とても素敵な、森下洋子の黒鳥〜パ・ド・ドゥの映像がYouTubeに載っていました。
1989年にフィリピンでの全幕公演に森下洋子が客演した時の映像のようです。
森下洋子のオディールには気品があります。 オディールは悪魔ロットバルトの娘ですから、もっと悪魔を思わせる、色気のある、妖霊で、どぎつい踊りでないと・・・と言う向きもあるかもしれませんが、 私は、あまり誘惑!,誘惑!といった悪魔的なオディールは好きではなく、森下洋子のような気品のあるオディールの方が好きなのです。 私は彼女が牧阿佐美バレエ団にいた頃(1970年)に清水哲太郎と踊った黒鳥〜パ・ド・ドゥのビデオを持っているのですが、この時はまだ20代前半でキビキビした明るい笑顔の踊りがとてもチャーミングですが、 今回はアラフォーになって、しっとり感が加わって、より魅力的になった気がします。 |
アダージョでは、森下洋子はアティチュードやアラベスクの美しさが良さが光っていました。
特にアダージョ終盤のアラベスクのバランスは、息を呑む素晴らしさでした。
右足のトゥで立ったアラベスクのポーズでから、アンオーに挙げた手でパートナーの支えの手の指をしっかり握り、
十分バランスが確保できたところで手を離して独り立ちしグッと堪えます。
一瞬グラッと後ろに伸ばした左足が下がって、あわや!!と息を呑んだけれど、トゥで立っ右足首を小刻みに動かし必死に持ち堪えて立て直したのは立派。
歯をくいしばって長〜いバランスを維持し、大きな拍手を受けました。どんなに危うくなっても、それをのりこえて、見せ場を作れる精神力と技術は流石です。
シルビー・ギエムやタマラ・ロホがやるとバランスの長さだけが鼻について、わざとらしく感じるけれど、森下洋子のそれは気品があって美しい。
まさに崩れそうで崩れない不安定の安定の美。
ただ、最後の見せ場のアラベスクパンシェは120度程度しか脚を上げず物足りなかった。
優雅さが命のオーロラ姫では脚を上げすぎるのは下品とされてご法度ですが、悪魔のオディールでは、王子を誘惑するセックスアピールとして、
股が裂けてしまいそうな180度超の開脚も許されるので、180度とは言わないまでも、頑張ってもう少し高く脚を上げて欲しかった。
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女性の技が成功するか否かは、相手の男性如何にかかっているといっても過言ではないでしょう。
それほど、クラシックバレエの舞台で、サポートの相手の男性は、女性にとって重要な存在です。
ノニー・フロイランは、あのマーゴ・フォンティーンのパートナーを務めたこともあるとか。それだけ実力者なのでしょう。
こういう男性をダンスールノーブルと言うのでしょう。
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森下洋子は、バランスがとても美しいけれど回転も得意。コーダでの32回のグランフェッテはお見事。
軸が一切ブレずに本当に滑らか。「森下は、あり余る程の技術を持ち、32回のフェッテをあたかも10セントコインの上で廻るように実現した」との評を見たことがありますが、まさにその通りです。
なおグランフェッテでは、ダブルやトリプルを入れて技巧をアピールする人もいますが、森下洋子はオーソドックスなシングル回転。
かって前半ダブルを入れて、後半力尽きてメロメロ・・・となったダンサーもあったし、
冒険しすぎて失敗するより、無理せず確実に美しく回りきろうという森下洋子の堅実な踊りには納得です。
特徴的なのはコーダの最後。通常はシェネで舞台を一回りなのですが、森下洋子はエシャペ・シュル・レ・ポアントの連続で締めくくりました。
オディールが勝利を確信した歓びに満ちた表現で、こちらの方がふさわしいと思うのですが、この踊り方は、森下洋子と
マーゴ・フォンティーン、ゼナイダ・ヤノスキー以外見たことがありません。
エシャペ・シュル・レ・ポアントは、2番ポアントと5番ポジションの繰り返しの難しい技。
ゼナイダ・ヤノスキの高々16回、マーゴ・フォンティーンは精一杯頑張って、やっとこさ24回だったのに対して、森下洋子は一糸乱れず32回余りを軽々とやってのけたのには驚き。
森下洋子がいかに技術的に秀でていた証でしょう。なお、このエシャペ・シュル・レ・ポアントの振りは、森下洋子の牧阿佐美バレエ団時代の1970年のビデオにはないので、彼女が松山バレエ団に移った以降に、フォンティーンのパートナーを務めたルドルフ・ヌレエフから教授されたものかもしれません。
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