GoGoウェイトレス!

  第5話  ねがい



 「ふうん。結局しゃべってくれなかったんだ・・・」

 翌日、Piaキャロットの事務所で葵とお昼を食べながら、昨日の一件を話した。

 ちょうどお客さんの減った時間帯を見計らって、二人同時に休憩に入る。

 ここまま一人でずっと抱えていたら、際限なく落ち込んでいってしまいそうだった。

 そんな様子をすぐに察した葵が、先に「お昼に話しましょ」と声をかけてくれたのが、

本当に嬉しい。

 こういう時、ホントに長いつきあいなんだな、とつくづく実感する。

 私と葵以外誰も居なくなった事務所の片隅のテーブルで、向かい合って座る。

 お互いに食べるともなく、フォークを指で弄んでいた。

 そして、真正面の葵が、意外といった表情で呟いた。

 「あんだけ脅したのに涼子に話さないなんて・・・意外だったわ。

 一体何を隠しているんだか」

 持っていたフォークをテーブルに置き、腕組みをしながら首を傾げる。

 私は、昨日の事を思い出す。

 ”必ずいずれ話すから・・・”

 その時の耕治さんの声が蘇る。

 あの時の耕治さんの表情は、嘘をついている様には見えなかった。

 「それで、涼子は何か言い返したの?」

 葵が少し険しい表情になって尋ねてくる。

 「いいえ。その時は何も言わなかったわ」

 というか、あのときは本当は言いたかった。

 (私にも言えない事なの?

 私には何にも話してくれないの?)

 ただ、耕治さんの眼を見たら、何も言えなくなってしまった。

 「・・・・・・・」

 しばらくの間、沈黙が続く。

 その沈黙をどう取ったのか、葵がさらに厳しい眼になった。

 「いっその事、この場に呼び出して問いつめてみようか?」

 葵の事だから、本当にやりかねない。

 ただ、そんなことをしたら、今までの関係が全て崩れていってしまうのは、

気のせいじゃない。

 それは、私たちが耕治さんの言葉を信用していないという事に他ならないから。
 
 「待って、葵・・・」

 「え?」

 「きっと、耕治くんにもなにか事情があると思うし、いずれ話してくれると・・・」

 「甘いわよ、涼子は」

 最後まで言い終わらない内に葵が私の言葉を遮った。

    葵が、険しい表情のまま私を見つめている。

 その濃紺の瞳に私が映っている。

 「私は・・・信じる」

 その瞳を映し返すかのように、私も真っ直ぐに葵を見た。

 この間、背中から抱きしめてくれたときの暖かさは決して偽りではない。

 あの夏の終わり、公園でささやいてくれた言葉は何処までも澄んで、真っ直ぐだった。

 それは、あの日から今まで変わっていないと信じている。 

 お互いの視線が絡み合う。

 「まあ、そのお互いの優しさが涼子と耕治くんの良いところなのかも知れないわね」

 ふっ、と葵が微笑む。

 「もし、本当に耕治くんが馬鹿だったら・・・

 その時は刺しちゃいなさい☆」

 親指と人差し指で拳銃の真似をして私を指す。

 「でも、もしさっき私が”呼びつけようか?”って訊いたときに、

 涼子が”はい”って言ってたら、私、きっとあなたをひっぱたいてたわよ☆」

 「葵・・・」

 悪戯っ子の様に葵が笑った。

 「さぁ、早く食べちゃいましょ。

 あんまり長いと当の耕治くんにあやしまれちゃうしね」

 「ふふ・・・そうね」



 それから3日・・・

 「ありがとうございました」

 ふぅ・・・

 会計を済ませ、店を出る最後のお客さんに頭を下げた後で、一つ大きく息を付いた。

 どっと体中に疲れを感じてくる。

 マネージャーとウェイトレスの仕事を兼任して既に4日が経過している。

 忙しさも当初の予想以上ということで、結局の所、新たにアルバイトの女の子を

採用することに決まった。

 それが無かったら、この忙しさでこれから先をやっていけるかどうか正直言って不安だったので、

気分的にはずいぶん楽になった。

 「あと3日乗り切れば・・・」

 思わず口に出してしまってから、まわりに聴かれなかったかどうか確かめる。

 (さすがにマネージャーの私が弱気な発言しちゃいけないわよね)

 さっきまで、店長と自分とでアルバイトに応募してきた女の子の面接を行っていた。

 採用予定2名の所に、応募者が20名という予想以上の競争率。

 涼子自身が今着ているメイド風制服などを始めとする、可愛らしい制服のこのレストランで

バイトしてみたいという女の子は結構多いらしい、と改めて気づかされた。

 ただ、さすがに普段から様々な人と接するこの仕事をやっていると、その人を見る眼も

当然ながら鋭くなってくる。

 結局の所、ちゃんと続けられそうなのはその中の4,5人といったところだと思う。

 その中から、面接の時の様子を思い返ながら2人に絞り込み、さっき採用の連絡をした所だった。

 (これでこの夏も何とか乗り切れるかしら・・・)

 そういえば、この夏になってから、仕事の忙しさも相まって、耕治さんとのんびり過ごした日というのが

無いことに気が付いた。

 (連休でも頂いて、どこかいこうかな?)

 ふと、そんな数日前からは予想も付かないような事を考えていた。
 


 「明後日に、全部話します」

 昨日の夜、帰宅したときにアパートの玄関前で私の帰りを待っていてくれた耕治さんが言ってくれた言葉。

 この言葉のお陰で、疲れはあるけれど、どこかそれすらも心地よいものに換えてくれるような不思議な気分が

今の自分自身を満たしていた。



 全ては明日。

 そう思いながら、戸締まりを終えて家路に就いた。


〜〜第5話 終わり〜〜

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