月姫 Short Story #2

  タイトル未定(おい)


 能書き、もとい、前書き。

 これは別に誰のED後、というものでは無かったりします。
 ・・・単に「誰とも結ばれなかった」結末なんてのがあったり
したとでも思っていただければ幸いです。(汗)


 第3話 開戦前夜


 そこに映し出されていたのは、白目のキャラが激しい音楽と共に格闘しているものだった。
 時折、激しく光ったり、なにやら妖しい動きをしながら相手に殴りかかっていったりしている。

 「・・・これ、なに?」

 手を真っ赤に染めながら拳を繰り出す制服姿の女の子と、何本もの剣を使いながら応戦する
黒づくめの修道院にいそうな女の子が画面狭しと暴れまわっている。

 「あ、そちらではありません」

 アルクェイドが画面を指差すと、その画面を見て琥珀がすっとモニターの電源を切った。

 「・・・いま、なにかどこかで見かけたような姿があった気がするんだけど」

 アルクェイドが頬に指を当てながら呟くのに対して、琥珀はにっこりと否定する。

 「気のせいでしょう。格闘ゲームなんて割と似たような設定が多いですし、なにより
 性悪の吸血姫やゾンビになった同級生なんてありふれてますから・・・」

 (・・・・・・・・そうなのかな?)

 その手のジャンルには全然詳しくない多くの面々は、そのいかにも普通です、といった
琥珀の様子に口を挟むことなく受け入れた。

 ただ、このなかではあるいは琥珀を上回るかもしれない知識を持つ晶だけが、疑問の
表情を浮かべていたが、その当の琥珀がずっと晶をじっと見つめていたので何も言えなかった。
 そのにこにこと微笑む琥珀の笑みに、何かが隠れているのを本能的に察知したのかもしれない。

 誰からも異論が出なかったのを確認してから、琥珀が袖のなかからなにやらごそごそと取り出した。

 「昨日、実は志貴さんの部屋からこのようなものが見つかりまして・・・」

 さりげなく差し出された琥珀の手には、なにやらCDのプラスチックケースが1つ。
 そのプラスチックケースの表面を見て、晶だけが「あっ」と小さい声をあげる。
 なんで志貴さんがこれを、という驚きを隠せない呟きとともに目を丸くして琥珀の
手にあるそのモノを見つめている。

 「ん、琥珀、何なのこれは?」

 その晶の様子に秋葉が不審そうに目を細くして琥珀のほうを見る。

 「あ、これはですねぇ・・・」

 といいながら、琥珀は今度はパソコンの脇にある平べったい箱(プレステ)にケースから
取り出したCDをセットした。

 そこから接続されている年季の入ったTVから映し出された画像を見た瞬間、部屋の中にいた
うちの約半数が絶句した。

 テレビから流れてくる「お兄様」とか「兄君」とかさらには「おにいたま」といったとてつもない
妖しげな声が、声も無く静まり返った琥珀さんの部屋に響き渡る。

 「・・・・・」

 秋葉は震える指でテレビを指差しながら、口をぱくぱくとさせていた。
 その目はまるで真昼に幽霊にでもあったかのように見開いている。

 「え、遠野君・・・こんなの持ってるの?」

 ちょっと、いや、かなり意外そうに両手を口に当てておどろいているのはさつきだった。

 「・・・・でも、私は気にしないから・・・・・」

 こっそり独り言のつもりでいったさつきだったが、静まり返った部屋ではその努力も空しく、
呆然自失となっていた秋葉や翡翠などを正気に戻すと共に、その他大勢からもギロリと睨まれて
慌てて小さくなった。

 「・・・ふうん、志貴は妹が欲しかったのかしら?」

 アルクェイドのその一言に一瞬ギクリとした秋葉だったが、次の瞬間には眉を逆立てて鋭い目つきで
アルクェイドを睨みつけた。

 「何を馬鹿なこと言ってるんですか。兄さんには私というれっきとした妹がいるじゃないですか」

 「・・・・・だからじゃないの〜?」

 秋葉の怒気を含んだ言葉にもアルクェイドは当然のごとく動じない。
 逆に、さらに秋葉を揶揄するような口調で言い返す。

 「だってさ、凶暴で残虐な鬼妹とずっといっしょなんだからさ。
  だから、可愛くって優しい妹が欲しくなるのは当然なんじゃないの・・・?」

 「なっ!? な、な、な・・・・」

 ”何ですって”、とあまりの激昂で言葉をまともに発することのできない秋葉。
 しかもアルクェイドの横でシエルが腕組してうんうん頷いているのが秋葉の怒りを加速させる。

