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バレリーナ・吉田都さんの写真集   (2001.12.2)
バレリーナ・吉田都さんの写真集が出ています。新進写真家、宮沢優子さんとビル・クーパーが写したものです。でも私は「写真」よりも彼女のエッセイに興味を覚えました。
 
世間では、吉田都さんは、熊川哲也くんや草刈民代さんよりも知られていないかもしれません。でも、吉田都さんは、世界に冠たるロイヤルバレエのトップダンサー=プリンシパルです。しかも、英国ではロイヤルの公演初日を飾ったり、公演ポスターに起用されたり、テレビ放映に選ばれたりのスターで、世界的な超一流ダンサーなのです。ロイヤルバレエという世界有数のバレエ団で、厳しい競争にもまれながら、プリンシパルの座を12年も維持してきたのは、並大抵のことではなかったでしょう。そんな彼女が自伝的なエッセイにまとめたのがこの本です。
 
彼女のエッセイの語り口は、とても謙虚で控えめです。自分の成功を、決して自分の力でここまで来たとは言っていません。両親、姉、バレエ教師、友人への感謝の言葉、自分にめぐってきた偶然の幸運・・・・。
でも、謙虚で控えめだけれど、やるべきことをやり、目標をしっかり持ったからこそ達成できたという、静かな自信に溢れています。
吉田都さんは、ロイヤルで舞台裏のスタッフに特に人気のあるダンサーだそうです。飾らない人柄、穏やかな物言い、日本的な思考から生まれる気遣い、これらが、個性の強い外国のダンサーの中にあって、ことさら好感を持たれているのでしょう。
こんな謙虚で控えめな性格だからこそ、吉田都さんの踊りは、テクニックを持ちながら、決してそれを押しつけがましく誇示するのではなく、優雅さと気品に溢れて、誰からも愛される素晴らしいものになっているのだと思います。
 
彼女はエッセイで次のように言っています。「バレエ団に入って、つまりプロとして踊るようになって一番感じたのは、自己管理の難しさです。ここではプロとして扱われるので、学校の時のように親身になって怒ってくれる先生も方向を指示してくれる先生も居ません。楽な方へ流れても誰も止めません。その結果、怪我をして、役を下ろされ、挙げ句、クビになっても、誰にも文句は言えないのです。チャンスも落とし穴も、同じだけ転がっているのです。ドライで厳しい世界です。
バレエに限らずプロの世界というのはそういうものです。それができる人でなければ、どの世界でもプロにはなれないでしょう。そうやってきちんと自己管理ができる精神的な強さを持つということは本当に大変なことだと思います。

吉田都さんの写真集「MIYAKO」(文藝春秋刊)
吉田都(文)、宮沢優子,ビル・クーパー(写真)
 
「また戦ってきま〜す!!」、 吉田都さんは、先日、NHKの朝の万田久子さんの番組「土曜オアシス」のインタビューを終えた翌日、こう言い残して、英国に向け成田を発って行ったそうです。順風満帆とさえ思える経歴の彼女の口から、「戦い」とは、意外な発言に思えました。でも、プリンシパルという地位、これを目指して他のダンサーが虎視眈々と狙っている。うかうかしていると蹴落とされてしまう。このためには、毎日毎日、厳しい訓練を続けるしかない・・・・・だから、「熾烈な戦い」なのだと思います。
我々を夢の世界にさそう優雅なバレエの世界にも、こんな厳しい現実があったのです。
 
別の本に、この「戦い」にも通じる、彼女がステージに立つ心境を記述した部分がありましたので、載せておきます。
「ステージに出る前は、いつも祈っています。無事に始まり、無事に踊りきることができますように、と・・・・」 ステージに上がるまで、吉田はすべてのことにベストを尽くす。自分でコントロール出来ない部分は、神に祈るしかない。オーケストラの演奏が始まる。吉田は、無心になって光り溢れたステージの中央に踊りでる。旋律ののった音符のように・・・(平井英里子氏、The Goldより)

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