とらいあんぐるハート2
Short Story#1 神咲薫SS
日曜日、晴れた空と今川焼きと・・・ (後編)
注:これはJANIS/ivoryさんの「とらいあんぐるハート2」の
あるイベントを基に作成しております。
未プレイの方、若しくはこれからプレイされる方はネタバレな要素を
含んでおりますのでご注意下さい。
〜〜その日の夕方、運動部シャワー室にて〜〜
「・・・いいなぁ、薫」
部活が終わって、個室型のシャワーで汗を洗い流しながら瞳が呟く。
「ん? 何か言った?」
隣でわしゃわしゃと泡立てながら髪を洗っている尾崎が聞き返す。
「昼間の薫よ。
あの薫が顔を赤くして俯いちゃって・・・」
少し拗ねたような瞳の声。
「あの薫にもようやくそう言う相手が出来たんだから、素直に祝ってあげないとね。
自分には居ないのを僻んじゃダメよ」
痛いところを突かれ、ぷぅ、と瞳の頬が膨らむ。
「あ、でも瞳にもいるじゃない。
あの背の低い可愛いらしい男の子が」
「真・・・じゃなかった、あの子は鷹城さんの彼でしょうが。
後輩の彼氏を横取りするなんてそんなこと出来る分けないでしょう!」
お湯を止め、バッ、と乱暴に掛けてあったタオルを取って頭から被る瞳。
「ふ〜ん。
鷹城の彼じゃなくなったらいいんだ。
そういえばあの男の子にはもう一人彼女みたいな子がいるって噂だけど・・・」
尾崎もタオルで髪を拭きながら出てくる。
「野々村さんね。
彼と鷹城さん、野々村さんは幼なじみよ」
瞳が間髪入れずに答える。
「・・・ずいぶん詳しいわね、瞳」
呆れと冷やかしの混ざった声の尾崎が瞳をジト目で見る。
その声に瞳は一瞬ぐぅ、と顔をしかめる。
「まぁ、瞳をからかうのはこれ位にして、と。
・・・興味有るでしょ? 薫の相手」
「それは、まぁ、ねぇ・・・」
尾崎の視線から目をそらしながら曖昧な返事が返ってくる。
「あ、そう言えば・・・」
ふと何かを思い出したように天井を見上げる尾崎。
「ん、何?」
「私の同じクラスの後輩の子が、確か薫と同じ寮に住んでるって話を聞いたことがあるわ。
バスケ部でちっちゃい子だっていってたっけ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
キラーン、と一瞬光った2人の視線が重なり合う。
〜〜翌日、さざなみ寮リビング〜〜
ドキドキドキドキ・・・
昨日はあまり眠れなかった。
昨日からずっと、瞳達との会話や今日の計画の事でずっと悩んで布団の中でいたので、
眠りに就いたのは外がうっすらと明るくなってからだった。
ただ、いつもなら体調がおかしいのにすぐ気が付く十六夜は今日に限っては心配そうな
声を掛けてこなかった。
逆に、朝一番、私の様子を感じ取るなり「良いことです」とにっこりされてしまった。
そして、「薫も女の子なんですから」と付け加えて何処かへ行ってしまった。
(良くは判らないが、一応心配はしてくれてるんだろうな・・・?)
寝不足ですこしぼんやりとしながら、リビングでソファーに座っていた。
天気が良いからか、今日はさざなみ寮のみんなは出かけている。
ただ一人、耕介さんを除いて。
「えっと、まずはお茶の準備をしておいて・・・」
じきに耕介さんもリビングに顔を出すだろうから、それまでに準備をしておかないと。
台所で急須と湯飲みを用意して、ポットのお湯も確認したし・・・
あと、自分で持っている滅多に使わない特別なお茶の葉も。
「よし、こんなものかな」
ガチャ・・
一通り用意し終わったと同時に、耕介さんがリビングにやってきた。
「おはよう・・・、って薫だけ?」
「おはようございます。
そうですね、みんなどこかに出かけてますね」
「そっかぁ、今日は天気もいいもんなぁ」
そう言いながら、両方のかたをほぐす様にぐるぐる回す耕介さん。
そのまま私と同じソファーの隅に座る。
「掃除をしてきたのですか?」
「うん。玄関と寮の前と廊下をね」
「お疲れさまです」
そう言いながら、私は準備してあった急須でお茶を入れる。
普段はどうって事無い作業なのに、何故か今日に限って手が震える。
落ち着け落ち着け・・・
「はい、お茶です」
湯飲みをテーブルに置く。
「お、ありがとう」
にっこり笑って湯飲みを手に取る。
その笑顔をみてちょっと息苦しくなる。
ゆっくりと湯飲みを口元にあてる耕介さんを横目に見ながら、窓の外の景色を眺める。
5月の青い空が窓一杯に広がっている。
ふぅ。
暫くそのまま時が流れる。
ただ、ものすごく静かな状況なのに、私の心拍数はかなり早くなっている。
まるで、魔と対峙している時みたいに。
ドキドキドキ・・・
この音、耕介さんには聞こえてないよな?
