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近況メモ(平成18[2006]年9月〜10月)

 

平成18(2006)年〜「つくつく法師の晩夏」から「暖かで穏やかな秋」へ

 

9月2日(土)晴れ

  学校も始まり、空の色、雲の様子も秋色の深くなりつつあるこのごろです。朝日新聞の「折々のうた」に

      一芸を 通す つくつく 法師かな

という俳句が紹介されていました。倉田紘文という方の句です。初秋に個性的な鳴き方をするツクツクボウシを、「一芸を通す」とのひと言で見事に切り取った句です。擬人的な軽妙さがいい味わいです。

  さて、近頃家族そろって観賞した映像をふたつご紹介しましょう。ひとつは、三谷幸喜さんの創作歌舞伎「決闘!高田馬場」です(左はそのポスター)。我が家では妻も娘も三谷幸喜ファンで、先頃は映画「THE有頂天ホテル」を大喜びで見てきました。「決闘!高田馬場」は小生もぜひパルコ劇場で見たいと思い、チケット発売当日電話したのですが既に完売。でもWOWOWで生中継していたのを娘のお友達が録画してくれていて、そのビデオで拝見したのです。

  物語の舞台は江戸時代の元禄の世。飲み助の浪人・中山安兵衛(後の赤穂浪士の一員、堀部安兵衛)と、彼を慕う長屋の人々の交流を軸に、世話になった叔父の果たし合いの助太刀に、安兵衛が高田馬場へ疾走するまでの始終を描いた、浪花節などでも有名なお話です。市川染五郎が主人公の中山安兵衛ほか二役を演じて、ほとんど舞台に出づっぱりでした。相当の体力、気力を要すると思うのですが、染五郎は自由自在にしなやかに演じていました。市川亀治郎が小野寺右京(安兵衛の幼馴染)はじめ三役、中村勘太郎も二役を演じ、それぞれキャラクターをコミカルに演じ分けていたのは見事でした。これら若手に交じって、市村萬次郎がおウメ(安兵衛の世話をする老婆)を嬉々として演じて客席の人気をさらっていました。回り舞台を回しながら場面を転換したり、幕を走らせて場面を入れ替えたりと、小劇場で演じるためにうまく工夫されていました。この現代歌舞伎の面白さは、演劇◎定点カメラというサイトの評がうまく語ってくれています。曰く、「展開は超高速、アンサンブル絶快調、全力野球の体。自然に沸き上がる手拍子とノリノリの役者達。舞台も客席も楽しむ演劇桃源郷。思索の楽しみはないけど、面白さと仕掛けた人の心意気が伝わるおもちゃ箱のよう。驚き、笑いつ、ほっこりするねこ。」それにしても歌舞伎役者のポテンシャルの高さには驚きました。伝統の様式に鍛えられた演技力は、現代風で超高速で言葉の掛け合いも多いこの芝居に見事に対応していました。


  もうひとつ家族で観賞したのは「スミス都へ行く」という1930年代のアメリカ映画です。先日訪れた恵庭市の中島市長が若い頃見たとおっしゃっていたので、本屋で名作映画DVDとして売っていたのを買ったものです。民主主義の理想にも関わらず、実際の政治世界は影の支配者がいたり、エゴと妥協ばかり繰り返されますが、それでも民主主義の理想を貫こうとするドンキホーテ的な若手新進政治家の姿を描いています。後半の主人公の弁舌シーンが有名のようです。アメリカという国の国柄を知ることができる面白い映画でした。

  さて、小生、昨日、人事発令があり、名古屋支店長を命ぜられました。名古屋は我が故郷の圏内ですし、この支店には平成4(1992)年から平成7(1995)年まで勤務したことがあり、土地勘はあります。小生に与えられた守備範囲は愛知、岐阜、三重三県と静岡県の大井川以西です。自分のバンカーとしての締めくくりをするつもりで取り組みたいと思います。しばらくは引き継ぎでばたばたしそうです。

 

9月10日(日)晴れ

  今日の東京は厳しい残暑でした。気温も35℃近くまで上がり、日差しもきついものでした(左の写真のごとし)。夏の名残でしょうか。人事異動で名古屋支店に行くことになったので、暑い中でしたが、単身赴任に必要な道具などを家族で買い出しに出かけました。今週には名古屋での住まいも決まる予定で、月内には引っ越しして落ち着けると思います。

  先週から今週にかけては、お取引先や親しい方々への挨拶回りで忙しい日々です。東京で新たに知り合った方々とは、これからおつきあいを深めたいと思っていた矢先だったので残念に思う反面、東海地方でこれからおつきあいいただく方々は、小生の出身地であることもあって、初めてお目にかかる方にも何となく親近感を感じます。久しぶりに聞く尾張訛りや岐阜訛りも懐かしいものです。名古屋の街は万博効果もあってずいぶんきれいになりました。名古屋駅前や栄の商業地の人の流れも多く(以前と違って地下だけではなく地上を歩いている人が増えたように思われます)、ずいぶん賑わっているようです。反面、岐阜市など周辺都市の商業地は、名古屋にお客をとられてデパートの撤退が相次ぐなど、衰えが目立っているようです。しっかりと地域マーケティングをしつつ、地元経済社会に貢献できるような仕事をしたいと思います。


 

