トゥインクルレビュー

Short Story#1  音羽早苗SS

 再び、輝く季節へ・・・


 第2話 想い

 注:これは、早苗さんED後まもなくという設定です。
   ちょっと本編のEDとは矛盾がありますが、その辺は
   ご容赦願います。

注2:今回はさらにあるゲームネタが入ってます。
   そのネタを知らない人には「なんじゃこりゃ?」
   と思われるかも知れませんが、勘弁してください(笑)


 それから、今までの人生の中で最もハードな毎日が始まった。

 仕事自体は、新人を見つけて帰ってこられなかったのだから、降格とか左遷とかを

覚悟していたけれど、島に行く前と全く変わらなかった。

 おかげで、仕事以外の事に対しての余裕としては多少ではあるが存在していた。

 出張の合間、昼休み、夜仕事を終えてから、俺は病院を周り、本屋やインターネットで文献を調べ、

何とか早苗さんの足を治す方法について調べていた。

 7年前の当時、全く判らなかった暗号みたいな病名が、今では嫌というほどよく理解できるようになった。

 同時に、いかに当時の馬鹿な自分が早苗ちゃんに対して恐ろしいことをしていたかも。

 もし今目の前に当時の自分が立っていたら迷わず殴りかかっていたに違いない。

 時々、口調か何かで電話越しでも疲れた様子がわかってしまうものなのか、早苗さんに

 「お仕事大変そうですね」

 と、心配そうに声をかけられてしまうことが多くなった。

 当時の早苗さんはこんな疲れ方じゃ済まなかったのだと思うと、余計に激しい後悔に襲われる。

 

 ・・・そんな、相変わらずあちこちの病院を訪ね歩いていたある日。

 ごぉんっ!

 「いてぇっ!」

 地図を見ながら病院を探していて、誰かと頭からぶつかってしまった。

 お互い頭同士が激しくぶつかったらしく、一瞬目の前が光ったような気がする。

 「あいたたた・・・」

 何度か頭を振ると、ようやく意識がはっきりしてきた。

 「いたいよ〜」

 間延びした女の子の声がすぐ近くで聞こえる。

 「目の前がちかちかするよ〜」

 見ると、長い黒髪の女の子が額を押さえながら涙を浮かべて座り込んでいた。

 「あ、すいません。大丈夫ですか?」

 「えっと、何とか大丈夫です・・・かなり痛かったですけど・・・」

 あわてて助け起こそうとして、女の子がこちらを見て話しているのではないことに気がついた。

 その瞳が、何も映していないことにも。

 「本当に申し訳無いです」

 その女の子の手を取り、立ちあがらせ、服についた埃を払ってあげる。

 「本当にごめん。病院を探して地図を見ながら歩いていたんで・・・」

 そういって謝ると、その女の子は不思議そうにこちらを見た。

 「もしかして、ここの病院ですか?」
 
 そういって、いま女の子がやってきた方角を指差すと、目の前に病院の入り口が。

 「あ・・・・」

 思わず出たその声を聞いて、クスッと笑われる。

 「あ、ごめんなさい。笑ってしまって。

  でも、あなたもどこか悪いんですか?」

 「いや、僕は悪くないんだけどね。

  恋・・・いや、友達が足を悪くしていてね、何とか治せないかと思って

 病院を探しているんだ」

 (本当は、悪くしている、じゃなくて、僕が悪くしてしまったんだけど・・・)

 自分に都合の言い嘘をつくことに罪悪感を感じながらも、この女の子には

不思議と初対面という緊張が無く話している事に驚いていた。

 「失礼かも知れないけれど、君も治療しに通っているの?」

 質問に、その女の子は声のしたこちらをまっすぐに見ながら返事をする。

 「ええ。小さい頃に事故で見えなくなっちゃんたんです。

  今までは、もう治らない、とか言われるのが怖くてずっと逃げてたんですけど、

 人探しをしなければならないんで、通い始めたんです」

  すると、完全に治すのは難しいけれど、ある程度のところまでは回復する可能性がある、

 といわれたという事だった。

 「お医者様に言われました。

  いくら可能性があると思っても、最後はあなたと、そのあなたを支える人達の

 努力が一番大切なんですよ、って」

 その一言が、胸に響いた。 
 
 今までまわった病院のほとんどは、「無理だ」とか「可能性はきわめて低い」という

聞く側の気力を萎えさせるような言葉ばかりだった。

 「でも、どうして治そうと思ったんですか?」

 思わず、女の子のプライベートなことに関して質問してしまった。

 初対面の相手にそんなことを話すか、という事に気がついたのは、言葉を出した後だった。

 しかし、女の子は嫌な表情ひとつ浮かべずに話してくれた。

 「酷い男の子を探しているんです。

 女の子を、公園で待ちぼうけにさせてしまって、居なくなってしまった酷い男の子です」

 その口調から、この子とその男の子というのがどう言う関係だったのかは推測できた。

 「その男の子は、罰としてみんなから忘れられてしまってるんです。

  でも、なぜか私だけは覚えてるんですけどね」

 「みんなから、忘れられてしまったんですか?」

 ちょっと良くわからないが、現実にそんな事があるんだろうかと考えてみる。

 (しかし、もし早苗さんがみんなから忘れられて、自分だけ覚えているとしたら・・・)

 そして、そのまま早苗さんが居なくなってしまったら?

 その時どうするか。

 それは、おそらく目の前にいる女のこと同じ行動に出るだろう・・・

 ”自分一人だけでも、覚えている限り、早苗さんを必ず探してみせる”

 目の前の女の子は、目が見えないということにもかかわらず、それとしようとしている。

 「あまりにも可哀相なんで、私だけでも忘れないで、探してあげようかな、って。

 そう思って、眼を治しにそこの病院に通っているんです」

 「でも、その男の子に会ったら、なんて言うつもりなんですか?」

 「う〜ん、最初は、忘れたふりでもしようかな、なんて思ってるんですけどね。

  でも、きっと・・・そんなことできないかな、って自分でも思ってます」

 少し頬のあたりを赤くしながらちょっと視線をそらしている。

 (おそらく、何も言えないまま男の子に飛び込むんじゃないかな・・・)

 そう考えたけど、さすがに口には出さなかった。

 「不思議ですね。こんなことまで話してしまって・・・

  でも、なんとなく雰囲気が似てるからかもしれません。

  あなたと、その男の子」

 「声とかが似てるんですか?」

 「いえ、声は全く違うんですけど・・・なんというか・・・

  あ、昔、女の子に酷いことしませんでした?」

 一瞬、息を呑んでしまう。

 「冗談ですよ」

 クスッと、また笑顔になる。

 「でも、見つかると良いですね、その男の子」

 「・・・ありがとう。あなたも、がんばって下さいね」

 お友達も治ると良いですねと女の子が言ったところで、呼んであったのか、タクシーがやってきて

クラクションを鳴らした。

 それでは、と会釈をしてその女の子はタクシーに乗り込んでいってしまった。

 「最後はあなたと、そのあなたを支える人達の努力が一番大切なんですよ・・・か」

 女の子を乗せたタクシーが見えなくなったところで、さっき言われた言葉を繰り返す。

 今までとは全く違った考え方のこの病院に、強い期待をしながら入った。



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