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バレエ「ドン・キホーテ」:関西バレエカンパニー公演(1997)    (2006.5.1)

「ドン・キホーテ」全幕の映像があります。1997年の日本バレエ協会関西支部、関西バレエカンパニー公演の録画です。私はこの映像が大好きで幾度も繰り返し見ています。
主役のキトリ役の江川由華さんは、やや痩せすぎではと感じられるくらい、ほっそりシャープなプロポーション。優しい雰囲気のなかに、ほのかな気品が漂う美しいダンサーです。 「ドン・キホーテ」の踊り、派手さはなく、演技も自然で、むしろ奥ゆかしさが感じられます。静かな物腰に優雅な身のこなしは、まさにクラシックバレエの理想の舞姫。表情がとても豊かで、多くの場面ではわずかに歯の覗く柔和な笑顔ですが、難しいポーズや回転にさしかかると口元をキュッと結んだ険しい表情にかわります。この表情が実に美しく魅力的なのです。ただ、「ドン・キホーテ」での快活なスペインの町娘キトリという役柄を考えると、特に第1幕で、やや大人しすぎるかなと感じたところもあり、気品を損なわない程度に、もう少し冒険しても良い気がしました。でもクラシック・チュチュに着替えた第2幕以降は、まさに彼女の魅力爆発といったところ。特に、幻想の場でのドルシネア姫。物語のドン・キホーテならずとも、うっとりしてしまうという感じです。薄いピンクの可愛らしいチュチュは、柔和な笑顔で、優しさがにじみ出た彼女にピッタリとマッチ。美しい甲のポアントさばきの正確さ、アチチュード、アラベスクともぴたりと決まるポーズの美しさには目を見張ります。シェネの高速回転からのフィニッシュでは、勢い余って、ポアントの先がわずかにぐらつきましたがご愛敬。むしろ必死に堪えた険しい表情がなんとも愛らしい。大きな拍手にほのかな笑みも覗きました。そして、終幕のグラン・パドドゥ。刺繍の入った気品溢れる白いチュチュ。この場面、情熱的な赤いチュチュを着る人が多いのですが、この白は、優しい江川さんの雰囲気によく似合っていました。アダージョのアラベスクでは、スラッとしたスタイルが美しく映え、柔らかい笑顔に魅了されました。パートナーの樫野隆幸さんとの呼吸もピッタリで微笑ましさを感じます。見せ場のアチチュードのバランス。樫野さんのサポートの腕を静かに離して、アンオーの静止。でも、上体がグラッとして、すぐ足をおろしてしまった。ここはもう少し頑張って欲しかった。続く、高いリフトから真っ逆さまに落ちる難しいフィッシュダイブは、樫野さんの強力なキャッチで見事にクリア、大きく反り返った体の線が美しかった。ただ、コーダの32回のグランフェッテは苦手なのか、軸足が左右に振れてとても辛そう。観客の手拍子に必死についていくという感じで、笑みを忘れて真剣そのもの。フィニッシュで、大きく軸足がずれて、ハッとしましたがグッと堪えて無事終了。思わずこぼれたホッとした笑みが素敵でした。
大阪市の岡本バレエスクールの講師という江川由華さんは、関東の私達には馴染みの薄いバレリーナですが、大阪芸術奨励新人賞、東京新聞全国舞踊コンクール入賞獲得という実録者。1993年神戸コンクールシニアの部で第3位に入賞した時、来日中のドゥジンスカヤに認められ、ロシア・ワガノワ・バレエ・アカデミーに1年間留学して研鑽したそうです。最近では2005年のバレエ芸術劇場「眠れる森の美女」のフロリナ王女で、終始柔らかい笑顔で、しっとりした繊細な踊りをみせてくれました。ワガノワ仕込みのバレエが花開いたという感じです。ただ、この「ドン・キホーテ」の映像で見る限り、彼女にはキトリの溌剌とした雰囲気よりも、むしろ可憐なドルシネア姫の方があっているような気がします。「眠りの森の美女」のフロリア王女が素敵でしたが、リラの精も似合いそう。可憐で優しい雰囲気の中に、気品と華も感じられるので、オーロラ姫にもピッタリの感じ。ドルシネア姫のソロでは、アチチュードのバランスも危なげなく決めていたので、古典バレエで最も至難なローズアダージョのバランスもバッチリ踊りきってくれることでしょう。是非、彼女のオーロラ姫を見たいものです。

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