トゥインクルレビュー

Short Story#1  音羽早苗SS

 再び、輝く季節へ・・・


 第3話 光を・・・

 注:これは、早苗さんED後まもなくという設定です。
   ちょっと本編のEDとは矛盾がありますが、その辺は
   ご容赦願います。

注2:内容的には医学的裏づけの全く無い、ほとんど無茶な設定ですが、
   そのことについての指摘は勘弁してください。


 (最後はあなたと、そのあなたを支える人達の努力が一番大切なんですよ・・・)

 病院の前で出会った女の子の言葉が耳の奥に残っている。

 女の子に言われた通り、そこの診察室で同じようなことを整形外科担当の医者に言われた。

 早苗さんには内緒で持ち出しているカルテのコピーを見ながら30分くらい話した後で、

 「完全にもとの足に戻すことは非常に難しいと思います」

 まず、はっきりと言われた。

 今までは、ああでもないこうでもないといろいろな理屈を並べた挙句、結局どうなのか、と

こちらから強く質問して始めて言われる台詞がコレだった。

 そして、「どこまで治るのか保証できない」とか「ウチでは難しすぎて駄目だ」と匙を投げられていた。

 (やっぱり、何処にいっても早苗さんの足を治すことはできないのだろうか?)

 脳裏にステージの上で可憐に舞う早苗さんの姿が横切る。

 短い髪の7年前の早苗さんが、突然、床に倒れる。その姿が、この間、スクールのダンスルームで見た

長い髪の早苗さんの姿に変わり・・・

 (あの早苗さんにかけられる言葉は本当にもう見つけることができないんだろうか?)

 暗く沈みこんでしまった自分に気づいているのかいないのか、目の前の医者は淡々と話を始めた。

 「しかし、軽い運動程度を行うことができるまでには十分回復できる見込みはあります」

 「・・・え?」

 一瞬、何を言われたのか判らなかった。

 「軽い・・・運動ですか?」

 「ええ。元ダンサーということですが、さすがにダンサーとしてもう一度、というのは難しいですが、

簡単な動きをすることくらいは可能ではないかと思います」

 「ほ、本当ですかっ!」

 思わず無意識に身を乗り出して大声で叫んでしまった。

 しかし、その医者はあくまで冷静にこちらの勢いを手で制し、まっすぐにこちらの眼を見た。

 「さすがに直ぐに、という訳には行きませんよ。長いリハビリを必要とします」

 聞いたところ、一旦完全に足を休ませた後で、少しずつ少しずつトレーニングを行っていくといった

長い時間をかけた根気の要る道程が必要だということだった。

 そして、さらに続ける。 

 「しかし、本当に辛いことだと思いますよ。

 治療の最後の最後まで、ずっとあなたが付き添って支えていってあげることができますか?

 私はあくまで治し方を教えるだけです。あくまで中心は怪我をされてる女の子とあなた自身なんです。

 あなたが投げ出した時点で、足はおろか、その女の子との信頼関係をすべて壊してしまうことになりますよ。

 本当にそれだけの覚悟はできているんですね?」

 まっすぐに視線をこちらに向け、じっと見据えながら語る医者。

 その眼が少しも誇張することなく事実を語っていた。
 
 怪我で倒れる前の早苗さんの姿が脳裏に蘇る。

 あの輝きを消してしまった自分に本来与えられるべき報いとして、いや、もう一度早苗さんが

ステージで輝けるかもしれないとしたなら、どんな事でもやり遂げたい。

 「・・・はい」

 ゆっくり呼吸をしながら、はっきりと答えた。

 7年前に自分のミスから止めてしまった早苗さんの時間を、また、再び動かすことができるなら、

どんなことでもしてみせる。

 たとえ、自分の足と引き換えにしてだと言われても、躊躇いは無かった。

 「よろしくお願いします」

 考えは決まっていた。

 それから数日後、一通の封筒を懐に入れて出社した。

 「退職願」という表紙の・・・



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