GoGoウェイトレス!
第2話 鈍感と敏感と・・・
〜〜その日の夜、涼子さんの部屋にて〜〜
「でも、本当にびっくりしたな、涼子さんの制服姿。」
「直前まで内緒にしておこうって、葵に強く言われてたのよ。
ごめんなさいね、黙っていて。」
テーブルに向かい合って、涼子さんの作ってくれた夜食をとりながら目を合わせた。
最近は、バイトのあった日の夜はここで食事をしている。
自分自身は学校があるし、彼女はもちろんPiaキャロットの仕事が忙しく、
日曜日も休むことが出来ないので、少しでも同じ時間を過ごしたいから・・・
まあ、たいてい朝まで泊まっていくことになるんだけど。
「でも、本当に可愛かったなぁ・・・」
お店での涼子さんの姿を思い出しながら呟いた。
前にも何回か考えたことが有るんだけど、本当に見られるとは思わなかった。
昔、冗談で「ウェイトレスの制服着た姿を見てみたい」って言ったことが
あったけど、その時の涼子さんは顔を真っ赤にして否定したっけ。
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「そ、そんなの私に似合うわけないでしょうっ!」
「そんなこと無いってば・・・きっと似合うって・・・」
「そんなこと言っても、き、着ませんからねっ」
「涼子さんスタイル良いから、何着ても似合うと思うんだけど」
「・・・・・知りませんっ!」
最後にはぷいっと真っ赤に染まった頬を見せるように横を向いてしまった。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・さん?、・・・さんっ!」
回想している僕を、涼子さんが現実に戻した。
「え、何か言った?」
「どうしたの、急にぼぉ〜っとしちゃって?」
彼女の瞳が不思議そうに見つめる。
「いや、何でもないよ」
まさかここで「涼子さんのウェイトレス姿を想像していた」と正直に言ってしまうと
また彼女の機嫌が変わってしまうので、とりあえずごまかす事にした。
「あ、そういえば明日は僕は倉庫整理だっけ?」
その僕の質問を聞いた瞬間、涼子さんが一瞬凍り付いた。
そして、両手を頬に当てて驚いた表情になった。
「・・・え? あ、いけない!
そうだった、明日はカウンターをやってもらえないかしら?」
困った顔でそう言って、胸の前で両手を合わせた。
「? 別に構わないけど、何か予定が変わったの?」
「ええ。 ちょっとうっかりしていたわ。 本当にごめんなさい。
明日は配達業者さんの予定が変わって、明日送られてくる荷物はほとんど無いの。
だからカウンターの応援に変わって欲しいんだけど・・・」
(涼子さんにしては本当に珍しい事だな、連絡を忘れるなんて・・・
よほど動揺していたんだな、あの時は。)
「うん、全然構わないよ。」
特に問題も無いのでそう返事をした。
「本当? よかったぁ〜」
胸に手を当てて、目を閉じながら大きく息を付く涼子さん。
僕は椅子を降りて、向かい側に座っている涼子さんの後ろに回り込んだ。
「ねぇ、涼子さん。」
そう言いながら、彼女の肩に手を当てた。
「え? な、何?」
「涼子さんの頼みは、僕は断らないよ。 それがどんな事であっても・・・・・」
そして、そのまま抱きしめた。
お互いの顔をあてる。涼子さんの温もりがとても熱く感じる。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
涼子さんは目を閉じて、僕にもたれかかってきた。
僕が涼子さんと出逢ったあの夏から、それから、この両手の中の重みと温もりは、
何に代えても守り抜こうと決めた。
それを感じられる今が、とても幸せに感じられる。
次の日。
今日もPiaキャロット2号店は、非常に忙しかった。
夏休みに突入してから最初の休日でもある今日は、店内は午前中からお客さんが多かった。
子供連れの家族や、朝練習帰りの学生などが中心となっていて、その対応に
美奈ちゃんやつかさちゃんが休む間もなく走り回っていた。
「はい、〜ですね、かしこまりましたっ!」
「すいません、注文おねがいします〜」
「はい、少々お待ち下さいっ!」
