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「古典派からのメッセージ・2001年〜2002年編」目次へ戻る
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H君のこと―遠縁の若者からの手紙

 

 H君から「医師国家試験に合格し、慶應義塾大学病院に勤務しています。」との葉書をもらいました。H君は、小生の父方の遠い親戚(「またいとこ」別称「はとこ」)にあたる若者です。つまり小生の祖父がH君の祖母の兄に当たる関係です。小生とH君は共通の曾祖父、曾祖母を持つ縁というわけです。H君の祖母の家族が小生の実家の近くに住んでいたことから、小生も小さい頃から彼のお祖母さまや母上に大変可愛がってもらいました。特に彼の母上からはいろいろ教わりました。彼女は、今、ご主人ともども立命館大学で研究と教育に携わっていますが、むかしから明るくてリベラルな人でした。

 小生が中学生の時、彼女は大学生だったと思いますが、当時ブームだったボーリングに連れて行ってあげよう、と誘ってくれたことがありました。小生が、「中学から父兄同伴でないとボーリング場には行ってはいけないと言われているから」と断ると、彼女は「規則は破られるためにあるのよ」と明るく笑いながら言ったのです。田舎の生真面目少年だった小生には、その感覚がとても新鮮で、驚きでした。

 小生は、H君とは彼のお祖母さまの葬儀で数年前に一度会ったことがあるだけですが、その時の印象はとてもすがすがしく素直な若者でした。今回彼から来た葉書には、「本年の年賀状は私事ではございますが、国家試験勉強のため、控えさせていただきました。何とぞご容赦ください。」とありました。勉強に集中するために賀状を書くのを控えたお詫びを、わざわざ合格挨拶状に記すのは、礼儀正しく好感が持てます。同じ血が流れている優秀な若者がこの首都圏で活躍していると思うと、大変心強く、誇らしく感じます。医療業界も、失った人々の信頼を回復するという大変な課題を抱えていますが、H君はきっと人を愛し人から愛される立派な医者になってくれることでしょう。

平成一四(二〇〇二)年五月一九日