Kanon

Short Story#1  雪の辿り着く場所

 注: これは、名雪とのED後まもなくという設定です。
    ただ、何故か全キャラとの面識を主人公は持っています(笑)
    そこらへんの細かいツッコミは勘弁して下さい。(^^;


 第10話 白銀は固まるよ!?


 ※今回は回想シーンのみです(汗)

 「よいしょ、よいしょ・・・」

 「ほら、もう少しだから頑張って」

 「う〜ん・・・でも、結構大変なんだ・・・ね」

 厚着をしている男の子は既に額に汗を光らせはじめていた。

 「うん。でも、できあがったのを見たら疲れなんてどっかいっちゃうから、きっと」

 集落が良く見渡せる丘の上で、ひたすら雪を積み上げる男の子と、その横で積み上がった雪山の

中を器用に太い木の枝でくり抜いている女の子。

 その女の子は、何事も無いかのように汗一つかかずに作業を続けている。

 そして、疲れたと言うよりはむしろ楽しくて仕方がない、といった表情で作業する女の子にかなりおされる

といった形で男の子が多少ぎこちない動きをしつつもそれに続いている。

 普段それほど体を動かすことなく育ってきた男の子にとっては、この力仕事はかなりきつい事は確かだが、

その楽しそうに汗をかいている女の子を見ていたい、というちょっと不純(?)な動機も手伝ってか、何とか

頑張っていた。



 「かまくらを作ろうよ」

 “何して遊ぶの?”という男の子の問いかけに、女の子はにっこりしながらそう答えた。

 かまくらがどんな物かと言うことは男の子は知識で一応知っていたが、さすがに作ったことは無かった。

 そして、男の子が何も言わない内にその手を取り引っ張って歩き出し始めた。 

 “こっちのほうがいいから”

 そう言いながら今まで来た斜面を少し登り、今度は集落をすこし見下ろす様な場所まで来たところで、

 「う〜んと、このあたりでいいかな?」

 と独り呟きながら、あたりの景色をぐるりと手をかざしながら見渡した。

 男の子もそれにつられるように周囲を見回すと、ちょうど斜面の途中ですこし平坦な部分が拡がっている、

段々畑の様な場所だったことに気付いた。おそらく、樹もこのまわりには立っていないことからすると、

雪の無い季節は実際に誰かが手を入れているかも知れないと男の子は思った。

 実際、来たところを振り返ってみると、そのあたりだけ雪の積もり具合が違っているように見えたので、

おそらくこの深い雪の下にはなにか道でもあるのかも知れない。

 そして、さっき見えた集落がその道のさらに下の方に拡がって見えた。

 まるで自分一人くらい居なくなったとしても、全く気付くことなく変わらない毎日を送ってしまうように

男の子には思えた。



 「・・・ずっと前からの、夢だったの」

 遠くに見える集落から、明かりがぽつぽつと灯り始めていた。

 その景色を作り上げたかまくらの中から二人で並んでじっと見ながら、女の子は夢を見ているようなどこか

熱っぽい声で呟く。

 「夢?」

 聞き返しながら女の子の方に顔をむける男の子。

 その男の子の問いかける視線に気付きながらも、女の子は町並みを見続けたまま視線を逸らさない。

 「うん、ずっと、ずっと前からの、夢・・・

  こんなふうに好きな人と、二人っきりで一緒に生活をするのが夢だったから」

 そう言いながら、女の子は横の男の子に体を預ける。

 一瞬、昼間に触れた女の子の手が凄く冷たかったことを思い出して、身構えた男の子だったが、厚い服越しからでも

伝わってくるのは冷たさではなく、紛れもない人の温もりだった。

 「こんなちいさな雪の壁の家だけど、本当に嬉しいな」

 「そうなんだ・・・」

 男の子は内心はドキドキしながらも、ゆっくりと横にもたれかかっている女の子の手に、自分の手を重ねた。

 「・・・あったかい・・・」

 女の子は、その乗せられた手から伝わってくる温もりに目を細めて呟く。



 「もう、帰らないと・・・」

 どのくらいそのままじっとしていたのだろうか。

 やがて、次第に赤い空が薄黒い色彩を帯びてきていた。

 さすがに真っ暗になるまでには帰らないと、厳しい父親はもとより、誰よりも厳しい姉が許してくれる筈はない。

 それを考えると少し気が重いが、この女の子と一緒にいられる時間と引き替えなら、と思うとまだまだずっと

居たい誘惑に駆られた。

 「ねえ、明日もまた遊ばない?」

 そんな事を考えていると、女の子がこちらをのぞき込むようにして期待に満ちた目でこちらを見上げていた。

 「たぶん・・・大丈夫だと思う。あと2,3日は泊まるはずだから」

 「ホントに!?

  だったら明日の朝、またこの場所に来てくれる?」

 満面の笑みで嬉しさを表現しながら、女の子は男の子の腕を両手で掴んでぶんぶんと揺らした。

 それから山を下りながら、女の子は明日はどんなことをして遊ぼうかと本当に嬉しそうに男の子に話した。

 そして、集落まであと少しとなった場所で女の子は立ち止まった。

 「・・・私の家は、ちょっと別の所にあるから・・・」

 そういってちょっと悲しそうに集落とは離れた方向に視線を一瞬そらしたが、次の瞬間にはまた先程までの

明るい笑顔を男の子に向けた。

 「また明日、きっとだよ!?」

 そう言いながら男の子の方に向いたまましばらく後ろ足に歩いたあとで、くるっと今度は向きを変えて

家の方へと走り出す。

 雪の中をまるで飛び跳ねるように凄い勢いで走り去っていく女の子の背中を、男の子は見えなくなるまで

ずっとその場に立っていた。


 第10話 終わり



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