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バレエダンサーの怪我            (2002.1.13)

バレリーナ草刈民代さんが怪我をされたそうです。それも本番(レニングラード国立バレエへの客演)の数日前のリハーサルで。客演をキャンセルされたそうです。彼女の華やかなステージを期待していた観客は、さぞがっかりしたことでしょう。右足趾伸筋腱炎ということですからトゥで立ったとき、何かの拍子に指先を痛めたのでしょう。大事にならなければよいのですが。
「一回一回の舞台は挑戦の場でもある。もっともっと踊りを通じて自分を知り、演じているときに解放された瞬間が経験出来ることを願い、意志を持ってそれに挑戦してゆきたい。」と言っておられた草刈さん、本当にお気の毒、さぞ無念だったことでしょう。
 
ステージを所狭しと飛びまわるバレリーナ。軽やかに、風のように舞う陰には、全体重を一点で支えるトゥの先には、途方も無い負担がかかっていることでしょう。
急に激しいバレエの動きをしたら、捻挫や肉離れ、ひどいときには、アキレス腱を切ったり、骨折したり、ということにもなりかねません。また、パートナーの男性に高々と挙げられたリフトからの真っ逆さまの転落・・・ぞっとしますね。こう思うと、優雅で華やかなバレエダンサーという職業、危険が一杯とも言えるでしょう。
 
昨年から今年にかけて、ダンサーの怪我が続きました。ニコラ・ル・リッシュは大怪我をして、日本公演もキャンセルになってしまいました。小嶋直也も新国立劇場などのステージを棒に振り、現在治療中です。
ダンサーの怪我ほど、恐ろしいものはありません。致命傷にもなります。ロイヤルバレエのプリマだったアントニエッタ・シブリーは、怪我がもとで関節炎が悪化、二度とステージに立つことはできませんでした。牧阿佐美さんは、アキレス腱切断、斎藤友佳里さんは、骨折という大怪我をされましたが、お二人とも、地道な治療とリハビリで、見事復帰されました。吉田都さんは、2年ほど前、足首の怪我で半年ほど休まれたのは記憶に新しいところです。吉田都さんは、「ステージに出る前は、いつも祈っています。無事に始まり、無事に踊りきることができますように、と・・・・」と言っておられます。舞台上ではどんなアクシデントが起こるかもわからないし、自分の力ではどうにもならないこともあるからでしょう。 私の身近にも、足の怪我が基で、バレエをあきらめた方もいらっしゃいます。
 
でも、ひとりだけ怪我と無縁だったバレリーナが居ます。いまや伝説の人となったマーゴ・フォンティーンです。 彼女は初めて舞台に立ってから引退するまで、一度も怪我をしなかったそうです。
では、なぜ彼女は怪我をしなかったのでしょう。これには、彼女自身の毎日の体へのいたわりに加え、周囲の人たちの彼女への気配りがあったと言われています。
彼女自身のその日のうちに体の疲れをいやし翌日に持ち越さない努力に加え、それを助ける周囲の温かい目・・・、それだからこそ、彼女は怪我をせず、バレリーナとして比類なく長く舞台を務めることができたのでしょう。英国の人々は、彼女を英国の至宝として極めて大切に扱い、英国王室は男子のナイトにあたるディムの称号を授けています。英国ではバレリーナを芸術家として高く評価している証でしょう。
 
バレエは「一瞬の芸術」です。「一瞬の輝き」を求めて、毎日厳しいレッスンを続けているダンサー。ステージを踊り終えて、彼女がカーテンコールのレヴェランスで見せる満面の笑みは、何ものにも勝る美しいものです。 この時、観る側も「ご苦労様。怪我がなく、無事終わって良かったね!!」と、心から労をねぎらってあげたい気持ちになります。
私たちに夢を与えてくれる天使:バレリーナ、そしてそれを支える男性。彼女や彼たちが、くれぐれも怪我という災難に会わず、何時までも美しく踊り続けてくれるよう、願ってやみません。

(注)草刈さん、吉田さんの言葉は、草刈民代の全て(新書館)、The GOLD(ジェーシービー)より引用させて頂きました。

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