10月1日(日)曇り時々雨

  写真は名古屋駅前にそびえるツインタワーの夜景です。この新しい駅ビルは、中に入っている百貨店や飲食街がいつも大変にぎわっています。この地方の好況を象徴するかのようです。9月中旬に名古屋に着任して早半月経過しました。新居の通信及びネット環境もようやく整備され、生活のリズムも出来てきました。仕事の面も、店の優秀なメンバーたちのがんばりで前期末に刈り取るべきものは刈り取ることが出来ました。ただ東京でやり残してきた公私のあれこれを片づけるため、名古屋と東京を行ったり来たりがしばらくは続きそうです。

  そのひとつに、家内につきあって始めた宝生流の府中市謡曲入門者の発表会が今月9日にあり、昨日も本番前の稽古がありました。昨日は、稽古の後に昼食会があり、参加者と先生方が親睦を深めました。能の謡の初心者という共通項に加えて、同じ地域の住民であることで皆さんがより親しくなれたように思えました。私たちを指導してくださった宝生流嘱託のMさんが、能を志したきっかけについて話してくださいましたが、そのお話が印象的でした。Mさんはかつて赤十字社に勤務しておられ、よく海外に行かれたそうです。カンボジアに滞在した頃、現地のある医師から、日本に留学していた時にひどいホームシックに陥り、カンボジアに帰りたくて仕方なかったが、たまたま紹介された能を見て、母国の仮面劇と類似していることに驚き感動し、それ以来能楽堂に通っては心を慰めたという話を聞き、その医師から能の曲のあれこれを教わったそうです。Mさんは、能とは縁があり習うように誘われたこともありましたが、何となく年寄り臭く感じかつ面倒だということで断っていたのですが、この時、日本人たる自分が外国人から能の良さを教わったことをいたく恥じ入り、帰国後すぐにある先生に入門されたそうです。小生は、東南アジアの仮面劇に慣れ親しんだカンボジア人が能楽に何の抵抗もなく入り込めたというお話がとても新鮮でした。これはまさに日本文化のルーツが南方にもあることを如実に示しています。また、Mさんがかの医師からこの話を聞いて即座に入門したいきさつもとてもすがすがしく感じられました。


 

10月28日(土)晴れ

  朝夕は少し冷えるようになりましたが、日中は日差しが強く、暖かで穏やかな日が続くここ東海地方です。でも空はすっかり秋ですね(写真上段は今月中旬に撮った秋空です)。さて、10月はあっという間に過ぎてしまいました。転勤の挨拶状を作ったり、北陸方面に挨拶回りに出向いたり、勤務先銀行が東京証券取引所へ再上場することになったので株主である東海三県8つの地方銀行にお礼にまわったり、公私の来客・宴席もいろいろと入りました。特に、久しくお会いしていなかった懐かしい人たちが名古屋に来たついでに立ち寄っていただけるのはうれしいものです。そのうち、U君は我が銀行を卒業して今はコンサルティングと投資事業を営む起業家として活躍しています。前回名古屋勤務の時に知り合ったNI氏は、勤務先企業が破綻するという辛い時期を経て今は人材斡旋会社で重職を担っておられます。小生の謡と仕舞の師匠・宝生流能楽師の藪俊彦先生ご夫妻が金沢から御園座に歌舞伎見物に来られた際に、名古屋でのお弟子のTさんと四人で会食をしました。大手金融機関から名古屋大学に転じたNA氏は、大学と民間企業との橋渡しのお仕事をされています。国立大学も積極的に「営業活動」をする時代になりました。昨日は仕事で松阪に出かけたついでに、本居宣長を顕彰する会のメンバーである橋本さんのお宅を訪ね、帰りに、宣長夫妻や一族のお墓がある市内の樹敬寺(じゅきょうじ)をお参りしました。

  その間、公私の所用で東京へ何度も行きました。7日(土)には有楽町の出光美術館へ「伴大納言絵巻」を妻と見に行きました(写真下段左)。応天門の変を題材に採ったこの平安時代の絵巻は、源氏物語絵巻・信貴山縁起絵巻・鳥獣戯画とともに四大絵巻と呼ばれます。伴大納言絵巻の素晴らしさは、何と言っても人物が生き生きと個性的に描かれていることです。まるで人々の息づかいや哄笑や悲鳴が聞こえてきそうな、現代日本の劇画の祖です。9日(祝)には、府中の森芸術劇場で開かれた府中市謡曲連盟の大会に出演しました。妻が入門者の会に出ていたのですが、小生も一緒に出させていただき、皆さんと一緒に「鶴亀」を謡いました(写真下段右)。小生も久々に紋付き袴、妻も?年ぶりに着物姿で舞台に登場です。15日(日)は千石の三百人劇場へ劇団昴の演じるシェークスピア原作・福田恆存翻訳の「夏の夜の夢」を見に行き、21日(土)は妻の誕生祝いに家族三人で高尾山にある「うかい鳥山」へ食事に行き、富山の五箇山にあった合掌造りの民家を移築した部屋で和風の料理をおいしくいただきました。22日(日)は月例の「福田恆存を讀む会」に出席しました。東海道新幹線には頻繁に乗るだろうと見込んで入っておいたJR東海の「エキスプレス予約」が実に役に立ちました。


      
秋空三景(昼前)                   秋空三景(午後二時頃)                   秋空三景(夕刻)


                      
                伴大納言絵巻より                         謡の発表会(左写真の中央が小生、右後ろが妻です)

 

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