GoGoウェイトレス!

  第3話  言えない真実


 〜〜その日の閉店後〜〜 

 「・・・・・あれ?」

 今日も一緒に帰ろうかと客席と倉庫の片付けをしてから、事務室の奥にいるはずの

涼子さんの机に行くと、もうそこに姿は無かった。

 普段なら最後まで残っているはずの涼子さんの姿が見えなかったので、事務所の

入り口まで行ってタイムカードを確認したら10分位前に既に出ていた。

 「何か用事でもあったのかなぁ・・・」

 「ばかねぇ〜、あなたも」

 そういっていったん荷物を取りに戻ろうとすると、葵さんが更衣室から姿を見せた。

 「あ、葵さん。

 涼子さんはもう帰っちゃたんですか?」

 そう質問すると、葵さんは少し笑いながらもあきれたような表情になった。

 「帰っちゃったんですか・・・って、まぁ、さっき帰ったんだけどね。

 でも、何で帰っちゃったのか、判らないの?」

 「えっと、今日は特に用事があるって聞いてないですし・・・

 何か急用でも入ったんですかね」

 べしぃっ

 思ったままのことを言った瞬間、葵さんに頭をはたかれた。

 「・・・それ、本気で言ってるの?」

 「え?」

 珍しく、葵さんの顔から穏やかさが消えた。

 いつも笑顔を絶やさず、優しく接してくれる葵さんがそういう表情をするのを

初めて見たような気がする。

 「すいません・・・・判りません」

 昨日の夜は二人で夜を過ごしたし、特に何も変わらない涼子さんだった。

 そして、今日の仕事中も別に普段と変わりなかったような気がする。

 (まぁ、仕事中の涼子さんは私情はまったく挟まない人だから判り辛いけど)

 「はぁ・・・まったく・・・・」

 それまで厳しかった葵さん表情に、いつもの暖かさが戻る。

 「鈍感ねぇ、あなたも。

 まぁ、それくらいでないと涼子とはうまくやっていけないのかもね」

 「・・え?」

 「それじゃはっきり言うけど。

 今日、女の子から貰った手紙には何て書いてあったの?」

 「!!」

 その瞬間、顔から血の気が引いた。

 「み、見てたんですかっ!?」

 まさか誰かに見られているとは思って無かった。

 それで、涼子さんの行動が理解できたような気がした。

 「当たり前じゃない。何年ウェイトレスやってると思ってるの?

 お客の行動とかをチェック出来ないようじゃ勤まらないのよ、ここは」

 ・・・・そうすると、あの場にいたほとんどの店員に見られていた事になる。

 もちろん、マネージャーである涼子さんが見ていなかったという可能性は・・・低い。

 「ということは、涼子さんも?」

 「当然」

 顔から血の気が引いていくのが判った。

 「涼子はちょうどあのときレジにいたんだけど、私でさえ近づけなかったわ。

 数字をたたく指が震えてるんだもの。

  あんな涼子、久しぶりに観たわぁ」

 (さ、最悪だ・・・)

 いくら鈍感だとか朴念仁とか周りからよく言われる自分でさえ、あの時の様子を考えれば、

涼子さんからはどう見えたかは予想はつく。

 自分が、お店に来たお客さんの女の子から、かなり好意的な手紙を貰った、と。

 しかも、あっさりと受け取ってしまってたのもまずかった。

 「で、涼子にはなんて説明するつもり?」

 頭の中で考えているのを知ってか知らずか(多分知っていると思うけど)、葵さんが

興味津々で訊いてくる。

 「・・・・・・」

 「正直に言っちゃえば良いんじゃないの?」

 「そ、それは・・・・・、できません」
 
 「どうして?」

 葵さんの瞳が、すうっと細くなった。

 (それは・・・あの子との約束だからです)

 それを言うことが出来なかった。

 もちろん、訳を全て話せば葵さんはもちろん、涼子さんも誤解を解いてくれるだろう。

 ただ、それはあの女の子との約束を破ることになってしまう。

 貰った手紙を読んだとき、最後のところに

 “絶対にお店の人には内緒にしておいて下さい”

 と書かれてあったし、何よりも真剣に僕を見ていた瞳がはっきりと心に残っている。

 「もし涼子を泣かす様な事になったら、絶対許さないわよ」

 それ以上何も言わない僕を見て、葵さんがきつい口調で言い残してキャロットを出ていった。

〜〜第3話 終わり〜〜

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