トライアングル!
第2話 祭りの始まり
かくして、俺と芹香、綾香の3人の奇妙な生活が始まった。
とりあえず綾香の引っ越し荷物を渋々と終え、気が付くとあっという間に
休日が終了していた。
泣く泣く自分の部屋を片づけ、綾香の荷物と家具を入れ、今は使われていない
親の部屋に自分の荷物を移動してとりあえず生活できるようになった時には、もう
日はとっぷりと暮れていた。
「あぁ、今日はゆっくりと芹香と過ごすはずだったのになぁ・・・」
熱い湯の入った浴槽に体を沈めて、深呼吸する。
・・・とにかく体力勝負の一日だった。荷物は殆ど俺と綾香が運んでいたので、
芹香が掃除をするという分担だった。
といっても、ほとんどの荷物は俺が運ばされたけど。
それで、夕食の準備を芹香がしている間に、とりあえず一番頑張った(?)俺が
一番風呂に入ることになった。
「・・・・・ほんとに疲れた一日だったなぁ」
湯気でうすぼんやりと見える白い天井を見上げる。
こうやってお風呂に入って、そして、お風呂から上がると芹香がエプロン姿で
食事を作っていて・・・
意外だったのは、芹香が非常に料理が上手な事だった。お嬢様、ともなると
ほとんど料理なんてしてないだろうと思っていたら、ものの見事な手際で
これまた意外なことに、ごく普通の食事を作ってしまった。
てっきりフランス料理とかでもやるのかと思いきや、ご飯に味噌汁、焼魚といった
「おふくろの味」だった。
後で聞いたら、一応一通りの料理はできるように先生が付いて教わったらしい。
・・・お嬢様も大変なんだな、とその時は妙な納得をしたんだけれども。
(今日はどんなメニューなのかな?)
何を作ってくれるんだろうと期待してこうやって湯船に浸かっていると、本当に
新婚家庭みたいだなと、妙にこそばゆい感覚に襲われた。
(これで、一緒にお風呂に入って、背中を流してくれたりすると最高なんだけ
どなぁ)
ろくでもないことを考えたその時に・・・
「背中を流しましょうか?」
脱衣所から声が聞こえた。
「・・・へ? ・・・綾香か?」
「お疲れでしょう? だ・か・ら☆・・・」
一瞬思考が停止する。脱衣所ではそのあいだも綾香が服を・・・脱いでた。
次第に脱衣所との間の曇りガラスに映る姿が肌色になる。
「ちょ、ちょっと待てって・・・」
「何あわててるのよ? いつも姉さんの裸見てるくせに。」
「ソレとコレとは全然関係ないだろうが!?」
「似たようなもんでしょう? 良く似てるわよ。」
そう言いながらも服を脱ぐ手は休めていない。
何か問題が違うような気がするが、かなり動転していたのでそこまで気が
回らなかった。
「だ〜か〜ら〜、何考えてるんだお前は!?」
「べっつにぃ〜、ただ一緒にお風呂入ろうかなって・・・」
ガラガラガラ・・・・・
湯煙のこもった浴室に、体にタオルを巻いた綾香が入ってきた瞬間。
ぴき〜〜〜ん
綾香が浴室に入ってきた瞬間に、気温が氷点下まで下がった。
「あ・・・・・・」
「えっ・・・何?」
俺と綾香の動きが止まった。
脱衣所の端にさらに人影が・・って、他には芹香しかいないはず。
しかも、良く見るとストレートの長い髪がふわふら中に漂っている様に見える。
そこでは、綾香が芹香の抗議の視線に刺されていた。
「・・・・」
「え? 何してるのって? まぁやっかいになってるんだし、背中くらいは
流してあげようかなぁ・・・って、ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなことはしなくて良いです、って。
でも、姉さんはいつもしてるんでしょ?」
ひゅうぅぅぅぅ〜〜〜
室温が氷点下からさらに数十度下がった。
「あぁ〜〜ごめんなさいごめんなさい!!」
あわてて退散する綾香。エクストリームの覇者をものの見事に撃退するところは
あるいは芹香が参加すれば優勝出来そうな雰囲気だ。
ただ、魔法が格闘技として認められるかどうかは別として。
あ、良く見たら綾香は肌色っぽいビキニつけてやがった。
(ちょっとは期待してたのに・・・)
そう思った矢先、浸かっていた湯船が冷水に変わった。
「つ、冷てぇぇぇっ!」
これも芹香の仕業なのには間違いないだろう。
「せ、芹香ぁっ」
ふと見るともうそこには芹香の姿もなかった。
(もしかして・・・嫉妬・・・してるのかな?)
芹香がそういう気持ちを出してくれたという事がとちょっと嬉しかった。
普段あまり感情を出すことがない(というか、俺自身が気が付いていない
だけなのかも知れないが)ので、ストレートにそういった気持ちを表して
くれることが貴重だった。
「・・・・・・へ、へっくしょいっ!」
・・・・・まぁ、ほどほどにはして欲しいけれども・・・・・
〜〜〜〜第2話 終〜〜〜〜
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