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バレエ「眠りの森の美女」:関西バレエカンパニー公演(2005)  (2009.4.14改)

とても大切にしているDVDがあります。2005年1月の(社)日本バレエ協会関西支部、関西バレエカンパニー公演の「眠りの森の美女」(全幕)の記録映像です。(社)日本バレエ協会関西支部は、ロシア・サンクトペテルブルクのキーロフ・バレエ&ワガノワ・バレエ学校と絆が強く、91年にセルゲイエフ版「シンデレラ」を日本初演以来、クラシック・バレエの様々な作品をロシアの指導者のもとに上演しています。 「眠りの森の美女」は1999年に続き二度目。日本バレエ協会関西支部に所属する関西の各バレエ団のダンサーが集っての公演です。

プロローグの妖精は、松本真由美、田中小百合、城谷季史子、大野嘉子、長尾美花、 そしてリラの精は楠本理江香。若々しいダンサー達の初々しい踊りを見ることができました。 リラのすみれ色を中心に白、ピンク、黄、山吹、オレンジと、暖かい花の色を思わせたクラシック・チュチュが美しい。 リラの精を踊った本田道子バレエスクールの楠本理江香は、スラッとした美しいダンサー。 ヴァリエーションは緊張していたようで、表情は強ばっていましたが、プレッシャーと戦いながら踊る姿は清々しく、踊り終わってほっとした笑顔が美しかった。 パ・ド・シスの最後のコーダは、リラの精がイタリアン・フェッテで締めくくりますが、体力的にも相当きつく難しいこの踊りを、懸命に踊る楠本理江香に、思わず「頑張って!!」と応援したくなりました。

プロローグが終わって、いよいよ第一幕。前回(1999年)の主役は、堀川美和と、今回リラの精の楠本理恵子(楠本理江香)のダブルキャストでしたが、今回は大阪バレエアカデミーの山下摩耶。 可愛らしく、きらきら輝いた、フレッシュなオーロラ姫でした。経験を積んだベテランのダンサーでさえ、足が震えるほど緊張するというオーロラの出の場面。 若い山下摩耶、さぞかしプレッシャーだったと思いますが、キュートでバネがきいて、ステップが歯切れよく、安定した技術で好調な滑り出しでした。
ひとしきり踊って、ローズアダージョ。見せ場のアチチュードのバランス。アームスの使い方が本当に優雅で、ふわっと円を作ります。 右足のポアントで立ち、王子の差し出した右手をしっかりと握り、ゆっくりとした音楽にのって、慎重に手を離してバランス。一瞬時間が止まったかのよう。前半のバランスを危なげなく終えて、いよいよクライマックス。ポアントで立ったオーロラの回りを王子が回る難しい場面、女性の緊張が頂点に達するところです。 王子に右手を支えられてゆっくりと回るとき、支えの右腕が小刻みに揺れて、山下摩耶、必死にポーズの乱れ堪えている様子がうかがえますが、回り終えて、慎重に、でも意を決したように手を離し、高々とアンオーまで腕を挙げます。上げた腕はまろやかな円を描き、王子の目を見て、気品あふれるやわらかな微笑みを崩しません。2人目、3人目と進むうちに、4人の王子への恥じらいが徐々に緩和されていく様子を見事に表現していました。この間の仕草、なんとも優雅でチャーミング。緊張の中でも、終始、柔和な表情を失わないのは、立派です。ピンクのチュチュが本当によく似合っていましたv。 この場面、オーロラと4人の王子の呼吸が合わないと、女性ダンサーのバランスが不安定になりがちですが、山下摩耶とサポートの4人の王子の呼吸はぴったりで、王子達は山下摩耶を優しくリードしていました。とくに終盤のアチチュード・アン・プロムナード。4人とも、一瞬たりとも山下摩耶に不安を与えまいと慎重にサポートしているのが感じられました。こんな暖かいサポートがあったからこそ、山下摩耶、緊張の中でも、美しい微笑みを絶やせずにいられたのでしょう。 最後は、180度近くまで足を高く挙げたアラベスク・パンシェで締めくくりました。こんなに挙げると下品に感じるダンサーも居ますが、山下摩耶のそれはとても上品で美しく感じられました。最大の難関のローズ・アダージョを無事踊り終えて、観客の拍手を受けた彼女は晴れ晴れとした表情でした。


 
デジレ王子はアンドリアン・ファジェーエフ。キーロフ・バレエのプリンシパルです。無理なく自然に飛ぶ柔らかなジャンプがとても美しく、長身で王子らしい気品も感じられ、デジレの雰囲気にピッタリのチャーミングなダンサーです。ソロだけでなく女性のサポートもとても上手なようで、第3幕グラン・パ・ド・ドゥでは、山下摩耶は安心しきってサポートを受けているようでした。 ダンスール・ノーブルとは、こういうダンサーを指すのでしょう。山下摩耶は、やわらかさもある美しい踊りですが、第3幕で私の持つ、妻となる成長した女性のイメージとは、ちょっと違っていました。第1幕の可愛らしいお姫様のイメージを引き継いでます。落ち着きある大人のイメージを出せるようになると、より良いと思います。どちらかというと溌剌とした雰囲気の持ち主のようで、ドン・キ・ホーテのキトリや、海賊のメドーラといった役の方が、より彼女の魅力が活かされるかもしれません。

フロリナ王女と青い鳥は江川由華と桑田充。江川由華は、大阪市の岡本バレエスクールの講師で、優しい雰囲気のなかに、ほのかな気品が漂う美しいダンサー。スラッとしたスタイルで、美しい甲のポアントさばきのステップの正確さに、終始柔らかい笑顔が印象的でした。江川由華は、かって、ドン・キホーテのキトリを踊りましたが、やや大人しすぎるかなと感じたところもあり、このフロリナ王女の方が良く合っているように思いました。
 
この公演の多くの出演者は、初々しい関西の若手ダンサー達です。コールドには子供達もたくさん出演しておりとても可愛らしい。特定のバレエ団によるものではなく、関西のいろいろなバレエ研究所から集まったダンサー達が協力して演じたものです。このように多くのダンサーが集まって行う公演では、ダンサーの技量も違うし、練習時間も限られます。それなのに、この映像での、ダンサー達の踊りは、まとまりの上でも大バレエ団のものに引けをとらない魅力的なものでした。これにはダンサーもスタッフも大変な苦労があったと思います。さすがに、コール・ド・バレエの子供達は、経験が浅いため、わずかに乱れも見られましたが、年月を重ね舞台経験を積んで成長することで、さらに舞台が充実することでしょう。
 
この映像は、関西のビデオ制作会社によるものですが、映像がとても鮮明で、ダンサー達の美しい踊りを十分楽しめます。あまりに鮮明すぎて、ミスもよく分かってしまい、出演者には恐怖かもしれません。おそらく、カメラマンや編集者の技術者が相当優秀なのでしょう。これからも美しい映像を期待します。このDVD、私の大切な宝物として大切にしていきたいと思います
 
  日本バレエ協会関西支部、関西バレエカンパニー公演
  バレエ「眠りの森の美女」(全幕)
  オーロラ姫 山下摩耶、デジレ王子 アンドリアン・ファジェーエフ
  リラの精 楠本理江香、カラボス 鈴木賀律也
  妖精達 松本真由美、田中小百合、城谷季史子、大野嘉子、長尾美花
  フロリナ王女 江川由華、青い鳥 桑田充
  河崎聡指揮、関西フィルハーモニー管弦楽団
  2005/1/23大阪国際会議場メインホール

この公演の評がありました。→こちら

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