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バレエの「生」の魅力 (2003.11.21改)
私は、バレエは観ることが大好きです。学生時代にバレエの魅力にとりつかれて以来、劇場に通ってきました。
一方、VHSビデオカセットが世に現れた以降、ソフトの購入やテレビの放送の録画のコレクションを続けてきました。塵も積もれば山で、コレクションは結構な種類と数に上りました。主なものは、
「バレエソフトのコレクション一覧」として、HPに載せています。
ビデオのコレクションは、歴史的なバレリーナの踊りや、滅多に上演されることがない作品を観る等の楽しみを与えてくれます。そして、いつでも、好きなときに取り出して楽しめるというメリットがあります。でも、ビデオの映像は、所詮記録です。「生」の舞台とは、全く違うのです。そこで「生」の舞台の魅力を探ってみようと思います。
「舞踊は肉体と律動と魂の媒介者である」プラトンの言葉です。 バレエは、「一日練習を怠ると自分にわかり、二日練習を怠ると周りの人にわかり、三日怠ると観客にわかる」と言われるほど厳しい訓練を必要とします。 それも一日や二日の練習で事足りるわけではなく、それこそ気の遠くなるような厳しい訓練の日々を経てこなければ、満足なバレエの美の表現ができません。しかもそうしてやっと獲得した美も、踊りの一瞬一瞬の動きのうちに消えてしまう。 バレエが「瞬間の芸術」と言われるゆえんです。
バレエは、楽器などの道具を一切使わず、肉体だけで全てを表現しなければなりません。この「一瞬の輝き」を求めて、毎日厳しいレッスンを繰り返すダンサー。技を極める為にたゆまぬ訓練と努力が必要です。この「一瞬の輝き」が花開くステージ、観るものを夢の世界に誘います。
でも、ダンサーだって生身の人間。必ずしも好調でないときもあるでしょう。チョッと表情がかたいな、本調子でないなと思うこともあります。 私はそんな時こそ、「頑張って!!」と祈りをこめて、いつもよりたくさん拍手をするよう心がけています。バレエは観せる側と観る側で成り立っていて、ダンサーと観客が協力し合ってこそ、素敵なステージになると思うからです。
以上のように、バレエのステージは、「生」だからこそ、新鮮な感動を呼ぶのです。劇場の空気、臨場感、熱気、迫力・・・・。たとえダンサーが失敗しても、それは、その場に居合わせた人しか知り得ないこと。「生」に失敗は付きもの。私は、ダンサーの思わぬアクシデントを成長の証として、暖かく見守ってあげたいと思います。
踊り終わってのレヴェランス。この時バレリーナが見せる笑みほど美しいものはないと思います。至難な技をやり遂げた満足感と、無事に踊り終えた安堵感をたたえた満面の微笑み。「夢を有難う、ご苦労様」と心から労をねぎらってあげたくなる一瞬です。
ロイヤルバレエのプリンシパル吉田都さんは、「ステージに出る前には、いつも祈っています。無事に始まり、無事に踊りきることができますように、と・・・・・・」と言っておられます(The Goldより)。ステージに上がるまで、ベストを尽くす、でも自分でコントロールできないことは神に祈るしかない、ということでしょう。
ダンサーが舞台に立つときの「生」への不安、だからこそ、舞台に立った瞬間、不安は喜びに変わり、これが、私たち観客に、感動とこの上ない喜びを与えてくれるのだと思います。
この公演は、3部から成り立っており、1,2部の小品集の後、第3部がお目当ての「白鳥の湖」第2幕でした。私は、この「白鳥の湖」にいたく心を打たれました。と言うより、主役のオデットの踊りに打たれたといった方が正しいかもしれません。
オデットは、佐野明子さん。私のオデットのイメージにぴったりの美しい方です。ほっそりとして、気品があり、優しさにあふれ、とても安定した回転とバランス、アチチュードでの決めのポーズの美しさには、ハッと息を呑みました。王子役の呉竹伸之さんとの息もぴったり。呉竹伸之さん、サポートがとても上手で、佐野さんも安心して身をゆだね、じっくりと、グラン・アダージョを踊って下さいました。二人の助け合いを感じる微笑ましい素敵なパ・ド・ドゥでした。
公演後に知ったのですが、佐野さんは、7年前、同じ、「新人の会」の「白鳥の湖」全幕で、オデットを踊ることになっていたそうです(プログラムの山野博大氏の解説より)。オディール役は、佐々木三夏さん。それが、直前の急病で、泣く泣く、佐々木三夏さんに代わったもらったそうです。佐野さん、さぞ悔しかったことでしょう。
でも、この悔しさを、てこにして、精進を重ね、今回、最高のオデットを踊ってくださいました。踊り終えてのレヴェランス、ホッとした佐野さん、とても美しい笑顔でした。目にきらっと光るものがありました。7年目の大役、彼女としても感激ひとしおだったと思います。彼女の成功をこころから祝福したいと思います。
こんな感動は、「生」のステージでしか味わえません。
これからも、「生のバレエ」を見続けたいと思っています。
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