Kanon

Short Story#1  雪の辿り着く場所

 注: これは、名雪とのED後まもなくという設定です。
    ただ、何故か全キャラとの面識を主人公は持っています(笑)
    そこらへんの細かいツッコミは勘弁して下さい。(^^;


   第3話 白銀はこわいよ!?


 それから、一言もしゃべらない黒サングラスの運転手(ちょっと恐かった)のバスで、スキー場へと向かった。

 途中、暇だったので舞の提案によるしりとり大会とか(何故か3周と保たない)、名雪の提案による猫の

ものまね大会とか(全員の無視により即却下)、北川の提案によるカラオケデュエット大会とか(香里の冷めた

視線に北川が耐えられなくて沈黙)が盛大に開催されたりもしていた。

 そして、その後はぼ〜っとしたりと数時間を費やしてようやくスキー場に到着した。

 “やっぱりスキーの後は温泉でのんびりしたいよ〜”という名雪の提案で、近所のスキー場ではなくわざわざ

温泉地までツアーを計画することになったのだが、まわりから微かに漂ってくる温泉地独特の香りを感じると、

この計画も悪くないかな、などと思った。

 「さぁみなさん、到着ですよ〜っ!」

 パンと手を鳴らして佐祐理さんが声を上げる。

 その声に促されるように、ぞろぞろとバスから降りて荷物を取り出し始める。

 その間、バスの片隅で佐祐理さんと運転手が話しているのが見えた。

 「・・・お嬢様、お気をつけて・・・」

 「有り難うございました。

  それでは、帰りの時のお迎えも宜しくお願いしますね」

 「はっ」

 「それと、戻るときにはくれぐれも事故には気を付けて下さいね☆」

 「お嬢様・・・ありがとうございます・・・」

 感極まったかのように肩が震えて見えるのは気のせいだろうか・・・?

