1973年4月、イスラエルのテルアビブで海水浴を楽しんでいたイシュットヴァン・ケルテスを突然大波が襲いました。一瞬にして40歳そこそこのまだこれからという指揮者は帰らぬ人となりました。
ケルテスと言えば、当時、アバド、マゼール等と共にこの世代を代表する若手のホープとして期待されていた逸材でした。
(ケルテスの最期はバス歌手岡村喬生氏が著書「ヒゲのオタマジャクシ世界を泳ぐ」に詳しく書いておられます。→) でも、モーツァルトをこよなく愛したケルテスは、この事故の2年前の1971年、素晴らしいレコードを残してくれていたのです。「モーツァルト・オペラ・フェスティバル」というアルバムです。
当時31歳だったルチア・ポップと年齢のブリギッテ・ファスベンダーをはじめ、トム・クラウゼ、ヴェルナー・クレンらその後のドイツ・オペラ界を代表する歌手たちが参加し、モーツァルトのオペラから有名どころ、聴きどころを録音したものです。
まさに贅を尽くしたキャストに加えて、オーケストラはウィーン国立歌劇場のメンバーで構成されたウィーン・ハイドン管弦楽団。響きは、完全にウィーン・フィルなのです。
モーツァルトの歌劇の主要なアリアや重唱23曲からなり、どれ一つとってもこれ以上はないと思わせるほど見事な演奏です。
「フィガロの結婚」から、若く明るく軽やかな声のポップの「とうとううれしいときが来た」やキリリとしたファスベンダーの「恋とはどんなものかしら」、ポップとクラウゼの二重唱「ドン・ジョヴァンニ」から「手を取り合って」、「魔笛」から「恋を知るほどの殿方には」、クラウセによる「フィガロの結婚」から「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」などの有名曲のどれもが絶品です。
この他、ルチアポップの「ツァイーデ」から「安らかに憩え私の優しき生命よ」、「羊飼いの王様」のアミンタのアリアといった比較的珍しいオペラからの抜粋も聴きどころ。
アナログ録音とは言え、当時のロンドン・レーベルの最新技術を駆使した暖かみのある美しい音です。
一時、ディジタル化されたCDも出ていたのですが、このCDには、全ての内容は収められていませんでした。
この録音、LP2枚組みなので、総録音時間は80分を超えており、CD1枚にする為に、序曲4曲がカットされたのです。
そんなわけで、録音された曲を全て含んだこの2枚組のLPは貴重です。幾度も聴いたためLPレコード特有のスクラッチノイズは増えましたが、このアナログLPレコードは、私の宝物の一つです。
モーツァルト・オペラ・フェスティバル
歌劇「フィガロの結婚」〜、序曲、三重唱:なんたることだ、
アリア:もう飛ぶまいぞこの蝶々、アリア:恋とはどんなものかしら、
三重唱:ひどいやつだ、アリア:恋人よ、早くここへ
歌劇「イドメネオ」〜、序曲
歌劇「後宮よりの逃走」〜アリア:コンツタンツェよ、またあえるとは、
二重唱:バッカス万歳、ロマンス:ムーアで捕らえられた可愛い娘
アリア:ああどんなに勝利を望んだことか
歌劇「魔笛」〜、序曲、アリア:私は鶏刺し、アリア:何と美しい絵姿
歌劇「ツァイーデ」〜、アリア:安らかに憩え私の優しき生命よ
歌劇「コシファントゥッテ」〜序曲、三重唱:さわやかに風よ吹け
アリア:恋の息吹は、二重唱:あなたに捧げた心
歌劇「羊飼いの王様」〜、アリア:私が愛するならいつまでも変わるまい。
歌劇「ドン・ジョバンニ」〜、二重唱:手を取り合って、アリア:酒の歌
<キャスト>
ルチア・ポップ(ソプラノ)、ブリギッテ・ファスベンダー(メゾ・ソプラノ)、
ウェルナー・クレン(テノール)、トム・クラウゼ(バリトン)、
マンフレッド・ユングヴィト(バス)
イシュットヴァン・ケルテス(指揮)ウィーン・ハイドン管弦楽団
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イシュットヴァン・ケルテス
1929:ハンガリーに生まれる
1955:ブダペスト国立歌劇場を指揮
1960:イギリスにてロンドン交響楽団を指揮
1962:イスラエル交響楽団を指揮
1962:ウィーン・フィル ハーモニー交響楽団を指揮
1964:ロンドン交響楽団と共に来日
1968:大阪国際フェスティバルにて再来日。 日本フィルを指揮
1973:テルアヴィヴにて遊泳中に死亡
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London SLC2407〜8 |
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