それが凄く心配だ。
「ふぅ・・・」
思わず声を出して息をしてしまった。
その私の声に、「?」と耕介さんがこちらを見る。
「天気もいいですし・・・。少し、散歩に出ませんか?」
あ、変に思われたかな。
でも、言い出すなら今しかない、何故かそう思ってとっさに用意しておいた台詞を出した。
一瞬、キョトンとした耕介さんだったが、私の顔を窓の外の青空を見て、
「ああ、いいね」
とにっこりしながら言ってくれた。
そのまま、戸締まりをして、近くの公園に向かう。
近く、といっても歩いていくのはちょっと遠いから、耕介さんのバイクを使って行くことにした。
「今度は安全運転するからね」
前に一度、ものすごい運転で駅まで載せていって貰ったことがお互いに記憶にあったので、
私がバイクを見た瞬間に耕介さんは苦笑いしながらそう言った。
あの時は耕介さんの事が良く判らなかったけど、送って貰ったのにちょっと冷たい態度をしてしまって
申し訳なかったと反省している。
ただ、あのときは耕介さんの背中にずっとぴったりとしがみついていたことが、バイクから降りたとたんに
恥ずかしくなってしまってついそんな事をいってしまった。
男の人にあんなにくっついた事なんてなかったし・・・
でも、今日は違う。
耕介さんの背中に触れていると、なんだか落ち着くような気がする・・・
「いい天気です」
公園の空いてるベンチに並んで座って海岸線を眺める。
「う〜ん・・・」
腰掛けたまま、大きく伸びをする耕介さん。
横で私は、できるだけ「のんびりしている」様に見せようと悪戦苦闘していた。
緊張しているように見せるのなら、こわばっていれば良いんだろうけど、
のんびりしてるように見せるってのは、どうすればいいのやら・・・
あんまりだらだらとしてるのもみっともないし。
(よわったな・・・)
「薫、はい」
目の前にいきなり何かを出された。
一瞬なんだか判らなかったけれど、よく見ると、それは今川焼きだった。
考え事をしてるうちに耕介さんが買ってきたらしい。
耕介さんが買い物に行っていたのにも全く気が付かなかったなんて・・・
「・・・いいんですか?」
耕介さんはにこにこと頷く。
「ありがとうございます」
まだじっと持っていると熱い今川焼きを半分に割る。
ベンチに座って食べながら、日にあたって目を細めて、遊ぶ子供達の姿を目で追う。
本当に、こういう休日を過ごせるのも幸せだな・・・
「・・・のんびりするねぇ」
視線は景色に向けたままで耕介さんが呟く。
「・・・はい」
その言葉に私自身、いつの間にか無意識にリラックスしていたことに気が付いた。
そして、いままで無理に何とかしようとしていたことに内心で苦笑いしてしまう。
(何をしてたんだろうな、私は)
それからまた、特に何を見るという訳でもなくベンチに座っていた。
時々、思い出したようにさざなみ寮の事とかをすこしずつ話す。
そのたびに、呆れたり笑ったり・・・
そして、すこし私と耕介さんの影が長くなって、陽に赤みが差してきた頃・・・
「・・・今日は、のんびりしたな〜」
そう言って、耕介さんはベンチから立ち上がって腰をとんとんと叩く。
「こんなにのんびりしている薫見るの、初めて・・・」
そこまで言葉が止まった。
ようやく、以前に交わした会話を思い出したようだった。
・・・のんびりしている私を見てみたい・・・
じっと耕介さんは私をみつめる。
私もその視線を正面から受ける。
ずっと知りたかったこと。
耕介さんは、どう思ってますか?
こんな朴訥な私のことをどう思いますか?
「あまり面白い物ではなかったでしょう?」
私がすこし苦笑しながら言った。
「面白かったよ」
耕介さんは相変わらずの笑顔で答えた。
「堪能した」
この言葉は全く予想していなかった。
とりあえず、良い意味に解釈してよいのだろうか?
・・・悪くも思われていないみたいだけど・・・
「・・・ありがとうございます」
何も言わないのも失礼かな、と思ってとりあえずお礼を言う。
「・・・さ、帰ろ!」
「はい!」
・・・あの耕介さんの視線に、期待しても良いんですよね?
先に歩く耕介さんの背中に願いを投げかける。
でもいまは、また公園に2人で来れるだけでも十分かな、とそう思う。
今日は、帰ったら耕介さんの夕食の手伝いをしようかな・・・
〜〜後編 終〜〜
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