【山口's HP TOPへ戻る】

グラン・パ・クラシック         (2008/11/03)

グラン・パ・クラシックは20世紀中頃の初演ですから、古典とは言い難いのですが、男女で踊るアダ−ジョ、男女それぞれのヴァリエーション、そして、二人のコーダといった古典のグラン・パ・ド・ドゥの形式をとっています。 特に、女性のヴァリエーションは「これが踊れたら、怖い者なし」と言われるほど難しいテクニックの連続で、若い女性ダンサーの憧れの踊りであり、バレエコンサートや発表会で絶大な人気を誇っています。
発表会の前、出を待つ若いダンサーが、 「体力の限界に挑戦するような辛さ。とってもスタミナが必要です」、「見せ所の26連続のルルヴェ。次第にかかとが落ちてきて、とてもキツい。」、「無事に最後まで踊りきれますように 、祈るばかりです」と恐怖の気持ちを語っていましたが、無事踊り終わって、「あこがれの踊りを踊れたなんて幸せ」、「踊るのことがこんなに楽しいということを再認識できました」と大感激していたほど、やり甲斐のあるヴァリエーションなのです。
 
初演は1949年の事、イヴェット・ショヴィレとウラジーミル・スクラートフ、パリ・シャンゼリゼ劇場にて。ストラヴィンスキーの「春の祭典」初演の劇場です。振付はグーソフスキーと言う人で、パリ・オペラ座バレエのエトワールとして一時代を築いたショーヴィレとスクラートフのために振り付けたものです。
グラン・パ・クラシックは、純白のクラシック・チュチュの女性ダンサーと、純白のタイツ姿のパートナーの男性が繰り広げる優雅さとスリル溢れる洒落なグラン・パ・ド・ドゥです。
アダージョでは、女性は、ふんだんに組み込まれたピルエットやバランスを巧みにこなし、お稽古のお手本のようなポーズを次々と決めていきます。 女性が男性の手を離し、アンオーまで高く手を挙げ、ぐらつきを堪えて必死のバランス。鋭いトゥの先からすっと伸びた美しい足の甲がギクギク震えながらも、笑みを失って必死にバランスを持ちこたえるバレリーナの姿・・・。「頑張って!!!」と、観る者の感動を誘います。
男性のバリエーションは、「ドン・キホーテ」のような男性的な力強さというよりも、しなやかな回転と、やわらかなジャンプといった、上品さのほうが相応しいと思います。
最も見応えのあるのは、女性のヴァリエーション。女性ダンサー泣かせの超絶技法の連続です。左手を腰に、一瞬ポーズをとり、回る。両手を腰に右足一本で巧みに踊る。きれいな脚のポーズと回転が見物です。今にも崩れてしまいそうで、見る方は思わず身を乗り出し、ハラハラ、固唾をのんで見つめてしまいます。
コーダは、グラン・フェッテなど、お互いの技の競い合いで締めくくります。観客は、手に汗握るスリリングな興奮がじわじわ高まっていきますが、ダンサーは、息も絶え絶え、汗びっしょりになってしまう、ハードな踊りです。
このバレエが注目を浴びたのは、シルビー・ギエムが演じてからと言われています。イヴェット・ショバレにより仕込まれたギエムと、サポートのマニュエル・ルグリによって演じられたこの踊りは、ギエムが次々に繰り出す超絶技巧で、公演会場を騒然とさせたそうです。 私も、この映像を見ましたが、ギエムの客席を見据えるような強気の姿勢と超絶技巧は、どうしても好きになれませんでした。180度を超える凄まじい開脚、トゥに根が生えたようで微動だにしないバランス。さすがに技術は凄いけれど、エレガンスのかけらもない。こんなな度肝を抜く神業はバレエではないと思います。
むしろ、ギエムのように曲芸的ではなく、心なしか不安を感じさせながらも、優雅さ溢れ、真珠のような輝きだった、エリザベート・プラテルのグラン・パ・クラシックが好きです。

2007年2月のローザンヌバレエコンクールで素敵なヴァリエーションを見ました。ドイツのミュンヘン・バレエアカデミーに留学中の河野舞衣さんという日本人です。彼女は古典の一本目に、この難しいグラン・パ・クラシックのヴァリエーションを選びました。終盤近くの難技を決めると会場から拍手がわきました。テレビ映像で見る限り、終わらないうちに喝采を受けていたダンサーは彼女一人だったと思います。彼女は古典の二本目では「ライモンダ」のヴァリエーションを踊り、これも大成功。見事準優勝に輝きました。当時まだ17歳ということでしたが、もっと大人っぽく円熟した感じで、つま先はスッキリ伸びて美しく、長い腕がとても気品に溢れていて、ちょっとスケートの荒川静香さんをイメージさせる素敵なダンサーでした。 なお、この時優勝したのは韓国のパク・セーウンで、一本目が「ジゼル」のペザントのヴァリエーション、二本目が「ライモンダ」からバムゼッティのヴァリエーションでしたが、特にジゼルが優雅で素敵でした。

【山口's HP TOPへ戻る】