Kanon

Short Story#1  雪の辿り着く場所

 注: これは、名雪とのED後まもなくという設定です。
    ただ、何故か全キャラとの面識を主人公は持っています(笑)
    そこらへんの細かいツッコミは勘弁して下さい。(^^;


  第12話 白銀は隠すよ!?


 「迷子・・・なのかな、やっぱり」

 誰に言うわけでもないが、名雪が呟く。

 見ると、年齢でいけばまだ10歳を過ぎたくらいだろうか。

 しゃがみ込んでいるのではっきりとは比較できないが、身長も名雪よりも頭一つ分以上は低くみえる。

 漆黒の髪をおかっぱにしている分、幼く見えるだけかも知れないが、それでも15歳を越えている、

なんて事はまず無さそうだった。

 そんな女の子が、目をつぶったまま俯いて涙を流していた。

 さすがに、それを見た後で何事も無かったかの様に素通りする事が出来る程名雪も酷い性格ではない。

 「えっと・・・どうしたの?」

 そして、蹲ったままの女の子のすぐ横まで近寄ると、できるだけ優しい声で話しかける。

 「・・・すん・・・くすん・・」

 女の子はその名雪の問いに答えず、俯いて泣いてるだけだった。

 (う〜ん、弱ったなぁ・・・)

 ちょっと眉を寄せて悩んだ名雪は、今度はしゃがみ込んで女の子と並ぶような格好になった。

 そして、女の子の肩に優しく手を乗せて、横からのぞき込むような視線で話しかける。

 「ねぇ、どうしたの?」

 「・・・・・・・・」

 そこでようやく、女の子は泣くのを止めてその涙で濡れた瞳を名雪の方へと向けた。

 おかっぱ頭のその黒髪と同じ黒い瞳。

 ただ、その顔にはあまり感情は表れておらず、幼い顔立ちにもかかわらず、どこかその

外見とは似合わない冷たい感じすらするような瞳に名雪には見えた。

 「・・・ねぇ、もしかして、道に迷ったの?」

 女の子のその印象に内心ちょっと戸惑いながらも、名雪は変わらずに少し笑顔を見せながら

話しかける。

 「・・・・・・ん」

 しばらく名雪の顔をじっと見た後で女の子は微かに頷いた。

 (やっぱり。どうしよう、本当は私が道を教えて欲しいくらいなんだけどな)

 「そっか。じゃぁ、一緒に帰り道探そうか?

  実は、おねえちゃんも道に迷ってるんだけど、ね」

 ぺろっと舌を出して苦笑いを女の子見せる名雪。

 女の子の濡れた瞳がすこし拡がる。

 「ね、頑張って二人で帰り道を探そ」

 驚いていた女の子は、じっと名雪を見つめる。

 「・・・・・ね?」

 その女の子の視線に、名雪は微笑みで答える。

 じっと名雪と女の子の視線が絡み合う。

 その間、女の子の表情は何一つ変わらないように名雪には見えた。

 しかし、その女の子から出たのは素直な返事だった。

 「・・・・・・うん」

 今度は名雪が少し驚いたような表情を見せたが、それも一瞬で、直ぐに笑顔を目の前の

じっと自分を見つめる相手に向けた。

 「ありがと。じゃ、いこっか」

 先に名雪が立ち上がり、女の子に手を差し伸べる。

 そして、女の子がゆっくりとその差し伸べられた名雪の手に自分の手を重ねた。

 女の子の手が自分よりもずっと冷えていることに驚く。

 「つ、冷たいね。ずっとここにいたから冷たくなっちゃったんだね」

 名雪はもう一方の手も重ねて、女の子の手を包んで暖めた。

 「私、水瀬名雪っていうの」

 重ねられた名雪の手をじっと見ていた女の子は、その視線を上げて名雪を見た。

 「・・・・・雪那」

 「雪那ちゃんっていうんだ。同じ“雪”が付くんだね」

 にっこりと笑う名雪。

 「雪・・・同じ、雪・・・・」

 雪那がちいさい声で呟いたが、その声は名雪には届いていなかった。



 「まったく。まさか別のルートに迷い込んだんじゃないだろうな?」

 自分が滑ってきたコースをゲレンデからじっと祐一が見上げていた。

 始めのうちはちらちらと背後の名雪の姿を見ていた祐一だったが、名雪より先にとにかく先に

ゴールしようと必死だったので最後の方は前しか見ていなかった。
 
 そしてゴールしてから振り返ると、そこには見えるはずの名雪の姿はなかった。

まさか転倒でもしているのかと思ってしばらくその場で待ってみたが、5分、10分と待っても

名雪は降りてこなかった。

 (しょうがねぇなぁ・・・探しにもう一度戻るか)

 そう考えたとき、目の前に見知ったウェア姿が現れた。

 「あら、祐一さんおひとりですか?」

 ゴーグルを外しながら佐祐理さんがにこやかに祐一に声を掛けてきた。

 「あ、佐祐理さん。

  ちょっと名雪と滑ってたんですけど、このコースの途中ではぐれてしまって・・・

  でも、佐祐理さんこそ舞はどうしたんですか?」

 すると佐祐理さんは少し困った様な表情になった。

 「さっきまで舞と一緒に講習会に出てましたけど、もともと運動神経の凄く優れた舞さんですから、

 あっという間に滑れるようになってしまったんで、ちょっと独りで滑って貰っています」

 そして、その後に

 「佐祐理は、ちょっと探し物ものをしなければいけないので・・・」

 少し悲しそうな声で呟いた。

 しかし、それも一瞬で、直ぐにいつもの佐祐理さんの笑顔に戻った。

 「もし、途中で名雪さんを見かけたら、ここで祐一さんが待っているとお伝えします」

 では、とぺこりと祐一にお辞儀をして佐祐理さんはリフトに向かった。

 (探し物? 一体こんなスキー場で何を探すんだろう?)

 その佐祐理さんの後ろ姿を見ながら不思議に思っていた祐一だったが、考えても答えが

出るはずもないと思い、自分も名雪を捜しに行くことにした。

 もういちど自分が滑ってきたコースに戻るべく、リフトに乗り込む。

 「しっかし・・・名雪とどこではぐれたんだろうなぁ・・・」

 この時には、祐一はもう名雪との賭など忘れ去っていた。


 第12話 終わり



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