GoGoウェイトレス!
第1話 波乱の予感
ここは閉店後のPiaキャロット2号店、女子更衣室の入り口。
みんなは既に帰ってしまっていて、残っているのは涼子さんと葵さん、そして
僕の3人だけだった。
(葵さんから、「見せたいものがあるから」って声をかけられたんで、残ったんだけど
一体、何の事だろう?)
そう思って待つこと30分、ひたすら女子更衣室の前に立ち尽くしていた。
どうやら涼子さんも関係しているみたいだけど。
(そういえば昨日、一緒に帰宅した時はなんか変な様子だったけど、それと
関係が有るのかな?)
夏の温泉での一件を経て、涼子さんと正式につきあい始めてからまだ2ヶ月。
僕は学校が始まってしまい、夏休みの様に昼間のバイトが出来なくなってしまったが、
何とか夕方からのバイトで継続採用を認められた。
Piaキャロットでのバイトはすごく楽しいが、それ以上に、涼子さんと同じ時間を
少しでも長く取れることが出来たというのが非常に嬉しかった。
残念ながら、もう寮に住むことは認められなかったが、それでも涼子さんが休暇の前日
の夜などは、泊まりに行って朝まで一緒に過ごしている。
まぁ、大抵葵さんが宴会をやりに押し掛けてくるけど。
〜〜ちょっと前に遡って、昨日の事〜〜
もう夏も終わりを告げ、秋もかなり深くなってきたこの頃になって、食欲の秋と
言うわけでもないだろうけど、Piaキャロットも繁盛していた。
ただ、繁盛しすぎなのか、かなりお客さんの数も多く、現場スタッフも疲れが溜まって
きていた。
店長は本店からアルバイトの援助を頼もうとしたらしいんだけど、本店もかなり忙しい
らしく、現状では無理という話だった。
そういうことで、アルバイトを募集するかどうかを検討しています、と昨日のミーティ
ングでは涼子さんが話していた。
ただ、その席で葵さんがにっこりしながら
「良い考えが有るんだけど・・・」
って横の涼子さんになにかこそこそと耳打ちをした。
その途端、涼子さんの顔色が変わった。
「そ、そんなの無理よ、無理!」
「え〜? 名案だとは思うんだけどなぁ〜☆」
一体何を葵さんが提案したのかみんな知りたかったけど、二人ともそれに関しては
何も話してくれなかった。
だけど、帰り際に葵さんが僕にこっそり
「明日を楽しみにしていなさい」
って、ちょっと意地の悪そうな笑顔を涼子さんに見られないように僕に向けた。
〜〜そして、また更衣室前〜〜
「ほらほら涼子、早く彼に見せてあげなさいってば☆」
「ちょ、ちょっと葵。まだ準備ができてないのに・・・・・」
(なんか足音だけは聞こえるんだよなぁ。何をやってるのかはさっぱり
判らないけど)
何が出るのかドキドキする、デザートの試食を楽しみにしている美奈ちゃんの
気持ちが少しは解るような気がした。
「さっきから何を準備してるっていうのよぉ。ずっとドアの前でつっ立ってる
だけじゃないの。」
「う・・・・・」
「彼もずっと待ってるんだから、いいかげんにしたら?」
(あ、かなり葵さんもイラついてるな。これ以上じらすと危ないかも)
「・・・・・・・・」
「何だったらすっ裸で出てみる? 案外その方が彼も喜ぶかも・・・」
「ば、ばかなこと言わないでよ!」
「だったら早くしなさいって」
「わ、・・・わかったわよ・・・」
(一体、中ではどんな事になってるんだ?)
ドアをこちらから開けてみたいという誘惑にちょっと惹かれつつも、それを
行った後の恐ろしさを考えて留まった。
そうこうしているうちに。
が・ちゃ・・・
ゆっくりと、開けた人の気持ちそのままにゆっくりとドアが開いていく。
ドアの影から、ゆっくりと人影が現れた。ウェイトレスの制服だったんで、てっきり
葵さんだと思ったんだけど。
腰まで伸びた金色の髪、そして眼鏡が・・・・
そこには、いつものマネージャーの服からウェイトレス姿に着替えた
涼子さんが立っていた。
(ちなみに作者の個人的嗜好では、メイドタイプと仮定しています)
「に、似合う・・・かしら・・・?」
頬を真っ赤に染めて俯き加減に涼子さんが呟いた。
両手を前にしてもじもじさせている仕草がとっても・・・・・
・・・か、可愛すぎるっっっっっっ!
