何とも微笑ましい「ジゼル」を見ました。アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボーによるロイヤルバレエの録画です。ジゼルとは、結婚前に死んだ乙女の霊ウィリが、夜中になると墓から起き出して若い男性を捕まえ、死ぬまで踊らせるという詩人ハイネの作品を元に作られた19世紀ロマンティック・バレエの最高峰のひとつ。ジゼルを演じるのは、純真可憐な娘役が似合うアリーナ・コジョカル。アルブレヒト役はヨハン・コボー。実生活でもカップルのアリーナとヨハンのパートナーシップは羨ましいほどでした。
第1幕、アリーナ・コジョカルはかわいらしい村娘で、ジゼルにピッタリという感じでした。ベンチに腰を降ろしてアルブレヒトの座る場所を空けるためにスカートをそっとずらす仕草の可愛らしさ。そっとグラスの底を自分のスカートで拭き、バチルド姫に飲み物を渡す奥ゆかしさ。努力だけでは不可能と思えるジゼルとしての資質を生まれ持ったダンサー。この映像のコジョカルは、そんな感じがしました。
第2幕、その愛くるしい容姿もさる事ながら、そのしなやかな身のこなしが美しく、若さに見合わない卓越した表現力で、超現実な世界を観せて、魅せてくれました。冒頭のグラン・スゴンドがピタリと決まったときは、流石と思いました。コジョカルは、ルグリと東京バレエ団と共演した時も素晴らしかったけれど、パートナーのコボーと自分のカンパニーと一緒に踊ることでより自由に自分のジゼル像を表現していたように思います。
アルブレヒト役のヨハン・コボーは大人の貴族で、貴族が村人の振りで村娘と恋に落ちる事に対しても罪悪感はなさそうで、いかにもジゼルをもて遊んでいる感じでしたが、そんなアルブレヒトも、二幕では自分のした事の重大さに気付き、本気で後悔しているようでした。コボーの力強い踊りが、後悔の念の強さを物語っているように思いました。彼はリフトが頼もしく、全く「よっこらしょ」と持ち上げる感じがしません。コジョカルが軽いせいもあるのでしょうけが、浮遊するジゼルがすごく自然で、精霊の動きらしく見えました。
かって、英国の新聞のインタビュー(2005/3)でコボーは以下の通り語ったそうです。
「アリーナがダンサーとして、キャリア・技術ともにピークを迎えるであろう10年後、僕は40歳を迎えている。
その時に、彼女が安定したパートナーを得ることができるかどうか。彼女にとって大きな問題になるかもしれない」、
ということで、コジョカルとコボーという、現在最高のカップルを観ることができるのは、バレエ・ファンにとって、とても幸せなことと思います。
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振付はロイヤルならではのピーター・ライトがストーリー性豊かな演出を見せて、舞台の魅力を一層引き立てています。2006年1月のコヴェント・ガーデン王立歌劇場における収録ですので、映像も非常に鮮明です。
振付:マリウス・プティパ(原振付:ジャン・コラッリ&ジュール・ペロー)、
演出:ピーター・ライト、音楽:アドルフ・アダン
出演:アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー、
マーティン・ハーヴェイ、リチャード・ラムゼイ ほか
2006年、ロンドン、コヴェントガーデン王立歌劇場
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