 ・・・・・見なかったことにした方が良いのかも知れないな。

 とりあえず深く考えないことにする。



 「さぁみなさん、此処が今回の宿ですよ〜」

 ・・・佐祐理さんが指差したのは、看板も何も立ってないペンション風の洋館だった。

 「でも、ここには店の名前も案内の看板もないですが?」

 さすがに疑問に思って質問しようとしたが、それより早く香里が反応した。

 「え? ここはお店じゃないですよ」

 「???」

 全員の頭の上に浮かんだ疑問符を不思議そうに見つめた後で佐祐理さんは

 「ここは佐祐理のお父様のお知り合いから今回お借りした建物なんです。

  もちろん、私たち以外には泊まる人は居ませんよ〜。

  あ、でも大丈夫、食事とかそのほかの仕事は地元の方がやっていただけるように

 手配をしましたから」

 ・・・そういうのは「別荘」っていうんじゃないのかな、佐祐理さん。

 ますます佐祐理さんの家が不思議に思えてくる。

 他のメンバーもいい加減慣れたのか、特にそのあとで質問は無かった。

 「うわぁ〜・・・」

 中に入るなり、名雪がまわりを見回しながら感嘆の声を上げる。

 そこは、下手なシティホテルよりもずっと豪華な内装が玄関からすでに施されていた。

 一瞬、自分がここに何をしに来たか忘れてしまうかのような、メジャーな場所ならともかく、

地方のちいさな温泉付きのスキー場に何を考えて作ったのか理解できないような建物だった。

 「・・・本当に凄いわね」

 「・・・そうですね」

 さすがの香里と栞も唖然としてしまっている。

 そんな周囲の反応を全く気に留めずに、佐祐理さんは中へと案内する。

 「それでは、まだ食事までは時間がありますから、早速滑りに行きましょうか?」

 「そうだな」

 「うぐぅ・・・スキーするの?」

 あゆが泣きそうな顔でこちらを見上げる。

 「するの、っておまえは何しに来たんだ一体?」

 「う〜ん、雪を見に・・・」

 「何が悲しくて家の前で腐るほど有り余ってる雪を此処まで見に来なきゃならないんだ」

 「うぐぅ・・・だって、ボク滑れないし」

 「滑れなかったのか。だったら、教えてやるから」

 「・・・ほんと?」

 「まぁ俺の教え方は厳しいから、腕や足の一本くらいは覚悟しておけ」

 「・・・うぐぅ、やっぱりいや」

 ばたばたばた、と逃げだしてしまった。

 ここでふと一つ疑問に思ったのだが

 「あれ? 名雪は滑れたっけか?」

 側にいる名雪に声をかける。

 「うん、もちろんだよ」

 にっこり笑って可愛らしくガッツポーズを見せる。

 「忘れちゃってるみたいだけど、昔スキーを教えたのはわたしなんだよ〜」

 ・・・全然記憶にない。

 「あの頃は私の横で転んでばっかりで全然滑れなかったんだよ」

 ぽかっ

 悪戯っぽく笑う名雪の頭に軽くチョップを当てた。

 「ひどいよ〜

  ほんとの事言っただけなのに〜」

 恨みがましくこっちを睨むが、目をそらす。

 7年の間に、名雪との沢山の想い出の大部分が記憶に残ってない事が、自分自身で辛かったし、

名雪に対しても本当に申し訳なかった。

 いずれ、この記憶が戻ってくれたら、いろいろ想い出話もできるのにな・・・

 「さて、それじゃ着替えて早速滑りに行くか、名雪」

 「・・・何かごまかそうとされてるような気がする・・・」

 口元をゆがめて不振の眼でこちらを見る。

 「・・・気のせいだ」

 眼を合わせないようにしながら名雪の頭に手を置いて、その長い髪をくしゃくしゃといじる。

 「う〜」

 その手を止めるように名雪の両手が触れてきた。



 で、結局全員スキーウェアに着替えてゲレンデへと繰り出した。

 「せっかくだから、俺はスノーボードをやるぜ!」

 とみんなの前で景気良く北川が手を握りしめて叫んだが、

 「本当にできるの?」

 という香里の雪よりもさらに冷たい質問の前に轟沈するという出来事はあったが。

 「みんなリフト券肩に付けてるよな?」

 と振り返ったら、とんでもない光景が広がっていた。

 なんかパタパタと何故か羽根付きのウェアーって、あんなの着るのはあゆぐらいだろうが、ちょっと

よろよろしながら大きな板を持って・・・って、大きな板?

 「・・・・・なんだそれは」

 「何って、ソリだよ」

 それはさすがに言われなくとも判るが。

 きっかり3秒ほどそのあゆとソリを見下ろした。

 「・・・・・却下」

 「うぐぅ、どうして〜?」

 涙目にまでなって抗議するあゆ。

 「どうしてもだ」

 「・・・ソリでいいもん、ボク」

 「だから教えてやるって言ってるだろうに」

 「腕も足も折りたくないもんっ!」

 どうやらさっき言ったことを本気にしているらしい。

 「まあ確率的には非常に低いから大丈夫だ。

  ちょっと宝くじにでも当たる確率くらいだから」

 「・・・何等くらい?」

 「・・・下一桁のみの300円」

 「絶対に嫌っ!」

 あゆはそのままよたよたと子供向けのゲレンデ横の雪山に走っていってしまった。

 う〜ん、まあしょうがないか。



 「どうして滑らなければいけないんだ?」

 背後の方で舞がぼそりと呟いた。

 「どうしてって、そりゃスキー場なんだか・・・うわぁっ!?」

 くるりと振り返ると、そこにはしゃがみ込んで黙々と雪うさぎを作ってる舞がいた。

 気が付くと、ゲレンデの隅にはすでに10個以上の雪うさぎが・・・

 ご丁寧に葉っぱと赤いボタンまで持参してきたらしく、それもちゃんと付いて。

 「わぁ〜かわいい〜」

 「おかぁさん、これ、うさぎさん?」

 その近くを通りかかった家族連れには大好評らしい。

 その光景を見て、滑る前からどっと疲れが押し寄せてきた。

 「・・・もういい、何もいわん。

  で、誰が上まで行くんだ?」

 と見渡して尋ねると、俺の他には名雪、香里、栞だけだった。

 佐祐理さんは舞と一緒になって何か作ってるし、あゆは子供に紛れてソリで滑ってるし、北川に至っては

ゲレンデに着くなり女の子のグループを見かけてそのままついていってしまった。

 ・・・スキーとは名ばかりのツアーはまだ始まったばかりなのだが。


 第3話 終わり


  <NOVEL PAGEへ戻る>  <第4話へ続く>