【山口's HP TOPへ戻る】

ドン・キホーテ 〜 森の女王のヴァリエーション:イ・ガヨン  (2015.12.25)

ローザンヌ国際バレエコンクール2015では、東洋人の活躍が目立ったけれど、中でも、イ・ガヨン(Lee GaYeong)とイ・ウネ(EunHye Lee)、パク・ソンミ(Park SeonMee)、 それにが金原里奈が特に印象に残りました。 イ・ガヨン、イ・ウネ、パク・ソンミは、いずれも韓国人で、金原里奈のみ日本人です。 金原 里奈はスカラーシップを受賞しました。イ・ガヨンとパク・ソンミはファイナリストとして残りましたが受賞せず、イ・ウネは予選で落ちてしまいました。 イ・ガヨンとイ・ウネはドン・キホーテ〜森の女王(ドリアードの女王)のヴァリエーションを、パク・ソンミはパキータ〜パ・ド・トロワの第1ヴァリエーションを、金原里奈はジゼルの第一幕ヴァリエーションを踊りました。 中でもイ・ガヨンの踊りが華やかで目を引きました。
イ・ガヨンは長い脚のスリムな均整の取れたプロポーション、表情は穏やかで、踊りは丁寧で柔らかく上品で、タメるべきところしっかりタメて、回るところは無理なくスムーズに回って・・・、 うっとりとして眼を離せませんでした。 夜の女王のヴァリエーションは、アントワーヌ・シモーヌの曲で、バレエ「ドン・キホーテ」(レオン・ミンクス作曲)に、あとから追加された曲です。 イタリアンフェッテ以外は大技がなく地味な感じの踊りですが、堂々と気品高くエレガントな女王らしい『雰囲気』が求められます。 眠りの森の美女のリラの精と似たところがありますが、違いは女王独特の優美さというところでしょうか。 優雅な音楽と振り付けで、キープするところはしっかり、ジュッテは元気よく、上半身は顔の位置にも気を配りながら腕を大きく柔らかく動かす・・・という 究極のエレガントな踊りで、若いダンサーの憧れヴァリエーションの一つです。 一方、背中を綺麗に見せることで一層美しさが際立つので、後ろを向いた時こそ気を抜かないよう気をつけたり、イタリアンフェッテもあり、難易度の高いバレリーナ泣かせの踊りでもあるのです。 イタリアンフェッテでは、しっかりと軸をとり目線を定めて回らないとジタバタして見えがちだし、重心を意識しながら体を引き上げてバランスをとらないとミスも目立ちやすい・・・、 これをコンクールで踊るには、よほど勇気が要ることでしょう。
イ・ガヨンの踊りは、このヴァリエーションのお手本とも思えるくらい。腕がまろやか可愛らしく、まっすぐ伸びた綺麗な脚にうっとり。全く力みがなく、自然で優雅で、惚れ惚れするほど美しかった。 舞台の袖で出を待っている表情は硬く、ひどく緊張している様子でしたが、舞台の中央へ進み出ると、一転穏やかな表情に変わりました。
出だしはアラベスク→プリエ→アティテュードで始まる振り付けもありますが、のっけから脚を垂直に跳ね上げた華麗なエカルテ・ドゥヴァンという難しい技に挑戦。グッと堪えてタメたバランスのポーズにハッと息を呑みました。 高々と蹴り上げた脚は無理なく爪先までまっすぐ伸びて、開脚の角度はほぼ180度。 ここまで楽々と自然に、高々と脚が挙がるのは股間接が完全に開く証拠。完璧なアン・ドゥオールが身についているのでしょう。 これを4度繰り返し、アティテュードとアラベスクで繋いで、再び4度のエカルテ・ドゥヴァンのバランス。全く乱れが無い上、爪先から手の指先まで神経が行き届いていて、惚れ惚れするほど美しかった。
そして見所のイタリアンフェッテ。片手アロンジェのアラスゴンドとアンオーのアティチュードの組み合わせの連続というこの難しい技ですが、これだけ正確に美しく踊れる人も珍しい。 振り上げた脚はほぼ垂直でピタリと止まる。並々ならぬ技術の高さが分かります。この場面、今にもトゥが崩れそうでハラハラ・ドキドキと手に汗握る人やバランスを失ってメロメロ・・・破綻、となる人も多いなか、 こんなに高く脚を挙げても殆どグラつかず、トゥの先のズレも少なく柔和な表情で軽々とこなしたのは流石です。 片足のポアントで立ったままで、180度近くまで高く脚を上げ、続く回転でも全くバランスが崩れず美しい。 終盤、イタリアンフェッテの12回程度でやめて、ピケ・トゥールに変える手抜きをする人もいるけれど、頑張って最後まで回りきったのは偉い。 そしてフィニッシュ。両足のトゥを揃えて立って、グッと堪えて微動だにせずピタリと決めてニッコリ。流石でした。日頃のたゆまぬ精進の結果、人並みはずれた技術を習得しているのでしょう。彼女の努力に敬服します。
イ・ガヨンは、ローザンヌ国際バレエコンクール2015でFinalistでしたが入賞は出来ませんでした。でも決勝まで残ったのですから大したものです。 彼女は現在、Universal Balletに所属しているようです。 しなやかな身のこなしには、ほのかな気品が漂い、難しい箇所に差し掛かっても、柔和な笑顔を失わず、見終わったとき心の中に花が咲いたようなホッとした幸せな気持ちになる。 フワッとまろやかな弧を描く腕、トゥの先までスッキリ伸びた長い脚・・・、純白のチュチュがとてもよく似合う。 ポアントでの足の運びは軽やかで、まるでチュチュの裾から光る泡を撒き散らしているよう。 手の指の先から、伸びやかな爪先まで細かく神経が行き届いて、イ・ガヨンは、まさにクラシックバレエを踊るために生まれてきたと思われるくらい、素敵なバレリーナです。
 2015 Prix de Lausanne Finalist - Classical variation
 GaYeong Lee - Sunhwa Arts High School, Seoul, South Korea
  - Don Quixote, Queen of the Dryads Act 2 - Leon Minkus - Marius Petipa 

なお、このコンクールでは、韓国のイ・ガヨンとイ・ウネの他に、ロシアのMaria Martyanovaと日本の五十嵐愛梨が「森の女王のヴァリエーション」を踊りましたが、イ・ガヨン以外は皆予選で落ちてしまいました。 私は、イ・ウネ(EunHye Lee)の踊りが、イ・ガヨン以上に爽やかで上品で美しくて好きなのですが、この時は本調子でなかったのか幾らか不安定なところがあったのが惜しかった。 彼女が本調子の時踊った「眠りの森の美女」のヴァリエーションの素晴らしさが忘れられません。() また、五十嵐愛梨は小柄で可愛らしく、懸命に踊る初々しい姿に心を打たれましたが、最後のイタリアンフェッテで崩れてしまったのが残念でした。
 2015 Prix de Lausanne Selections - Classical variation:
EunHye Lee 、        Maria Martyanova 、  五十嵐愛梨(Airi Igarashi)

【山口's HP TOPへ戻る】