(うわ〜、今日もお客さんが一杯居るなぁ〜。)
Piaキャロットが繁盛しているのはとても嬉しいが、同時に仕事の大変さを
考えると複雑な心境になる。
そんな激戦(?)真っ只中に、僕が応援として参加した。
(もし、僕がカウンターに入っても応対しきれなかったら、きっと涼子さんが
出て来るんだな・・・)
当然、これだけお店が忙しいのだから、マネージャーの仕事量も増えているはずだ。
でも、人一倍気を使う涼子さんの事だ、無理をしてでもこっちを手伝うに違いない。
そんなことは絶対にさせられない。
「・・・よしっ、頑張るぞっ」
誰にも聞こえないように呟きながらも、僕は全身に気合いを入れた。
「いらっしゃいませ、Piaキャロットへようこそ!」
そして、夜、まだ閉店までは時間があるが、夕食のピークも過ぎてきて、だいぶ
席にも空きが目立つようになってきた。
「ふぅ〜、ようやく一息つけましたね」
キッチンのそばで待機しながら美奈ちゃんが、お盆を両手で抱えて微笑む。
「うん。昼間と夕方は本当にに忙しいね」
「ほ〜〜んと、もうつかれちゃったよぉ〜」
注文された品物を届け終えたつかさちゃんも話に加わってきた。
「これだけお店が繁盛しているんだから、お給料もすこし上げて欲しいなぁ。
そうすれば、新しい衣装を買っちゃうんだけどぉ〜。」
つかさちゃんの言葉に、僕と美奈ちゃんは目を合わせて微笑んだ。
「・・・・・・?」
その時、ふと視線を感じて店内を見回した。
この仕事を始めてから、視線に対して自分でも驚くほどに敏感になっていた。
それだけ、この仕事というのがお客さんに対して神経を使うのだと言う事を
思い知らされる。
すると、視線の先には僕と同い年くらいの女の子が不安そうにこちらを見ていた。
何かオーダーでも有るのかと思ってテーブルまで行くことにした。
失礼にならないように気を配りながら、さりげなくその女の子の様子を見る。
建物の照明や車のテールライトで彩られた外の景色が落ちついた雰囲気を出している
窓際のテーブルで独り、ずっと座っていたその子は近所の女子校の制服を着ていた。
長いストレートの髪を、胸の辺りまで降ろしている。ほっそりとしていて、
間違っても運動系の部活動はやっていないだろう。そう、何て言うか、木陰で
読書しているのがとても良く似合いそうな、そんな雰囲気を持っている。
その彼女が、何だか不安そうにこちらを見つめている。
(・・・?、なんか僕がこわがらせているみたいな・・・)
「はい、何でしょうか?」
一応マニュアル通りに一礼をして、彼女の方を見つめた。
「あ、あの・・・・・・・・」
可愛く響くソプラノの声が、少し震えている。
「え、えっと・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
てっきり何か注文の品の名前が出てこなくて悩んでいるかと思ったので、携帯の
オーダー用ポケコンを持ったまま待っていると、すっと目の前に白い紙を出された。
「え?」
「あの、コレを受け取って下さい・・・」
不安そうに紙(?)を差し出す彼女。
表面はまっさらで、何も書かれていない。
(・・・・・・はて、何だろう?)
てっきりテーブルに置いて有るアンケートでも中に入っているのかと思って、何の
気無しに受け取った途端、不安そうだった女の子の表情が途端に明るくなった。
まるで、赤点だと思ってたテストの結果が満点だった時のような急激な変化だった。
「あ、ありがとうございます!
それでは、失礼しますっ!。」
そして、今度は顔を何故か赤くして、何か急ぐように帰り支度をして伝票を片手に
レジへと向かっていった。
(あれ? 追加のオーダーじゃなかったんだ・・・)
一体何だったのか良く判らないままぼうっとしてその女の子を見送った。
「まぁ、いいか。」
とりあえず、テーブルの片づけにとりかかった。
・・・・・・店のキャッシャーで、涼子さんが震える手でキーを叩いていたのには
全く気が付かずに・・・・
〜〜第2話 終わり〜〜
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