ダニエル=フランソワ=エスプリ・オーベール(1782〜1871年)は、パリ音楽院て院長も務めたというフランスのオペラの作曲家。
現在では彼の作品はほとんど忘れ去られてしまい、ほとんど演奏されることはありません。
オペラ「マルコ・スパダ」は彼の9作品のオペラ中で1852年に作られた最後の作品で、3幕の歌手付きのバレエに改作され、1857年、オペラ・ガルニエで上演されたとのことです。
マルコ・スパダは貴族でありながら盗賊の顔ももつ男。スパダと娘とその恋人、それともう一組のカップルとが登場し、異国情緒ありユーモアありロマンスあり・・・といった内容の作品と聞いています。
1982年に、ピエール・ラコットの振付で、伝説のダンサーと言われるルドルフ・ヌレエフがマルコ・スパダを、ギレーヌ・テスマーがマルコの娘を踊った、ローマ歌劇場バレエの全幕映像のDVDがあるそうですが、私はまだ見たことがありません。
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私は、ボニング指揮ロンドン交響楽団の1972年録音のLPレコードを持っています。この録音はオーケストラのみで歌手は登場しませんが、バレエ曲とは言え、ヴァイオリンのソロが入っているし、管弦楽曲として聞いても充分楽しいものです。
オーベール/「マルコ・スパダ」
リチャード・ボニング(指揮)/ロンドン交響楽団
ジョン・ジョージアディス(ソロ・ヴァイオリン)
録音:1972年、イギリス
レーベル:英デッカ
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ボニング/ロンドンSOのLP |
バレエ「 グラン・パ・クラシック(Grand Pas Classique)」は、バレエ「マルコ・スパダ」の第二幕の中の曲を使って作られたのです。
初演は1949年、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を初演したパリ・シャンゼリゼ劇場です。
振付はヴィクトル・グゾフスキーと言う人で、パリ・オペラ座バレエのエトワールとして一時代を築いたイヴェット・ショーヴィレとウラジーミル・スクラートフのために振り付けたものです。
最も見応えのあるのは、女性のヴァリエーション。左手を腰に、一瞬ポーズをとり回る、両手を腰に右足一本で巧みに踊る・・・、きれいな脚のポーズと回転が見物です。
今にも崩れてしまいそうで、見る方は思わず身を乗り出し、ハラハラ、固唾をのんで見つめてしまいます。
「これが踊れたら、怖い者なし」と言われるほど、女性ダンサー泣かせの超絶技法の連続で、若い女性ダンサーの憧れの踊りでもあり、バレエコンサートや発表会で絶大な人気を誇っています。
このバレエが注目を浴びたのは、シルビー・ギエムが演じてからと言われています。
イヴェット・ショバレにより仕込まれたギエムと、サポートのマニュエル・ルグリによって演じられたこの踊りは、ギエムが次々に繰り出す超絶技巧で、公演会場を騒然とさせたそうです。
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シルビー・ギエムとエリザベート・プラテルのグラン・パ・クラシックのヴァリエーションが、You Tubeに載っていました。
シルビー・ギエムの180度近くまで脚をあげるような超絶技巧は凄い。でも好きになれない。度肝を抜く神業や強気の姿勢にはエレガンスのかけらも感じられないのです。
これに対して、エリザベート・プラテルの踊りは、優雅さに溢れ、真珠のような清楚な輝きがあります。
心なしか不安そうな表情に、そっと支えてあげたいと思わせる可愛らしさがあり、とても好きです。
また、2007年2月のローザンヌバレエコンクールで河野舞衣さんという日本人ダンサーが、このグラン・パ・クラシックのヴァリエーションを踊り、見事準優勝に輝きました。
終盤近くの難技を決めると会場から拍手がわきました。テレビ映像で見る限り、終わらないうちに拍手を受けたダンサーは彼女一人だったと思います。
当時まだ17歳の彼女は、つま先はスッキリ伸びて美しく、長い腕がとても気品に溢れていました。
⇒シルビー・ギエムとエリザベート・プラテルのYou Tube の映像は、こちら |
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