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白鳥の湖〜黒鳥のパ・ド・ドゥ:ケルチェ、ゴメス、ジョインビレ・フェスティバル   (2009.2.4)

パ・ドゥ・ドゥのアダージョで女性が力を発揮できるのは、パートナー次第と思わせるほど、男性のサポートのうまさを感じる映像があります。ABTのゴメスがブラジルのセシリア・ケルチェという女性ダンサーと踊った、黒鳥のパ・ドゥ・ドゥです。ゴメスは、この女性ダンサーの人並み外れたバランスと回転の技術を、極限まで引き出そうとしています。ケルチェはこれに応えて、自分の限界に挑んでいます。左足ポアントで右足を90度に上げたアラベスク。ゴメスは、ゆっくりと、しかもしっかりと、ケルチェの左手をアンオーの位置まで持ち上げていきます。そして、ケルチェが完全にバランスを確保したのを見届けて、握っていた指の力を緩めました。ケルチェは慎重に握っていたゴメスの指を離して独り立ち、上体の揺れをグッと堪えてバランス、このまま10秒以上も懸命に持ちこたえます。ケルチェの上体がわずかに後に反り返り、「もうこれ以上はダメ、限界!!」と、ケルチェの表情が険しくなった瞬間、ゴメスはケルチェのウエストをホールド。ケルチェは「ありがとう!!」と自然に笑みが零れます。溜め息が出るほど絶妙なサポートのタイミングでした。アダージョ最後近くでは、わずかにふらついたものの、ゴメスの力強い腕に支えられて、180度まで開脚したアラベスクをしっかりと決めました。
ウエストを支えられたピルエットでもケルチェは、なんと10回以上。普通5〜6回が限界なのに、これは凄い。また、ケルチェはバリエーションでも笑みさえ浮かべて8回ほど回っていましたから、ピルエットがよほど得意なのでしょう。自ら「ピルエットは苦手」とう故マーゴ・フォンテーンが見たら腰を抜かすでしょうし、ローズアダージョのヴァリエーションで驚異のピルエットを見せた吉田都さんも真っ青という感じ。これほどの曲芸技を見せられと、バレエは芸術?、曲芸?、と、疑問になってしまいます。ただ、回り過ぎたせいか、フィニッシュでは勢い余ってピタッと止まれず、思わず一歩踏み出してしまったのは、ご愛敬。笑みを失って必死に堪える表情が何とも可愛らしかった。コーダでのグランフェッテも、前半はダブルも入れてハッスル。後半やや疲れたのか、 いくらか軸足にズレが出たものの、さほど乱れず無難にこなしていました。ブラジルのダンサーは日本であまり知られていませんが、このセシリア・ケルチェというバレリーナは南米では有名だそうです。ABTのパロマ・ヘレーラもそうですが、南米の女性ダンサーには、情熱的でバランスも回転も凄いひとがいるものです。
バレエは芸術ですから、全幕公演の中ででこれほどのテクニックを見せつけられると、「これ、バレエ?、曲芸じゃない?」と 鼻につくものですが、これは、バレエコンサートですから、観客へのサービスとしてこれも良いでしょう。楽しいものです。
 
セシリア・ケルチェ(リオデジャネイロ・バレエ劇場)
マルチェロ・ゴメス(アメリカンバレエシアター)
ジョインビレ・フェスティバル(ブラジル・サンタカタリーナ州)

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