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くるみ割り人形〜多胡寿伯子版:西田佑子、柴田有紀    (2011.12.6)

年末近くなると、「第九」の演奏会と「くるみ割り人形」の公演がたくさん行われます。私もこの「くるみ」が楽しみで、毎年、見ることにしています。 「くるみ割り人形」の舞台は毎年各バレエ団が趣向をこらして演出するので、どれもが楽しいのですが、そんな中で、今年は「多胡寿伯子版『くるみ』」を見ました。 大好きな西田佑子が金平糖の精を踊ると知って、急いでチケットを注文したのです。 西田佑子の金平糖の精は、数年前にも見ましたが、小柄で、ほっそりとして、可愛らしく、まさにお菓子の国のプリンセスそのもので、 美しい踊りにとても感動したのを覚えています。
 
一般的な「くるみ割り人形」はオリジナルのレフ・イワーノフ版を改訂したものがほとんどなのですが、この「多胡寿伯子版・くるみ割り人形」は、多胡寿伯子によって、改訂版というより、ほとんど作り直されたという感じでした。音楽は生の演奏ではなく録音だったのですが、序曲では舞台に指揮者の影絵が映し出されました。
 
第1幕、クララは、ジャンパーにジーパンという現代的なスタイルで登場。独り寂しく街を歩いていると、謎の紳士に誘われて夢の世界に連れて行かれ、ドレス風のバレエ衣装に着替えます。 クララを踊った谷口友花は、技術的にはチョットという感じもしましたが、とても可愛らしかった。 普通、第1幕は退屈するのですが、今回そうでなかったのは、多胡寿伯子の演出の妙に加えて、劇団四季出身の沢木順のドロッセルマイヤーの演技によるところが大きいと思います。
 
第1幕最後の雪の国のシーンでは、柴田有紀が雪の女王を踊りましたが、これがとても魅力的でした。 柴田有紀は、牧阿佐美バレエ団プリンシパル、新国立劇場バレエ団登録ソリスト、Kバレエカンパニーソリストを経て現在フリーとして活躍しているのですが、 牧にいた頃から、どちらかというと、繊細で真面目な人のようで、楚々とした大人しい印象でしたが、今回は、生き生きとして、雪の女王を思う存分踊りきったという感じでした。 踊りがきれいで指先まで神経が行き届いているし、何と言ってもスタイルがいい。 アダージョでは黄凱と見事なパートナーシップを見せていたし、コーダでは、難しいイタリアンフェッテもグランフェッテも破綻無くこなして、大きな拍手を受けました。
 
第2幕最初は、クララとドロッセルマイヤーがアクアラングをつけて海に入っていくという奇抜なシーン。 発想としては良いのですが、違和感を感じました。ただ、ここでも柴田有紀が眠りの精で出ていましたが、これはとても美しかった。 いつか、主役を踊る柴田有紀を見てみたいと思います。
また、第2幕には、ヘンゼルとグレーテルのエピソードが挿入されていましたが、これは余計な気がします。 いくら作り変えたといっても、「くるみ割り人形」と全く関係のない物語を挿入するのはどうかと思います。
第二幕の最後、「金平糖のパ・ド・ドゥ」。西田佑子の金平糖の精、出てきただけで舞台にパッと花が咲いたよう。華やかさが他のダンサーと全然違います。
西田佑子と齊藤拓のグラン・パ・ド・ドゥは、なかなか見応えがありました。西田佑子の静かで端正な踊りは魅力的。 踊りと演技がきちんとハマっていて、彼女の踊りから台詞が聞こえてくるようなで、味わい深くて役柄への深い理解を感じました。 アダージョ終盤のプロムナードでは、支えの右腕がギクギクと不安定になりながらも揺れを必死に堪えてバランスをとり、アラベスクパンシェでは、齊藤拓に支えられて150度近くも足を上げて、懸命に踊りぬいた姿に感動。
バリエーションでは、甘いチェレスタの調べにのって柔かな美しい踊り。 コーダでは、軽快なピルエットとシェネにダイナミックなグランジュテ。フィニッシュのアラベスクパンシェも齊藤拓のサポートでピタッと決まって満面の笑み。 「お見事!!」。ブラボーの嵐でした。踊り終えて大きく波打つ胸や首筋には汗が光っていました。 汗にまみれて懸命に踊りぬいたバレリーナの健気な姿に、思わず胸が熱くなりました。パートナーの齊藤拓も素晴らしい身体能力を垣間見せ、のびのびと踊っていたし、西田佑子のサポートもうまかった。 私は西田佑子の舞台は幾度か見ているのですが、数年前の金平糖の精より、彼女は一回りも二回りも大きく成長したように感じました。 7年ほど前、プリマとして将来を保障されていた法村友井バレエ団を飛び出し、あえてフリーという厳しい道を選んだ西田佑子。 バレエ教師をしながら、コンクールにも挑戦して腕を磨き、 多くの公演に客演して着実に成果をあげてきた彼女の勇気とたゆまぬ努力に敬服します。 インタビューでの「舞台に立つ前どんな事を思いますか?」と聞かれて、彼女の言葉が印象的でした。「舞台はいつも逃げ出したい気持ちなので、『よし、やるしかない…』と自分を送り出しています。 自分の今のベストをイメージし、客席で観てくれてる人の気持ちをイメージし、そして、大きく呼吸をして出て行くかな。舞台はいつまで経っても怖いです。
構成は、オープニングパフォーマンスとしてロイ・トバァイアスのメモリアル上演作品が4演目あり、そこから「くるみ割り人形」、最後はカーテンコールで沢木順がクリスマスソングを歌うという内容でした。 この「多胡寿伯子版『くるみ』」公演は、例年は、オーケストラ付きだそうですが、今年は、諸般の事情によりオーケストラは無しにしたとのこと。 今年は、東日本大震災という悲しい出来事もあったことですし、いたし方ないでしょう。来年は是非オーケストラ付きで上演して欲しいと思います。 ともあれ、西田佑子と柴田有紀という、今が旬のバレリーナの最高の踊りを一度に堪能できて、とても得した気分になり、気持ちよく劇場を後にしました。
 
  くるみ割り人形〜多胡寿伯子版
  [出演]柴田有紀:雪の女王、くるみ割り人形:黄凱、
     金平糖の精:西田佑子、お菓子の国のプリンセス:齊藤拓
     ドロッセルマイヤー:沢木順、クララ:谷口友花
    12/4 ゆうぽうとホール(五反田)

西田佑子・齊藤拓     柴田有紀・黄凱
公演のプログラムより

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