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三浦友理枝:ショパン・エチュード   (2008.5.10)

三浦友理枝というアーチストを私は、つい最近まで知りませんでした。私がいつも読んでいる雑誌「The Mostly Classic」4月号の表紙のモデルが、一瞬、伊東美咲?、と思ったほど、とても可愛らしい女性だったので、誰??と、雑誌の説明を読み、初めて彼女が英国王立音楽院を主席で卒業し、ロンドンを中心に活動している新進ピアニストと知ったのです。彼女が既に2枚のCDをリリースしていることも知り、可愛らしいパッケージに惹かれて???、「エチュード」というタイトルのこのCDを購入してしまいました。
私は、モーツァルトを筆頭に普遍主義的な古典派の音楽が好きで、民族主義に影響されたロマン派の音楽は、とても美しいと思うけれど、情感過多に感じられるところがあり、古典派の音楽のように好きになれず、聴く機会もあまり多くはありませんでした。特に、ピアノの詩人と言われたショパンの音楽は、憂愁を帯びた繊細さがとても美しいと思う反面、それがかえって鼻につき、清涼感の中に心地よい暖かさの感じられるモーツァルトのピアノ曲に比べると、あまり聴きたいとは思いませんでした。従って、私のレコードコレクションには、モーツァルトは何種類もあっても、ショパンの曲は、ほとんど持っていないのが現実です。
そんな先入観のあったショパンのピアノ曲ですが、このCDを聴いて、認識が少し変わりました。ちょっと聴いたところで、ぞくっとした感じがしばらく止まらないぐらい鮮烈な音でした。何と粒立ちの良いピアノの音でしょう。一粒一粒が端正に響き、曖昧な音が全くないのです。録音の妙なのかもしれませんが、1つ1つの音がひんやりと透き通っていて、それでいて女性の手のようにしっとり優しく柔らかさも感じられる音なのです。一音一音に曇りがなく、旋律が極めて明確で鮮やかなのです。
「選曲については、ショパンが20代の頃のあるまとまった作品集を中心に据え、それを20代の私が弾くことで、10年後ではできない、今だからこそ共鳴できる何かを残せたらと思い・・・」と解説に載っていますが、彼女が選んだ曲は、20歳代だからこそ弾ける「青年ショパンへの思い」の音色を表現したかった曲なのでしょう。 エイベックスから出ているクラシックのアーティストというとヴィジュアルも重視されているイメージがあるのですが、CDのパッケージも、薄緑のバックの前での三浦友理枝さんのアップ。気品のある、とても良い感じのパッケージです。
 
最近、フィギュアスケートなどのスポーツを見て思うことは、日本人はまず技術を習得して、それが身についたら表現力をつけようとしているように感じられますが、アプローチの仕方としては、荒川静香さんのように、まず美しく表現したいものがあって、それを実現するためにはどのような技術を習得すればいいかと工夫するという人もいます。 その一つが「レイバック・イナバウアー」。バレエの4番ポジションのように、足を前後に広げつま先を外に向けて、背中を大きく後ろに反らしながら銀盤を横断するポーズ。 ジャンプ、スピン、ステップなどの技術点には反映されないにもかかわらず、本番でイナバウアーを加えて、自分のもっとも美しい姿を見せようというこだわり、大したものです。 バレエの世界では、私の大好きな吉岡美佳さんも、この表現力重視タイプ。いたずらに足を高く上げるなどの派手な技術を誇示せず、陶磁器のように清楚で、可憐で知的な気品溢れる美しさ中に、さりげなくキラッと輝く技術が素敵です。 俗に6時のポーズと言われる180度まで足を上げて、「凄いでしょ!!」と言わんばかりに技術を誇示する人も居ますが、エレガンスのかけらもなくて、好きにはなれませんね。バレエは曲芸ではなく芸術ですから、節度というものが必要です。 クラシック音楽の世界は、私にはわからないのですが、超絶技巧でピアノの鍵盤を叩きつけ、技術力に驚かされるだけで、何も感動がないという人もいます。 三浦友理枝さんに対する評価は知りませんが、このCDを聴く限り、技術に走る人ではなく、作曲家が意図した旋律と音色を忠実に再現しようとしていると感じました。 「青年ショパンへの思い」の音色を表現するために、無理に、一般に言われるショパンの憂愁を帯びた繊細さを求めようとせず、まずストレートに、素直にショパンを弾こうとしているように感じられたのです。 素直で誠実な演奏家だなと感じるところがあり、好感を持ちました。
「クラシックの若手美人アーティストブーム」の中にあって、とても可愛らしい美人女性だが故に、アイドル路線の売り出しだけで終わってしまわないよう、また、観客を意識しすぎて技術偏重に走らないように、表現力豊かな演奏家として、末永く活躍して欲しいと思います。

The Mostly Classic

CDのパッケージ


三浦友理枝の
Official Website

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