「うん、すっごく可愛い!」
涼子さんが自分よりも3つも年上だということはすっかり気が付かなかった。
「か、可愛いって・・・。私はあなたより年上なのに。」
顔を赤くしたままで、涼子さんは少し怒ったような表情になった。
”可愛い”の言葉はちょっと不満だったようだ。
「可愛いものは、可愛いんです。
それに、涼子さんは涼子さんだから、どんな涼子さんでも可愛いんです」
(あ、なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきたなぁ)
ただ、今まで同じ時を過ごしてきた経験上、涼子さんは僕が今どう思っているか、
ということに関しては、いつもはっきりと言って欲しがっていた。
たとえそれが、お互いに食い違う意見でも。
ただそれは、これからの同じ時を過ごしていく上でお互いを理解する為に必要な
事だから、と話し合って決めたことだった。
(けれど、こうもはっきりと「可愛い」って言うのは・・・恥ずかしいな)
さすがに言ってからちょっと考えたが。
その恥ずかしさが伝染ったのか、涼子さんもさらに顔を赤らめた。
その瞳がちょっと潤んでいるように見えるのは、気のせいだろうか?
「あ・・・、そ、そう・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
お互い何て言葉を繋いで良いか判らず、足下を見つめ合ってしまった。
「はいはいはい、ラブラブなのは良く判ったから、それくらいにしてね。
でないと、独り身の私にとってはちょっとツライわよ。」
少し拗ねたような声で葵さんが割って入った。
「でも、良く似合ってるでしょう?
本当は眼鏡も取ってコンタクトにした方がいいって言ったんだけど
涼子がどうしても嫌がるから、そのままだけどね。」
「・・・でも、どうして涼子さんがこの制服を?」
一番疑問に思っていることを葵さんに質問した。
「それがね、ここの所ちょっと忙しくって、出来れば新規にバイトを
募集したかったんだけど、急には無理そうだし、この時期を乗り切れば大丈夫じゃ
ないかっていう感じだから、涼子に少しの間だけ手伝ってもらおうかと思ったの。」
脳裏に昨日のミィーティングの風景が蘇る。
葵さんが涼子さんに耳打ちしていたのはこの事だったのか。
「本当は気が進まなかったんだけど、葵も店長もその方がいいって言うし、マネージャーの
仕事も店長と分担してやれば何とかなるって進められて・・・」
「それで、ウェイトレスをするのにさすがにずっとマネージャーの服装っていうのも何だから、
制服になってもらおうって訳なのよ。」
葵さんが涼子さんを指で示す。
「でも、私って葵やつかさちゃんみたいにスタイル良くないから、本当に
やっていけるかどうか不安で・・・それで・・・その・・・」
段々口調が弱くなっていく涼子さん。
「それで、前もってあなたに見て貰ったと言うわけ。
ま、あなたが”似合わない”何ていうとは思ってもいなかったけど。」
赤くなって俯いてる涼子さんを横目で見ながら葵さんが説明してくれた。
「でも、涼子さん。本当に大丈夫なんですか?
マネージャーとウェイトレスを同時にやるなんて・・・」
「大丈夫よ。まったく経験が無いわけじゃないし、忙しいのはお昼と夕方だけだと
思うから、そんなに問題にならないと思うわ。」
「う〜ん、でも・・・」
不安そうに呟くと、背中をバシィ、ってはたかれた。
「大丈夫だって。私もいるし、夕方にはあずさちゃん達も学校からまっすぐ
来てくれるって言うし。
それより今日は、涼子のウェイトレス記念にぱぁ〜っと飲むわよぉ!」
それじゃ着替えるから、と涼子さんと葵さんは更衣室に戻っていった。
・・・また、更衣室前に独り残されてしまった。
(涼子さんは責任感がかなり強いからなぁ、お店に問題が出るとかなり
むりしちゃうんだよな)
マネージャーの仕事だって楽なはずじゃないのに、さらにウェイトレスまで
やろうという涼子さんが、非常に心配になる。
(ホントに大丈夫なのかなぁ、涼子さん・・・・・)
〜〜第1話 終わり〜〜
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