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眠りの森の美女:上野水香、牧阿佐美バレエ (2003.12.23)
上野水香オーロラ姫全幕初挑戦の映像
上野水香がヒロインのオーロラ姫を踊った牧阿佐美バレエ団の「眠りの森の美女」のステージの映像がDVDで発売になりました。
2003年10月10日の公演の記録です。
このDVDの映像は初日の舞台です。この日の上野水香は、
私が劇場で観た日二日目(10月11日)よりも、
かなり表情が硬く感じられました。初めてオーロラ姫を踊るダンサーは、皆、相当の緊張を覚えると言われています。
パリオペラ座のエトワール、エリザベット・プラテルでさえ「オーロラの登場前の音楽、あの旋律はダンサーにとっては恐怖です。
初めて踊ったときは、足がすくんであやうく登場できなくなるところでした。第一幕の最後には、疲れ果てて気絶しそうでした」と言っているほどです。
オーロラ姫初演の上野水香さんが、極度に緊張したのも無理からぬことだと思います。
第一幕ロ−ズアダ−ジョ。4人の王子とのバランスの場面。各国から訪れた4人の王子からバラの花を受け取る間、
オーロラ姫はずっとポワントで立っていなければなりません。上野さんの表情がひときわ険しくなりました。
でも、まっすぐに伸びたポアントと、まろやかに円を描いた腕は気品に満ちてとても美しかった。
何より、真剣そのもの、歯を食いしばって懸命にバランスを維持ししている様子に、「決めるんだ!!」という意地を感じ、感動を覚えました。
ローズアダージョが終わってのレヴェランス。さすがにホッとした表情でしたが、満面の笑みというわけにはいかなかった。
まだ緊張が続いているのが伺えます。
第三幕グランパドドゥ。ウェストモーランドの振付は、ヌレエフ版に比べ落ち着いておとなしい感じですが、私はむしろこちらが好きです。
ただ、アダージョの見所の、3度のフィッシュダイブがなかったのはチョッと残念でした。
このパドドゥでも、上野水香は笑顔があまり見られませんでした。
むしろ、第一幕よりも表情が硬く、ネポロジーニとの息が合わないようなところもあり、ぎこちなさが感じられました。
でも、コーダが終わり、観客の拍手になかでのカーテンコール、初めて美しい笑顔がこぼれました。
ホッとした安堵感と初演の大役をやり遂げたという満足感にあふれた美しい表情でした。
ただ、上野水香は、私の「オーロラ姫」のイメージとはやや違います。
ゆうに180度まで脚のあがる体の柔らかさ、テクニックはあるし、バランスは素晴らしい。
でも、踊っているのは、「オーロラ姫」ではなく、「上野水香」という感じなのです。おそらく、コンクールだったら満点でしょうが、
全幕のヒロインとしては、チョット??と感じてしまうのです。
「上野水香」の踊りではなく、「上野水香の演じるオーロラ姫」を見せてもらいたいものです。
それに、上野水香は、ローズアダージョが終わったときも、ローズのヴァリエーションでも、幻の場面でも、そして最後のパ・ド・ドゥでも、
首筋から胸まで汗びっしょりで、流れ落ちるようでキラキラ輝いていました。
プレッシャーに負けまいと懸命に踊り、うっすら汗を滲ませているバレリーナの姿は、この上なく美しいのですが、あまり汗をかきすぎるのも考え物です。
主役以外では、リラの精の吉岡まな美、少し控えめな感じで、もう少し自己主張があっても良いかなとも思いましたが、
表情がとても豊かで、長い手足を生かした、ゆったりとした踊りは魅力的でした。
私が見た二日目の舞台では、フロリナ王女で見事なバランスの良さを見せていた、橘るみは、
この映像ではダイヤモンドの精で出演。軽快な可愛らしい踊りでした。
もう一人、伊藤友季子は、本当に素晴らしかった。彼女はプロローグでは、歌鳥の精、第三幕ではフロリナ王女で出演しましたが、
性格の違う二つの役を上手に踊り分けていました。
新国立劇場バレエ研修所第一期修了生だそうですが、
このDVDは、彼女の為にあると言ってもよいほど、この映像の伊藤さんは魅力的なのです。
可愛らしくて、初々しくて、一目でファンになりました。なによりも表情が豊かです。終始にこやかな笑顔でした。この笑顔を見ていると、こちらも幸せな気持ちになってしまいます。難しいポーズを決める時、一瞬見せるキリッと引き締まった表情がまた魅力的。
小柄でほっそりした身体に、ブルーのチュチュとピンクのトゥシューズがとても良く似合い、
丁寧な踊りに、可愛らしく気品あふれる魅惑のダンサーです。ヴァリアシオンを踊り終えて、「やった!!」と言わんばかりの笑顔が素敵でした。
パートナーのドゥガラーとの息もぴったりでした。
かつて、草刈民代が、小林紀子バレエシアターから移籍直後、フロリナ王女で注目され、主役を踊るようになりましたが、
伊藤友季子もぜひ、このフロリナ王女の成功を足がかりにして、才能を開花させてほしいと思います。彼女のオーロラ姫を楽しみにしています。
ともあれ、日本のダンサーやバレエ団の公演の市販ビデオは今までほとんどなかったのですが、
このところ、熊川哲也主演の「眠りの森の美女」や斎藤友佳里主演の「ドン・キ・ホーテ」などが次々に発売され、
今回牧阿佐美バレエ団の「眠りの森の美女」が発売されたことは、バレエファンにとってとても有難いことです。
チャイコフスキー「眠りの森の美女」
演出・振付:テリー・ウェストモーランド
オーロラ姫:上野水香、フロリモンド王子:ウラジーミル・ネポロージニー
リラの精:吉岡まな美、フロリン王女:伊藤友季子、ブルーバード:アルタンフヤグ・ドゥガラー
指揮:堤俊作、管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
2003年10月10日、ゆうぽーと簡易保険ホール
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