ひのでやエコライフ研究所  かんきょうもんだい一日一言

 トレー・ラップはどれだけ環境に悪いのか -ラップの使い方-

1999年4月13日
 家庭から出されるごみの体積で6割を占めるのが容器包装材です。これを減らしていこうと、製造業者にもある程度の責任を負ってもらおうと容器包装リサイクル法が施行されていますが、なかなか効果を上げそうにも思えません。所詮包装材は、家庭に入って料理をするまでに必要になるだけであって、すぐにゴミになるようなものですから、「不要なものは買わない」という原則が一番効果があるようです。
 以前は、トマトやきゅうりはもとより、ジャガイモまでトレーに載せてラップをかけているお店も見つかりましたが、最近はお店のほうもあまり包装しないという常識が定着してきたようです。

 さて、包装がされていなければその分のごみも減りますし、包装材を作る時に必要なエネルギーもかからなくて済むわけです。ではどのくらい包装は悪いんでしょうか。

■製造のエネルギー

 製造から廃棄まで全部を通してエネルギーを計算すればいいのですが、なかなかその作業は大変です。しかし、こうした素材をそのまま使った製品については、たいていは「製品1gあたりの製造エネルギー」をとれば、それでおおよその推定ができます。
 製造に必要なエネルギーは、おおよそプラスチック1グラムあたりで4キロカロリー程度です。これに製品本体の原料が石油ですからその分のエネルギー約10キロカロリーを加えて、14キロカロリーがプラスチックを使うことにより消費するエネルギーとなります。トレーの場合のは加工などに手間がかかるために20キロカロリー程度必要になります。
 トレーの重さは平均5グラムですから、1枚あたり約100キロカロリーになります。一方ラップの場合は(30cm程度で切ったものがおよそ1gですから、これで14キロカロリーになります。

■タッパー(プラスチック容器)を使ったほうがいいのか

 ラップを使わないですます方法として、ふた付きのプラスチックの容器を使うことがあります。洗って何度でも使えるわけですから、その分ラップを使わなくてすむわけです。
 さて、それではプラスチック容器を使った方がいいのでしょうか。エネルギー消費量で比較するのであれば、1gあたりのエネルギー量がいっしょのわけですから、単純に重さで比較すればいいことになります。ここでは、皿に盛りつけられた料理にラップをかけて保存するのか、新しくふた付きプラスチック容器を買って保存するのか、という選択をせまられたものとします。
 プラスチック容器の重さは、牛乳瓶1本分くらいの小型の容器でだいたい60gでした。ラップが30cmで1gですから、単純に計算すると60回以上使えば、ラップを使うよりもよいことになります。毎日使ったとしても、2ヶ月程度でもとをとれることになるわけです。年に数回しか使わないのであれば、わざわざ買うのはかえって環境負荷が大きくなります。
 ただし、この話も事情によって変わってきます。洗うとなると、その分だけ水への負荷が余計にかかります。特に油ものについては水負荷も大きいですから、たぶんそうした料理の場合には皿を移し替えるのではなく、そのままラップをかけたほうが負荷がちいさくなるかもしれません。(油ものの食器を洗う場合、そのまま洗った場合より、一度紙で油をふきとってから洗ったほうが環境負荷は小さくなることは計算で出されています)

 以上の話は、新しくタッパーを買う時にということでしたが、台所を探せば適当な容器は使われないまま眠っているのではないでしょうか。そうしたものを活用するのであれば、新たに製造エネルギーを消費することなく、ラップを減らしていけます。

■野菜を包んだ場合にはどうなるのか

 野菜を作るときにかかるエネルギーについては、環境白書にも載せられています。きゅうりの場合には、露地物は1kg作るのに996キロカロリーですむものを、ハウス栽培した場合には5054キロカロリーも消費するということです。
 さて、きゅうりがスーパーの店頭に並んで売られるときには、2-3本まとめてラップされるのがふつうでしょうか。重さが200gとすると、露地物でもおよそ200キロカロリーをかけて作られていることになります。もしラップがされていた場合にはそれに14キロカロリーが追加されるわけですから、これだけで1割の増加になってしまうことになります。
 一般的にラップ包装が悪いと言われているのは、こうした包装のエネルギーもありますが、1本しかいらないところへ2-3本まとめて包装されると、無駄な分まで買わされるという点です。ばら売りで有れば1本ずつ購入することができて、全く無駄がありません。しかしもし3本入りのきゅうりを買わされた場合には、残りの2本は本来必要ない分ですが、そのためにラップ20枚分もエネルギーを余計に消費してしまったことになります。

■燃やしたときの影響は

 ラップには塩ビ(正確には塩化ビニリデン)製品と、ポリエチレン製品があります。環境に悪いことが言われているために、わざわざ塩ビ製品ですと名乗っている製品はありませんが、サランラップ、クレラップなど、大手メーカーの製品はだいたい塩ビ製品です。塩ビというのは妙なもので、その重さの大部分が塩素となっており、いわば塩素の固まりのようなものです。
 塩ビはよくダイオキシンの原因だからということで問題になっており、ポリエチレン製品がもてはやされています。おおむね妥当な話で、代替製品があるわけですから、塩素が余計に入らないようにしていくことは環境負荷を下げることにつながるでしょう。
 ただ、最近のポリエチレンラップの箱に「ダイオキシンを出さない」などと書かれているのはちょっと書きすぎかなといった感じもあります。焼却時には、すべての製品が混合されてめちゃくちゃな化学反応が起きていますから、プラスチック類はおろか、紙製品や、残飯なども、ダイオキシンの原因ではないとは言えません。

 細かくみていくと、混乱してくるばかりですが、「塩ビよりはポリエチレン」、「代替できるのであればできるだけ使わない」といった基準でみてみたらどうでしょうか。

■リサイクルしたらいいのか

 トレーは最近はリサイクルルートが整備されてきました。だから「トレーはリサイクルしたらいいので無理に減らすことはない」という話が出てきていますが、これも検討が必要なところです。
 リサイクルするのにもエネルギーが必要という話はよくされていますが、特にトレーは分が悪いようです。環境庁の環境家計簿では、1枚リサイクルすることによって2gのCO2が削減できるとされていますが、1枚作るのに8gのCO2が使われていますから、気持ちエネルギー消費が減った程度です。「リサイクルしたから罪を免れた」と考えるのは早計です。トレーをリサイクルするためには、トレーと同じ重さ以上の石油を投入しないといけないわけですからね。
 トレーを使わないほうがいいのは確かですが、そのために別の余計な包装が付いてきては意味がありません。どちらがいいのかエネルギーで評価したい場合には、先ほどのようにまず「どちらの方が重くなっているか」でチェックしてみてください。

■家庭のなかでどれだけ占めているのか

 自分の家庭のごみ袋をチェックしてみたことってありますか? 一世帯で年間およそ1トンのゴミを出しているのですが、その中には、ラップがおよそ8kg、発泡トレーが4kg弱、食料品のプラスチック容器(ラップを含む)全体では約30kgも含まれています。
 1gあたり15キロカロリーとして計算すると、45万キロカロリー。これはテレビをおよそ5000時間(ほぼ丸一年)つけておくエネルギーに相当します。
 

資料:
 化学経済研究所:基礎素材のエネルギー解析調査報告書(1993)
 プラスチック処理促進協会:プラスチックなど包装材料の環境影響評価(LCA) (1983).
 科学技術庁資源調査会編:家庭生活におけるエネルギー有効利用(1994)
 京都市ごみ細組成調査(1996)
 

この内容に関してのお問い合わせは鈴木まで。お気軽にどうぞ。

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