Kanon

Short Story#1  雪の辿り着く場所

 注: これは、名雪とのED後まもなくという設定です。
    ただ、何故か全キャラとの面識を主人公は持っています(笑)
    そこらへんの細かいツッコミは勘弁して下さい。(^^;


  第11話 白銀は出会うよ!?


 人気のない細い雪道をゆっくりと名雪は滑っている。

 途中、幾つかの分岐を勘に任せて選んだ結果、見事に迷ってしまっていた。

 最初の2,3カ所は分岐に看板らしきものが立っていたので、「これなら大丈夫かな?」と思い、

猛スピードでそこに書かれた文字も見ないで滑り抜けていた。

 そして、だんだんと道が細くなってきて、さすがに様子がおかしいと思い始めた時には、既に道しるべも

何も目印になるような物は見あたらなかった。

 「う〜、やっぱり迷っちゃったよ〜」

 既に祐一はとっくに滑り終わって、まだ降りてこない自分を不審に思っているに違いない、と思う。

 (不審に思ってくれないとそれはそれで淋しいし・・・)

 などと余計な事を考えながらも、祐一と競争していたときの物凄いスピードではなく、ゆっくりとあたりを

観察するような速さで名雪は滑っていた。

 けれども、杉や熊笹と純白の雪で作られた壁以外に、目に入ってくる物は無かった。

 「結局、負けちゃったな・・・」

 自分より先に麓に辿り着いて嬉しそうにこちらを振り返る祐一の顔を名雪は想像する。

 今回、スタート時にちょっとしたハンデはあったものの、それ以外では祐一相手に手加減をしなかった。

 本当に自分が昔滑っていた事があったのを忘れている位、祐一はスキーをしていなかった訳だが、それでも

あっという間にその名雪との差を縮め、いや、名雪を上回る様な結果をものの見事に出した。

 それにもかかわらず、名雪はそれほどは驚かなかった。

 (きっと祐一は、その気になれば何だってできてしまうに違いないから)

 そんな気持ちが名雪の中にはあった。

 あの、助かる可能性のほとんどなかったおかあさんの事故の時も、本当に祐一が側に居てくれなかったら

どうなっていたか。

 自分自身、あのまま閉じこもって二度と日の当たる所に出ることもなくなっていたかもしれない。

 そんな自分を本当に心配してくれた祐一。

 もしかして、おかあさんの怪我も祐一が治してくれたのかな・・・

 もしかしたら、祐一が“奇跡”を起こしてくれたのかな・・・

 むかし、辛い別れ方をして、もう会うことはないと思っていたのに、祐一は帰ってきた。

 それも最初は完全に忘れていた記憶まで取り戻して。

 だからもしも今自分がここで道に迷ってしまっても、きっと祐一は探し出してくれるに違いない。

 そう、7年ぶりに会ったあの待ち合わせ場所で見せたときのあの呆れた様な表情で。



 どれくらい進んだだろうか。

 ほとんど傾斜も無くなり、自分でスケーティングの要領で前に進もうとしないと体が前に進めなく

なってきていた。そして、それに併せるかのように密集して生えていた木や熊笹もまばらになってきて、

その向こうに雪に覆われた山の斜面などが時々顔を覗かせるようになった。

 そのまましばらくクロスカントリーの競技に参加している選手のようになめらかなスケーティングで

道に沿って進むと、ちょうど同じ様な細い道が合流しているらしき場所が見えてきた。

 このあたりまで来ると、それぞれの道が山から続いて来ているのが名雪にも見える。

 ただ、ここからでもはっきり判るのは、それがとてもスキー客向けのコースには見えない事だった。

 (やっぱり、完全に道をまちがえちゃったな)

 “名雪がぼ〜っとしてるからだ”

 そう少し呆れたような口調の祐一の声がどこかで聞こえた様な気がする。

 (ぼ〜っとなんてしてないよ。今日は急ごうと思ってまちがえたんだから)

 内心で聞こえてきた声に反論する名雪。“今日は”の部分はちょっと弱めに。

 そして前を見ると、まだちょっと先にあるその道の合流点の脇に看板が立ててあるのが判った。

 「あ、なんか目印になりそうなのが有った・・・あれ?」

 そこで名雪は看板のすぐ下に何かがあるのにようやく気が付いた。


 「え? え?」

 小さく丸くかがんでいるおかっぱ頭の・・・女の子の姿が、看板の根元にあった。


 第11話 終わり



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