ONE 〜輝く季節へ〜

  みさき先輩SS 「輝いていた季節」

 第1話 春、出会いの前

 「待て、みさきっ!」

 凄い勢いでうしろから雪ちゃんが追いかけてくる。

 何かもの凄く恐いよぉ。  

 「やだよぉっ。

  だって待ってたらぶたれちゃうもん」

 「ぶたれるようなことしてるからでしょうっ、みさきがっ!」

 たぶん、ここで足を止めると雪ちゃんからひどいことをされると思う。

 ・・・とりあえず逃げよう。

 公園の中を、ひたすら逃げ回る。

 雪ちゃんが追っかけてきてるのは、たぶん、うさぎの絵にちょび髭を描いたから。

 年に1回の写生大会で、今日は学校の近くの公園に来てるんだけど、私は絵を描く

のってあんまり好きじゃないし得意でもないから、すぐに飽きちゃった。

 だから、つい一緒に同じ場所で絵を描いていた雪ちゃんに「遊ぼうよ」って言ったん

だけど、絵を描くのが好きな雪ちゃんは相手にしてくれない。

 仕方がなかったから、側でぼ〜っと周りの景色を眺めてたんだけど・・・

 「みさきぃ〜、絶対ゆるさないからね!

 とにかく待ちなさいっ!」

 「やだよ〜。

 そんなこと言われたら待てないよぉ〜」

 あんなに怒るんなら、ちょび髭なんて描かなければ良かったと思ったけど、もう遅いみたい。

 ちょっと雪ちゃんがおトイレに言ってる間に、絵を見せて貰ったんだけど、そこには

公園の森と、脇にある動物小屋が描かれてた。それで、その小屋の中にいるうさぎもちゃんと

入っていたんだけど、髭がなかった。

 てっきり雪ちゃんが描き忘れたのかなと思って、ちょこっと描いてあげたんだけど・・・

 途中で、トイレに行ってた雪ちゃんが戻って来ちゃって、私を見るなり顔色を変えたの。

 あわてて全速力で戻ってきた。

 「み、みさきぃっ!

 あんた何してるの!?」

 「え?

 ほら、雪ちゃんの絵にはあのうさぎのお髭が描いてないでしょ?

 だから、かいてあげたんだよ」

 そう言って、胸を張ってみた。

 ただ、雪ちゃんの表情がどんどん赤く変わっていった。

 「だ、だからって何もマジックで書くこと無いでしょぅ!」

 ・・・・あ。

 ちょうど鉛筆が無かったんで、筆箱の中に入ってた油性のマジックで書いたんだっけ。

 ちょっともう一度雪ちゃんの絵を見てみる。

 「ちょっと・・・太いかな?」

 「ちょっとどころじゃない!

 これじゃ何描いたんだか判らないじゃないの」

 雪ちゃんの絵を持った手がふるふると震えている。

 ・・・・・ちょっと恐い。

 「せ、せっかく賞を取れるように頑張ってみたのに。

 それを、みさき、あんたは・・・」

 このとき既に、私は無意識に走り出してた。

 「ご、ごめんね雪ちゃん。

 わざとじゃないんだよ〜」

 〜〜第1話 終わり〜〜


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