 さらに追い討ちをかけるように、「お兄様ぁ〜」などとやたらに甘い声が流れてきて、いっそう
周囲からの視線が痛くなったように秋葉には感じられた。

 「あ、だから晶さんみたいな可愛い年下の女の子には特にやさしいんですかねぇ」

 と、シエルがこれでもかと秋葉の怒りの炎に油を注ぐ。

 「・・・晶?」

 ぎぎぎぃ、っとその鬼もかくやといった表情で今度は晶の方へと視線を動かす。
 一方、突然話題の矛先を向けられた晶はほとんどパニック状態に陥っていた。 

 「な、なんでそこでいきなり私に矛先向けるんですかぁ〜!?」

 すでに半分くらい涙声になっていたりする。
 今までの経験から、こんなときに名前を呼ばれた相手がどんな運命が待っているのかをまさしく
実際になんどか目撃しているだけに、絶対に自分の名前だけは出して欲しくなかった。

 「ふふふふふ・・・競争相手は少しでも少ないほうが良いわよね。
  そういえば、学園祭で私を出し抜こうとした前科もあなたにはある事だし、もしかしたら今度は
 妹の座まで出し抜こうとするかもしれないわよね・・・?」

 秋葉の髪が赤く染まっていくのをみて、さらに晶の表情は恐怖で凍りついていく。

 「そんな恐ろしいこと簡単に出来るわけ無いじゃないですか!
  できるんだったらとっくに・・・あ」

 余計なことを言ってしまった、と気づいたときにはもう遅かった。
 口に手をあてながら、それでもおそるおそる晶が見上げた秋葉は・・・

 「・・・・・ふぅん、やっぱり策は練ったことがあったと言うのね、晶。
  それじゃますますここではっきりとしておかないといけないわね」

 あなたのことは気に入っているけど、兄さんをねらっているとなれば仕方が無いわ、と
右手を胸元で構える。

 その秋葉のしぐさを見て、晶はひぃ、と喉の奥からかすれた声を出すのがやっとだった。
 涙の滲みかかっている両目は既にきつく閉じられていたりする。

 秋葉が、すっと体を軽く沈めようとした絶妙のタイミングで琥珀さんが間に入った。

 「はいはいはい。そのあたりで許してあげて差し上げたらどうですか、秋葉さま」

 「そうね、十分に晶も判った事でしょうし」

 秋葉のそれまでの殺気は瞬時に消えうせ、髪も普段どおりの漆黒へと変化を遂げた。
 そこには、不敵な笑みだけが現れている。

 「・・・・・え?」

 急激な秋葉の変化に、晶は何が起こったか判らずきょとんとしている。
 そんな晶を、秋葉は腕を組んでやや見下ろしている。

 「・・・ホントにあなたに攻撃するわけが無いでしょう?
  いくら私でもそんなことはしません」

 「晶さんのことを妹のように可愛がっている秋葉様ですから」

 「こ、琥珀っ!」

 琥珀がにっこりと晶に向けた言葉に、秋葉は顔を赤くして視線を逸らした。
 その照れた秋葉をちらりと面白そうに見てから、琥珀は晶に近づく。

 「晶さん、秋葉様を出し抜こうとするときは、私は琥珀ちゃんにも気をつけたほうが良いですよ。
  そう簡単に志貴さんの横の座は私達も譲れませんから」

 にこにこ、という音でも聞こえてきそうなその琥珀の笑顔の奥に、先ほどの秋葉の殺気よりも
何か怖いものを本能的に感じ取った。

 晶はさらに別の殺気を感じて振り向くと、じっと自分を見つめる翡翠が立っていた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 その何も言わずにただじっと見つめてくるその視線に、晶は視界が回るような錯覚に囚われた。

 (と、遠野家って、怖い。志貴先輩はいつもこんな人達とよく暮らしていけますね〜!?)

 内心ではいずれ一泊くらいなんとか遠野家で過ごしてみたいという計画もあったのだが、これでは
もし夜中に志貴の部屋に行こうものなら無事に朝を迎えられるとは思えかった。
 
 「まぁ、なにか企んでいらっしゃる晶さんは牽制しておいて・・・」

 ここで一呼吸する琥珀。こういった間の取り方はおそらくこの中では随一に違いない。

 「では本題に入りましょうか」

 さらにぐるりと視線を廻して、全員が自分を見ていることを確認する。

 「ここ最近の志貴さんのご様子、そして、これらのような妖しげなソフトを持っているという事実。
  ・・・ここから導き出される答えは容易に想像が出来ると思います」

 「・・・志貴さんは、もはや今までの生活に退屈し始めたものと推測されます」

 びしぃっ、と効果音でもついていそうなくらいにきっぱりと琥珀は言った。


 第3話 終わり



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