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白鳥の湖」〜第三幕・黒鳥のパ・ド・ドゥ〜アダージョ:真忠久美子  (2011.11.12)
「題名のない音楽会」は、1964年から続いているクラシック音楽の老舗テレビ番組。この「題名のない音楽会」で、2005年に「バレエ人気作品ランキング」というテーマの放送をしました。全国のバレエ教室に通っている生徒を中心におこなったアンケート結果から20作品を選出したそうで、このいくつかを当時の新国立劇場バレエ団のダンサーたちがオーケストラの前で踊りました。その第1位が「白鳥の湖」でしたが、番組の一番最後に、真忠久美子とマイレン・トレウバエフが黒鳥のパ・ド・ドゥ〜アダージョを踊りました。
 
真忠久美子は、繊細なやさしい雰囲気で、目が大きくて可愛らしく、伸びやかな手足を生かした優雅で美しい踊りが魅力のダンサーですが、ステージでは緊張感のあまり「おや、音楽についていけないのかな」と思えるほど安定感に欠けて、思わず身を乗り出して「落ち着いて!!」と声をかけたくなることもあるほど、気の弱さを感じることがあります。 でも、これがかえって、「助けてあげたい」と思わせるような、初々しくて愛らしい彼女の魅力でもあると思います。
 
真忠久美子は、この番組の前半に「パキータ」、後半に「オディール」を踊ったのですが、パキータはとても楽しげに踊っていましたが、オディールでは、トリの重圧に押し潰されてしまいそうな緊張感がヒシヒシと伝わってきました。 パドドゥの出だしでは、出を待つまでの間ガタガタ震えていたのではと思わせるほど、表情が強張っていました。でも、笑みを忘れて、汗びっしょりになって懸命に踊る彼女に、思わず「頑張って!!」と声をかけたくなりました。 でも、こんな彼女を力強くリードするトレウバエフに、ダンスールノーブルとしての優しさを感じました。パートナーの「心配するな。俺が助けてあげるから・・・」と言っているような頼もしさに、 真忠久美子は、さぞ勇気付けられたことでしょう。
     
アダージョのアントレ、王子に支えられてのオディールのアティテュード・エファッセ・デリエールは、3回ともぴたりと決まりましたが、続く、横に手足を広げて王子にリフトされ、横に移動していく場面では、開脚が不十分に感じました。この場面、180度近く開いて体の柔らかさをアピールし、オディールのカリスマ性を強調して欲しいところです。終盤の見所、左膝をついて右脚を伸ばし、王子を引き付けておいて手で拒み、王子を翻弄するところは、淡々と踊ってしまって、やや物足りなかった。もう少し妖艶な色気が欲しい。最後のアラベスクパンシェ。支えの右腕がグラグラ揺れて、今にも崩れそうで、可愛らしい顔からは大粒の汗が吹き出し、表情が曇り苦しそうでしたが、懸命にグッと堪えて持ちこたえ、180度近くまで脚を上げてフィニッシュし、観客の大きな拍手を受けました。 この部分のパートナーのサポートは、適切で力強く見事でした。



「題名のない音楽会」のテレビ画面
踊り終わって、真忠久美子は、引きつっていた顔の表情がなごんで、パートナーに投げかけた微笑みに満ちた眼差しには「上手なサポート有難う!!」という感謝の気持ちに 満ちていました。 また、中盤から真忠久美子の胸や額からは汗が噴出し、必死にプレッシャーと戦っている様子がありありでした。汗にまみれて懸命に踊るけなげな舞姫の姿は何と美しいことか、ジーンと胸が熱くなりました。 

マイレン・トレウバエフは今でも新国立劇場バレエ団で踊っていますが、真忠久美子は、現在の新国立劇場バレエ団のホームページから名前が消えています。追いつき追い越され、容赦なく蹴落とされるバレエダンサーの世界。大好きなバレリーナだけに気になるところです。

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