いてしまった。
 手をもじもじと動かしているあたりは、志貴が見たらかなりくらっとくるのではないだろうか。

 晶とさつきは、顔を赤く染めながら口元に両手を当ててそんな翡翠のほうを見ている。

 「ふうん。まだなら先に手を出して、いえ、手を打っておけばいいのよね」
 慌てている秋葉や晶達を横目で見て薄く笑いながらアルクェイドが全員に聞こえるように呟く。

 そのアルクェイドの一言に、力では全く敵うことのできない晶は今度は困った顔で口をなにやら
ぱくぱくとさせていた。

 いっぽう、シエルは無言のまま厳しい顔つきでびしっと黒鍵をアルクェイドのほうへ向けた。
 「・・・そんな事を、私が許すと思いますか?」

 「へぇ〜、まだ懲りてないんだ。
  もう蘇生もできないんだよ、シエル。・・・それでもやってみるというの?」

 「それが遠野君の為になるのなら、私はためらったりはしません」

 ぴいん、と部屋の空気が張り詰める。
 
 「はいはいはい〜」

 すっ、と共に構えを取ろうとしたまさにその瞬間、ぱんぱんぱん、と良く響く手を叩く音と共に
それぞれ戦闘状態に入ろうとしていた2人の間に、琥珀がさっと入った。

 「お二方とも、だから最初から言っているじゃないですか。
  志貴さまのお部屋を壊すようなことはいけませんよ〜」

 そこで、さらに志貴を叱る時のように指をびしっと立ててポーズを取る。

 「きっと、戦いになって怪我でもしてしまったら、志貴さんがとても悲しんでしまいます。
  そして、傷つけた方には、きついお叱りがあると思いますが・・・」

 その琥珀の一言で、敵意を剥き出しにして睨み合っていたアルクェイドとシエルはお互いの視線を
逸らせた。もっとも、かなり不本意であることはお互いに変わらない様で、顔中に不満の表情を
現していた。

 「・・・じゃぁ、どういう方法で決めようっていうのよ?」

 胸元で腕を組んで不満げな表情を隠しもせずにアルクェイドが琥珀を見据える。

 ・・・・・その腕を組んだ胸元を見てものすごく悔しそうにしている秋葉にはだれも気が
つかなかったのは余談である。

 「志貴さんがお喜びになられる方法がもっともよろしいかと思います。
  そこで、僭越ですがすでに企画をつくってあります」

 「・・・喜ぶって・・・まさかあんな事とかこんな事とか・・・ですか?」

 アルクェイドの視線をいつもの笑顔で受け流した琥珀の笑顔に、今度は晶が顔を赤くしながら
不安そうな視線でみつめた。 

 「あはは。だいじょうぶですよ晶さん。
  今回はそういったコトはありませんから・・・」

 「・・・今回は、っていずれ何か企んでるんじゃないでしょうね?」

 晶へは答えたものの、なぜか秋葉の質問には返事がもどって来なかった。 



 「まぁいいわ、それはあとでじっくり聞くとして。
  それで、どういったことで勝負をしようというの?」

 「それはですね・・・」

 集まっている全員の視線を受けながら、琥珀はすたすたと壁際に置かれていたテーブルに向かう。
 テーブルの上には何かが乗っかっているが、布がかかっていてまだ何があるのかは判らない。

 それを、近づくなり琥珀はさっと布を取ってみせた。
 布の下にあったのは、白いケースと、その横には液晶のディスプレイ。

 「・・・・・・パソコン?」

 だれかの呟きには答えず、琥珀はかちゃかちゃと馴れた手つきで何かを起動させた。

 「・・・・・・え?」

 パチン、と音がしてそこに映し出された画面に、そこにいた琥珀以外の目が点になった。

 第2話 終わり



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