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眠りの森の美女〜第一幕ローズアダージョ:フォンティーン      (2004.9.1)

マーゴ・フォンティーンが踊った「ローズアダージョ」の古い映像があります。撮影は1959年ということですから、30代終わり頃のフォンテーン絶頂期のものです。モノクロ映像ですが、それを忘れてしまうほど、フォンティーンの踊りは素晴らしいものです。
4人のサポーターの手から離れてバランスを保つ都合6回のアチチュードはまさに圧巻。最初の3回のバランスは、フォンティーンは、恥ずかしくて王子に眼を合わせられないといった感じで、視線を王子の差し伸べた手に向け、ためらっているように手を離しながらも、しっかりとアンオーまで手を挙げて、ゆっくりとおろして次の王子の手を握ります。
ところが、終盤の3回のプロムナードに続くバランスでは、回転するときも手を離すときも、しっかりと王子の眼を見つめ、さっと王子の手を離し、高々と手を挙げます。一呼吸おいて、がっちりと、しかも柔らかく、次の王子に捉まります。この間、柔和な笑顔を崩しませんv。 16歳の少女が、4人の見合い相手を前にしての恥じらい、それが、徐々に和らいで、終盤には、少女を脱皮して成長していく様子を実に上手く、しかも自然に表現しています。何より、気品があります。単なる平衡感覚の良さだけとは思えません。バランスの長さだけであれば、最近は、もっと長くキープできる人もいますが、この上品さ、そして、4人のサポートの王子への心配りは、このフォンティーンの踊りには遠く及びません。 こわばった表情で、ぐらぐらしながら必死にバランスをとっているバレリーナも多い中、フォンティーンはトゥに根がはえたように微動だにしませんし、終始柔和な笑顔を崩さないのは流石です。
マーゴ・フォンティーンは、「眠りの森の美女」が最も思い入れの多い作品と言っています(自書:バレエの魅力)。1946年のマーゴ・フォンティーンのニューヨーク公演は、今でもロイヤルバレエ団で伝説になってるそうです。「一夜にしてスターになる」、そんな劇的な出来事が起きました。場所はメトロポリタンオペラハウス。「眠りの森の美女」のオーロラ姫を踊ったフォンティーンは、出だしのローズアダージョで決定的に観衆を虜にし、文字通り一夜にして大スターになったのです。ロイヤルバレエのピーター・ライトが「それまでも彼女はいいダンサーだった。ただ観客に伝わるものがなかった。ところがその日のマーゴからは何かあふれ出るものがあった。すばらしい表現力で観客を魅了したんです」という記事を読んだことがあります。「踊りが変わったわけではない。ただ違ったのはスターになったということ。突然トンネルを抜けて、観客とコミュニケーションをとれるようになったんです」。マーゴは当時27歳。バレリーナとしては遅咲きです。それから彼女は20世紀を代表するバレリーナに駆け上っていったのです。 そんなマーゴでさえ、生身の人間、うまくいかなかったことがあるそうです。ソヴィエト公演の時、彼女は「とてもあがってしまい、(バランスが)思うようにいかなかったのが心残り」と言っています(バレエの魅力)。 マーゴでも緊張するほど、このローズアダージョは、至難な踊りなのでしょう。

マーゴ・フォンティーンが世を去って久しいですが、この映像、彼女の妙技をたっぷり見られる逸品です。

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