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シルヴィア〜パ・ド・ドゥ:森下洋子・清水哲太郎      (2007.3.5)
第1回日本バレエフェスティバル(1984年)

森下洋子・清水哲太郎の「シルヴィアのパ・ド・ドゥの映像があります。1984年の第1回日本バレエフェスティバルの記録で、NHKテレビで放送されたものです。
このシルビアはコッペリアで有名な19世紀にフランスの作曲家レオ・ドリーブが作った純潔の女神シルビアと羊飼いアミンタの恋物語ですが、コッペリアのように有名にならず、幻のグランドバレエと言われて忘れられていました。1952年フレデリック・アシュトンの振り付け、マーゴ・フォンティーン、マイケル・ソームス主演で上演されてから知られるようになりました。アシュトン、フォンティーンのコンビですから徹底的に優雅さを追求したようですが、奇才ジョージ・バランシンが技巧的な振りを加え、パドドゥの部分を現代的に作り直しました。森下・清水コンビによるこの踊りもバランシンの振り付けによっています。
森下・清水コンビは、この日本バレエフェスティバルでトリを勤めました。二人の前には越智久美子、大塚礼子、宮木百合子、、大原永子、川口ゆり子等、当時の第一級のプリマが顔を揃えていたのですが、森下洋子さんの踊りは、この人達の踊りより一回りも二回りも魅力的で、挌が違うということを見せつけられました。森下洋子さんの軽やかさ、ポーズの美しさ、そして回転の技術の確かさ、そのどれをとっても、誰も太刀打ちできないくらい見事でした。女性讚美と言われるバランシンが見たら大喜びしたことでしょう。
 
森下洋子さん、清水哲太郎さんとも当時が最も油ののっていた頃で、特に森下さんの技術の冴えは目を見張るものがありました。その意味でバランスの妙技あり、回転ありといった体力的にも精神的にもハードなシルヴィアのパ・ド・ドゥは、絶好調のこの二人のためにあるようなものだったと言っても過言ではないでしょう。その証拠に翌年の日本バレエ協会のシルヴィア全幕公演の主役には、この二人が選ばれています。まさか主役に選ばれたいと意識したわけではないでしょうが、森下さん、このステージでは、少し鼻につくくらい、何時もにも増してテクニックを誇示していたように感じられました。
まずアダージョでのアチチュード。抜群の平衡感覚でびくともせずに長〜くバランスを保ちました。コーダでも、全く軸足がずれずにグラン・フェッテをやってのけました。観客は大喜び、拍手喝采でしたが、私はあまり好きになれませんでした。バレエは曲芸ではなく芸術ですから、何もアクロバットのような技術を誇示する必要はないのです。むしろ不安定なバランスを必死に堪え、フェッテの軸足のずれを補正しながら、懸命に踊る舞姫の可愛らしさにひかれます。バレエの「瞬間の美」は今にも崩れそうな不安定さの中にあるのだと思います。シルビー・ギエムの完璧な踊りが、全く美しさが感じられないのも、優雅さのない技術偏重で曲芸的な踊りだからだと思います。とは言うものの、この頃の森下洋子さんのテクニックは凄かった。最近はさすがにこんなフェッテは回れなくなってしまいましたが、依然として平衡感覚は衰えず、長くバランスを保てるのは凄いと思います。
でも今でも森下さんが松山バレエ団の看板であるが故に、森下さんが踊れなくなった時の松山バレエ団が心配です。森下さんが偉大過ぎて次の世代が育たないということを言った人がいるそうですが、これでは森下さんが可哀想。森下さんが60歳近くになっても頑張らないとならないのは若手がだらしないから。新国立劇場バレエ団、東京シティバレエ団、谷桃子バレエ団・・・・と、松山バレエ団以外は、皆、世代交代が進んでいます。松山バレエ団ももっと若手が頑張って森下さんを早く第一線から解放してあげるようにしないと、バレエ団の先行きが不安です。

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